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第九十九話 絶望はすぐそこに

 ゴルドナに狼煙が確認されたとほぼ同時刻に王都にある参謀本部に、「中間の地」で異変が起こった事が報告され、宰相のゲープハルトは独断で判断しペガサスでその場所を上空から偵察するように指示を出した。すぐに使者がゴルドナに向かって行く。現在の国王は数日後に開戦される予定の侵略戦争に意識が言っているので、憶測でしかない報告を国王にしても一蹴されてしまうと判断下からだ。


 狼煙が上がったと報告を受けたボーイェンは直ちに城壁の前に全兵士を集めた。僅かな時間で集合した兵士は誰一人として言葉を発せずにボーイェンの話を待っている。ボーイェンは兵士全員が見渡せる台の上に立ち、全員に聞こえる様に大声で話始めた。


「今、空に見えている狼煙は決して訓練では無い。正確な数は不明だが禁止地区の中に魔族が現れ此方に向かっているようだ。もしここが目的地だとしたらこの人数で魔族と立ち向かわなければならない。だが魔族の連中が何千こようとも我々はこの城壁がある限り守り抜く事はたやすい。数日籠城すれば王都から援軍が駆けつけ魔族を滅ぼすだろう。まだ魔族が来るまで時間があるので迎え撃つ準備をするんだ」


 恐怖に震えてしまう者や魔族と戦いたくて興奮する者など反応は様々だが、兵士の誰もが心の中で理解している事が一つだけある。それはこのゴルドナが陥落されてしまったら、もうアルゴ王国の未来は暗い者になってしまう事を。


 ボーイェンは作戦本部を城壁に近い隊舎に移動させ会議を始めようとしたが、一つだけ席が空席になっている事に気が付き副司令のカルスに尋ねた。


「誰がまだ来ていないのだ、時間が無いというのに」


「実はエリアスが見当たらないです」


「あの子爵か、おいっ誰か早く連れて来い」


 勝手に始めてしまったら後で何を告げ口されるか分かったものではないので、ボーイェンは会議を始めるのを我慢している。すると兵士が慌てたように会議室の中に駆け込んできた。


「報告いたします。エリアス様は火急の用事があるとの事で王都に戻られるそうです」


 会議室に嘲笑が響き渡ったが、ボーイェンだけは怒り、その兵士に向け怒鳴った。


「大至急連れて来い。抵抗するなら痛めつけても構わない」


 貴族とはいえ、幹部が逃げてしまったら部隊長をやっている数人の貴族も逃げ出してしまうだろう。これを許してしまったら統制が取れなくなってしまう。この事態は笑って許せる事ではない。


 会議は順調に進んで行き、残りは監視塔から帰って来る兵士の情報で行動を開始する事になった。王都には勿論もう一度救援要請をするし、ギルドにも協力を願う事になるかも知れない。民衆には地区長を集めて副司令のカルスが対応に当たっている。籠城の作戦も指令書を見ながら何度も確認をした。ひと段落した頃にエリアスを確保したとの一報が入ったので隊舎の前にいるエリアスに幹部達は合いに行く。


「縄を解く様に言えよボーイェン、この事は見逃してやるから早くしろ」


「貴様は今の状況を理解しているのか、何故そのような口の利き方が出来るのだ」


「平民のくせにでしゃばるな、お前はお飾りの司令官なのだから俺の命令を聞け」


 幹部たちもエリアスの馬鹿さ加減に呆れてしまったが、敵前逃亡の大罪を堂々と起こそうとしているこの貴族をどう処理するのか注目している。


「言う事はそれだけか、貴様の一族にはちゃんと首を届けてやるから安心しろ」


 ボーイェンは剣を振り上げ首を落とそうとしたが、エリアスは縛られた両手を顔の前に出しながら命乞いをしているので、空いている心臓目掛け一突きにした。


「この死体を兵士達に見える様に晒して置け、敵前逃亡は誰でも処刑すると看板に書いておけ」


 ボーイェンは兵士に指示を出しエリアスは城門の脇に晒された。それを見た平民の兵士はつばを吐きかけたり、石を投げたりしたが、逃げようとしていた貴族の兵士達は震えあがっていた。それでも五人の兵士が逃亡を図りエリアスの隣に晒される事になる。


 五人の中には小隊を率いる貴族が四人も含まれていた。その日の昼過ぎに城門を飛び越えて隊舎の前にペガサスが降りてきた。その一報を聞いたボーイェンは彼らの前に駆け寄って行く。


「どういう状況になっているんだ」


「報告致しますが、出来れば少ない人数しかいない場所で報告をしたいのですが」


 監視塔の兵士達にただならぬ気配を感じたので、幹部達と監視塔の兵士のみが一室に集まりそこで報告を受ける。


「それでは報告致します。魔族はサイクロプスやトロール、オーガの姿を確認致しました。数は大体三万はいると思われます。奴らの進行速度から推測致しまして早くて明後日にはここに来ると思われます」


 その衝撃の報告に誰もが言葉を失ってしまい、沈黙の時間が流れた。暫くして沈黙を破るようにボーイェンが口を開く。


「とてもでは無いが口頭では報告が出来ない。カルス、至急文書にして王都に届けさせろ。君達は暫くこの隊舎から出るな。こんな事が広まったらどうなってしまうんだ」


 監視塔の兵士達が別室に行った後でボーイェンは改めて幹部達に向かって話始めた。


「最悪な状況を聞いてしまったが、一日でも長くここで魔族を足止めしよう。国王がどう判断するか分からないがこの場に及んでも戦争を始めるようならこの国は滅ぶだろうな、それと兵士達には数の事は決して言うなよ、お前はギルドに要請しろ機密費は全部吐き出しても構わない。民衆は順番に避難できるように指示してくれ、俺達はここで死ぬだろうがせめて民衆は一人でも逃がそう」


 人間側は愚かにもこの二百年で昔よりさらに国を分断させてしまった。城壁だけで安心していたツケが今ここに来てしまっている。

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