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1007A:特殊というものは、男心をくすぐるようでいて案外に面倒くさい

 井関達は再び事故機(EF16 51)の前―――それはすなわち、事故現場付近の奥鈴谷駅―――にやってきた。


「もういちどこの車両を見て終わりにしよう」


「事故現場は行かなくていいですか?」


「いいよぉ。寒いし」


 井関はケタケタ笑いなが事故機の運転台へ入る。


 事故機はぐちゃぐちゃにはなっているものの、全体としては原型をとどめていた。崩壊したのは、まさに運転席、つまり死亡した機関士のいたまさにその場所だけであった。


「何も残ってないね」


「この状況から何がわかるっていうんだい?」


 笹井は面倒くさそうにそう言うが、しかしここで水野があることに気が付いた。


「先輩。回生ブレーキが動作していた痕跡があります」


「なんだって?」


 井関は驚いて水野が指さす方を見る。すると、確かに回生ブレーキが投入されていたことを示す位置にあった。


「ちょっとまて。回生ブレーキとはなんだ」


「この危険な下り勾配を安全に下るための特殊ブレーキだ」


「前に言っていたヤツだな。それが動作していた痕跡があるということか」


「ああ。このハンドルを”回生”と書かれた位置に合わせると、回生ブレーキが動作する仕組みになっている」


 ハンドルは二つ。回生ブレーキのスイッチを入れるハンドル”逆転機”と、回生ブレーキの効き具合を調整する”マスコン”。

 そのどちらもが、ブレーキ力をフルで出せる位置にあった。


「ということは、この機関車は事故の直前までブレーキをかけようとしていたということか」


「そうなるね」


 井関は何の引っ掛かりもなくそう言ったが、自分の言葉であることに気が付いた。


「ちょっと待て。では、なぜこの列車は脱線したんだ?」


 自身に課せられた使命でありながら、今の今まで忘れ去られていた問い。そもそものこの事故の原因。

 水野も急に変な顔をする。


「そう言えば、それがわかりませんね。ブレーキをかけ続けていたのなら、列車は暴走しないはずです」


 なぜなら、ブレーキは故障しておらず、ブレーキが所定の性能を発揮したのなら確実に停止ないし減速できるはずだから―――。水野の言葉を聞くまでもなく、井関はそのことを理解している。


「となると、我々が出した結論はそこまで間違っていなかったということになるぞ?」


 井関達は一度この機関車を見て回ったうえで、ブレーキに一切の故障が無かったことを突き止めた。そして、ならばG事案以外に事故の原因が見当たらないとして、報告書に終止符を打ったわけである。


 そしてこの場に来て、その結論は更に強化されたように見えた。


「もしかして本当にG事案なのか?」


「そうならそれで都合がよい。どれ、ならばいっそ、本当にG事案である証拠を探してみようじゃないか」


 笹井がいやにやる気をだしてそんなことを言い出したものだから、井関も面白くなる。


「じゃあまず、もう一度事故の状況をあの陸軍人に問い質そう。それで何か見えてくるかもしれん」

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