第百話 各所の判断
夕方になり帰り支度を始めているフェドセイの元へゴルドナの副司令のカルスが尋ねてきた。只事では無い様子だったので近くにいたチムールと共に応接室で対応をする。話し合いが終わった後、チムールと少し話してからまだギルドに残っている職員を全員集めた。
「今日から暫くの間は通常の仕事は一旦中止だ。魔族がかなりの数でこの街に迫っているそうだ。まず手分けしてダンジョンにいる冒険者達を呼び戻せ、それとこの街にいる冒険者にも伝えて朝一にここのホールに集まるように伝えろ、B級以上は専用の部屋に来させるようにな」
ギルドの職員は泣き言一つ言わずにフェドセイの指示通りに動き始めそれぞれの職員が散らばって行く。
街の中にいる人たちにはギルドより先にカルスより地区長に知らされ、それから各家庭に伝わり始めているので、直ぐに逃げ出す者や様子を見る者に別れている。只し状況は悪くなる一方なのでこれからはオルガアーチ村や王都に向かうものがかなり増えるだろう。
民衆が大勢移動を始めるとこの事が国中に広まってしまうが、司令官のボーイェンはそれも致し方ないと考えている。とてもでは無いがこの街が安全だと言う事は出来ない。
真夜中になり王都の宰相の元へ二回目の使者がようやく辿り着いた。時間が余りにも非常識な時間なので門番は使者を追い返そうとしたが、使者はその門番を押しのけて家の中に入って行く。
「おい、いい加減にしないか、ここを何処だと思っているんだ」
「宰相に火急の要件だと伝えてあるはずだが」
「貴様、いいか、無理やり侵入した事は見逃してやるから朝に出直してこい」
「ゴルドナに魔族が三万の軍勢で明後日には到着するだろう。それなのに朝まで待てと言うのか」
言葉の内容を理解した衛兵は宰相の元へボーイェンの紋章が封蝋された手紙を届ける。宰相であるゲープハルトは寝ている所を起こされかなり不機嫌ではあったが、手紙を読み終えると顔色が一気に青白くなり、王の住む城へと供の者と一緒に馬を走らせた。
宰相は王の寝室まで真っすぐに行ったが、寝室の中に入る訳にはいかないので供の者に声を張る上げて起こすように命令を下した。何度目かの声でようやく重たい寝室の扉が開き始める。
「何だ一体、夜明け前ではないか」
「我が王、申し訳ございません。ゴルドナより緊急の知らせが来ました」
ゲープハルトが差し出した手紙を王は無造作に受け取りながら読み始める。全て読み終わらない段階から王は全身に震えが走り立っていられなくなった。
「ゲープハルトよ、これは本当の事なのか
「監視塔の兵士からの情報ですがこれは事実だと思います。仮にこんな嘘をついて軍を動かしたのであれば、一族すべての首が刎ねられますので」
「ゲープハルトはどうすべきかと思うのか」
「まずは王都にいる兵士の全てをゴルドナに向け派遣し、さらにベイル王国との密約を破棄して待機している兵士達もゴルドナに向かわせるしかないかと、それでも間に合うかどうかだと思います」
国王は少し廊下を歩いた後で窓際の椅子に腰を下ろす。
「間に合わなければどうなる」
「ゴルドナが陥落していればこの国が魔族に滅ぼされるか、他国の侵略を受けるかの二択だと思います」
国王は窓の外を見ながら暫く考える。今は太ってしまい見る影もないが二十年程前は軍隊に所属していて、実力で将軍になっている。徐々にではあるがその時の活力が戻ってきているようだ。
「よし分かった、戦争なんか取りやめだ。直ぐに引上げさせそのままゴルドナに向かうように指示を出せ、王都にいる兵の半分は直ぐにでもゴルドナに向かわせ、残りの半分はゴルドナから逃げて来るであろう民衆の受け入れ準備を始めろ。宰相はここで王都を守ってくれ、私は戻って来る本隊と共に王子を連れてゴルドナに向かうとする」
「私が行きますので、我が王が王都に留まって貰えないでしょうか」
「ここにいても、向こうにいても危険は大して変わらん。少しでも兵士を鼓舞し魔族を退けて見せる。ゴルドナの城壁だったら魔族ごとき本隊が着くまでは耐えられるだろう」
宰相は王の判断にかなり驚いていた。三十代で前王が亡くなり王位についてから欲にまみれ、それまでの功績を台無しにしていたが、今はこの危機的な状況になって当時の王に戻りつつある。手紙には書かれていない民衆の動きまで予測するとは感動すら覚えてしまう。
陽が昇りギルドのホールの中は集められた冒険者で溢れかえっている。既にこの街がどういう状況なのかを把握していて混乱状態になっていた。
ようやく大台に乗せる事が出来ました。




