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1004A:これで事故調査は終わり! ボクがそう言ったら、そうなんだよ

鉄道のレールとは、極めて微妙なバランスの上に成立している。もし、この均衡が崩れたら?

それを、意図的に引き起こしたとすれば?

「さて、東京に事故が解決したという電報を打とうと思う」


 奥鈴谷駅から小沼という駅まで帰ってきた。この小沼駅は豊真線の拠点となる駅で、鉄道マンの為の宿泊設備もあった。

 井関達はそこに寝泊りさせてもらえることになったのだ。


 そして、事故の犠牲になった機関士―――運転手のことである―――は、この小沼駅と直結した「小沼機関区」に所属していた人物であった。

 どうやら総裁は、この小沼機関区でゆっくり事情を聴取できるように、配慮してくれていたらしい。


 だが井関は、そんな配慮など知らぬふりをして、割り当てられた雑魚寝部屋の片隅で寝転がりながらそんなことを言い出した。


「まて、電報を打つ前にこれがどういうテロだったか決めなければ」


 笹井は、布団に入りながらゴロゴロとしている井関を足蹴にしながらそう言った。


「おおそうだ。でっち上げるにしても、ストーリーが必要だ」


 井関は思い出したように飛び起きて、考え出す。しかしいいアイデアが思い浮かばず、水野の方に目線を向けた。


「先輩、事故現場の線路の釘が抜かれていたことにしましょう」


「線路の釘? それが抜かれた程度で脱線なんてするのか?」


 笹井がその意見を問いただす。すると、便所から戻ってきた小林が呆れたように声を出した。


「実際にあるぞ。笹井、お前さん知らんのか?」


「え? 本当にそんな事例があるのか?」


 本当に何も知らないというような顔をする笹井に、小林はため息をつきながら教えてやった。


「ああ。たしか北方のどこかの路線で、パルチザンが線路の犬釘を抜いて、その上を通った列車が脱線した事件があったな」


「詳しいですね小林先輩」


 いつもは物静かな小林がぺらぺらと、それも管轄外のことをしゃべるものだから、水野は少し驚いた。


「職員局にはこんな話も飛び込んでくるんでね。水野君が持っている情報は、だいたい持っていると思うよ」


「そうだったんですね。私の所属する運転局だけの話題なのだと思っていました……。では先輩、樺太では最近人材不足が問題になっているということもご存じですか?」


 おだてられてちょっと得意げな小林だったが、水野の次の言葉で急に冷や水を被ったような顔になった。


「人不足? それは聞いてないな。具体的にどこのセクションが言ってくるんだい?」


「今回の事故で亡くなった機関士が所属していた”小沼機関区”ですよ」


「小沼機関区!? って、ここじゃないか」


 笹井はびっくりして飛び起きた。窓の外には”小沼駅”と”小沼機関区”の看板が見える。それをしげしげと見つめながら小林は言う。


「じゃあ、今ここは同僚を喪って、さらなる人手不足に直面しているわけだ」


「そう言うことになりますね。……我々の力不足を感じます」


 一転、水野は顔を曇らせる。


「なぜ、君が責任を感じるんだ?」


「私の所属する運転局は、機関士や車掌など乗務員の職場環境を整えるのが仕事です。もし、この事故が本当は人員不足によって引き起こされたものだとしたら……」


 水野はそう言って顔を蒼くさせた。


「必要な人員をそろえることができなかった君のせい、だとでも思っているのかい? 馬鹿言うんじゃないよ。職員人事を決めるのは俺ら職員局の責任だ」


 小林はそう声を荒げて否定した。


「君ひとりのセイなわけがあるか。もし君に責任があるのだとしたら、俺にも責任がある」


「そうだぞ水野君。そもそも、樺太地方は慢性的な人手不足だ。男はみんな戦争で死んじゃったから、女子供が男仕事を受け持っていると聞く。時勢だよ、これは」


「君たち、ウルサイぞ。これは事故じゃない。パルチザンというテロリストどもによって起こされたG事案だ」


 だから、この話はこれで終わりだ。井関はそうピシャリというと、それっきり黙ってしまった。

 そして電報の原稿を書き上げると、雑用係を呼び出して電報を総裁に送るように命令した。


「これでいいんだ。さ、事件解決、酒でも呑もう」


 井関はその勢いのまま、浴びるように酒瓶をひっくり返し始め、そしてそのまま夢の中の人となってしまった。

樺太はあまりの寒さでコメはおろか小麦ですら栽培が難しい。ここでの主食は、おおむね大麦である。

 余談だが、樺太は泥炭が豊富である。

 大麦と泥炭に恵まれた樺太。すなわちウイスキーがおいしい土地だ。

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