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1008A:陸軍人は無能のようでいて、侮れない鋭さを持っている。

「日野さん。では、線路に細工の類はなかったということですね?」


 現場を処理した陸軍人にそう問いただすと、彼は確かに首を縦に振った。


「ええ。線路にもし細工が成されていたら、少なくとも我々鉄道聯隊の人間はわかります」


「どうしてです?」


「リットン調査団に学びましたから」


 彼は冗談なのか本気なのかわからない、極めて陸軍人的な笑みを見せた。ここにきて、彼が本当に陸軍人であることになぜか井関が安堵した。


「では、土砂崩れの痕跡などは?」


「それもありませんでした。線路は、機関車によって破壊された以外は極めて綺麗でした」


 つまり、線路は暴走した機関車が差し掛かるまで極めて問題の無い状態であったということだ。これは井関達の頭を大きく悩ませる。


「じゃあなんで脱線したんだ」


「速度が出すぎていたんだろう」


「なんで速度が出すぎていたんだ?」


「そりゃ……。機関士がそもそもゲリラに攻撃されたとか?」


 笹井はもう訳が分からないといった表情で、適当な仮説を並べ立てる。


「要領を得んな。井関、お前はどう思う」


 小林の言葉に、井関も渋い顔をする。


「今の段階では何もわかんないよ。ただ、ボクはその手がかりが隣の駅、つまりこの坂の上にあるんじゃないかと思うんだ」


 井関はそう言いながら、峠の頂上を指さした。


「隣……というと、瀧ノ沢駅か」


「そうだ。そこに行けば、事故直前の事故列車の様子がわかるだろう」


 なぜなら、事故列車が最後に人目に触れた場所のはずだからだ。と井関は言う。


「では、瀧ノ沢駅に行こう」


 そこまで言われると、水野はともかく小林にも断る理由はなかった。


「おい、ちょっとまて」


 だが、笹井だけはこれに反対した。


「みんなどうしちまったんだ。そもそもこの件はテロで決まりだったじゃないか。なぜ、そんな本腰を入れて調査をする必要がある」


「なぜって、今の状況でテロを裏付ける証拠はあるのか?」


「そんなことどうだっていいだろうと言っているんだ。なあ小林、お前も最初はそう言ってたじゃねえか」


 笹井のそんな言葉も、しかし小林は受け入れるつもりはない。


「確かに最初はそう言った。だが俺は今、この事故の顛末が気になる。現場の人間があそこまで我々に反抗した理由、この事故に隠された真相を、俺は知りたい」


 そう堂々とした態度で言い放ちつつ、同時に小林は背を丸めて小さくつぶやいた。


「……そして、この事故の原因が俺ら職員局にあったらと思うと、それが少し怖い」


 この恐怖を取り除くためにも、確かな真実が欲しい。小林はそれをはっきり言った。

 それを聞いてなお、笹井は渋い顔をしている。そんな笹井に、井関はいつものニヘラ笑いで宥めすかした。


「まあまあ、坂を登ればテロの確固たる証拠が見つかるだろうと思うよ。なんせ、この状況下でゲリラが何かをしたとなれば、その現場は瀧ノ沢駅しかありえないからね」


「なぜだい?」


「瀧ノ沢駅は峠の頂上にある駅だ。つまり、事故列車はそこまで坂を無事に上ってきたということになる。そして下り坂へ差し掛かり、事故を起こした。なら、仕掛けるポイントは瀧ノ沢駅しかないだろう?」


 そう言って笹井の肩をバンバンと叩く。笹井はようやく、承知したと言った。


「わかった。じゃあ、瀧ノ沢へ行こうじゃないか」

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