再始動
ひらがなでしか喋れない人物は今後も登場します。読みにくいと思いますがその人物の年齢を加味した形がこのような表記となりました。予めご容赦ください。
俺は、死んだ。あっけない終わりだった。後ろから刺されて死んだ。
妹を、守らなくては……。
これで終わり、すべて。俺は……。
死ねない、まだ…俺は………生きたい―
「…」
ここは、どこだ?…息が、息が苦しい!
「―ふぁあ!ふぁあああ!!」
「生き返ったぞ!早くタオルを!!」
「はい!」
なんだこれは。俺は今、どこにいるんだ。青い布の奥に見える白い壁、この男たちの服装、ここは病院か?俺は助かったのか?
しかし、何か体が…おかしい?
手を動かそうとするとやけに動かしづらい、治療の影響だろうか。それでも何とか動かして、気づいた。
「!」
俺の手は、以前とは見紛う外見となっていた。
何だこれは、俺はどうなってしまったのか。
ここは何処なんだ。
あの後俺はどこかの施設に預け入れられた。どうやら俺には親がいないらしい。病院の前に放置されていた瀕死の赤ん坊、それが俺だ。
だが、『俺』ではない。『俺』はギア=ドール。この国の王である父の三人目の妻の息子。この姿になるまで俺は王族だったのだ。王国転覆を企て、あっけなく父の差し向けた刺客によって殺された。享年15歳だ。
「よしよし、可愛いわねえ」
それにしても、ついさっきまでは15歳だった感覚があるためなんという体だ。動きづらい。
飯も一人で食えないというのはなかなかに不便だ。
「それにしても本当に泣かないわねえ、偉い子だけど不安だわぁ…」
「ほぎゃ…」
「おーよしよし。今行きますよー!」
…自我が残っている以上女の前で泣きづらい。女は俺以外の施設の赤ん坊の所に行った。用件があれば泣いて知らせる、それだけで十分だろう。
「ねえ、王子様のこと、聞いた?」
「ああ…使用人のせいで亡くなったって、だからあんな犯罪者……そう考えればギア様も大変だったわよね」
ここにいる女たちはよく社会情勢を教えてくれる。やはりこの年位の女はそういった話が好きなものだ。
どうやら、俺が死んだあと俺の従者であったリンにすべての罪がかぶせられた形で今回の反逆は終息したようだ。なんでも、リンが俺やシエラを反逆へと先導したとか。そしてリンは投獄された。シエラは騒動に巻き込まれた被害者として保護されたらしいが…それは名目で本来の目的は反乱分子の監視だろう。
全て父の思い通りに事は進んだ。腹立たしい限りではあるが、今の俺には何もできない。
リンはもう随分昔となった『イーストショック』により史上最悪の戦犯国の烙印を押された東洋を出身とする、俺の騎士だった。…正確には使用人だが。そんな立場のリンだったのだからこうなるのも仕方がないといえる。だがその場合シエラはだれが守るんだ。世間では被害者でも実際は反逆者の家族であるシエラにとって王宮内にはもう誰も頼れる人物はいない。
シエラは俺の愛妹であり俺がすべてをもってして守るべき存在。今回のような事態があったときにシエラを守るということもリンと約束していたのだが…リンが罪人となってしまっては無理な話。くそ、俺だけがのうのうとこんなところで、こうしている場合でないのに……!
「あっ、テレビで放送されるって、今つけるわ!」
「あら…思っていたより子供ねえ、良くもまあ王室仕事続けていられたわね」
「噂によると、相談役としてらしいわよ、年も近そうだし…それであることないこと吹き込んだのでしょう。ギア様も子供だったから、騙されたのよ」
テレビの放送を見る限り、あることないこと全て尾ひれをつけて何度も繰り返している。リンが悪いというように。なるほど、この機会に今回の件のみならずついでに蓄積されてきた王室の汚れ全てをリンに背負わせるつもりか。何もできない自分が憎らしい。どうすれば…。
テレビの中のリンは麻縄で後頭両手縛り、目隠しをして首に鉄の枷をはめられ鎖で引かれている。かなり屈辱的な様だ。あの時から着替えさえまともにさせてもらっていないのか変わらない傷ついたままの服がその悲壮感をより濃くしている。
「これがこの度の事件の首謀者、リンである!」
「手前が消えろ!」
「王宮に置いてもらっている分際で!処刑だ!」
テレビの中では、リンに石やごみが投げつけられている。リンがどういう顔をしているのかはうかがえない。
「陛下がいらっしゃる!静かにしろ!!」
その声とともに、スン、と音が消える。リンは玉座の前へと連れていかれた。
瞬間、盛大な拍手が巻き起こった。奥の扉から金銀の装飾をふんだんに纏った王がやってきた。あれが俺の父親だった。ろくな王ではない、平然と息子を殺せる位なのだから。
「…」
大仰に座り、肘をつくその不遜さにも王の風格が漂っている。流石場数をこなしてきた大人は違う。
「王よ、この大罪人をどうされますか?」
「…」
この国の人間の生死はあいつが決める。法律などあって意味をなさない。傲慢。その言葉がふさわしいだろう。あいつが手を振り下ろせば数秒後にはリンの首が飛ぶ。
何て軽い命なんだ、俺たちは。
「生かせ」
「はい!では―…え?」
「リン、と言ったな。東洋人」
「…」
「王がお前に聞いておられる!早く答えろ!!」
「…はい」
「貴様を殺すこともできる、しかし、殺さないこともできる」
「……ふぅ、我が国は多くの国に今か今かと命を狙われ続けている。お前の功績は聞いている、白羊宮と天蠍宮を相手に、十二分に立ち回ったそうだな。並の使用人ができることではない、見事であった」
「王!本気ですか!?」
「我が国には人材が足りない、弾除け程度も殺すのが惜しい。リンよ、お前を許そう。だが、殺さないのではない。お前がこの現状を維持し続ければ私はお前を次の戦いで最前線に送りそこで殺す。それに、私は手を下さないが……ギアはいない、生きたければ、自分で生きろ。以上だ」
「…!」
まさか、あの親父がリンを見逃すとは……何が目的だ?
「…白羊宮の席が空いている、Ⅻ騎士団になれば、ともすれば生き永らえることも不可能ではないだろう……」
「陛下が退場なさいます!」
…生き残った、のか。白羊宮の認定試合、俺は見には行けないな。ほう、と息をつくこれで一安心だ。リンが弾除けで終わる?心配する必要もない。それにしても、その白羊宮を殺した本人にそのチャンスを与えるとはな…。
しかし、Ⅻ騎士団…国内最高峰の傭兵集団にリンが…話がうまくいきすぎている。そんなⅫ騎士団に所属してしまえば当然、俺の保護監視下に居た時以上の地位が保証されるだろう。俺の忠実な部下などできるだけ手近に置きたくないのが本音だろう…なぜ…?
取り敢えず、リンは止まらなかった、俺も立ち止まっては居られない。
何よりも。俺たちの夢のために。
『夢のあと』へ、行くために。
「ちょっと!リフィア!!待ちなさい!!」
「…」
「もう…まだ小さいんだから、外へなんて行かないで。危ないでしょ!」
「ちいさくない」
「…この子は、もう……。先生の言うことなんて聞いてくれたことないんだから!」
「おれそといくから。きょうしかあえないから」
「?…誰に?」
「ここにはもうかえらない。せんせいいままでありがとう」
「ま、待ちなさい!」
事前に作っていた抜け道を使う。先生はそこまでは予想していなかったようで驚いたがすぐに気を取り直して追いかけてくる。でも俺も止まるつもりはない。
「…っ!」
急いで抜け出る、思った通り、俺のような幼児は通れても先生は通れていない。
「待ちなさい!リフィア!!帰ってきなさい!」
「リフィア!!」
いつまでもあそこにはいられない。今まで育ててくれた者達には恩を返さないままとなってしまうが、仕方のないことだと割り切る。俺にとっては少しでも時間が惜しい。
…新しい環境で、王族という運命からも離れて、赤ん坊というハンデの間。リンの存在は本当に支えになった。
あの放送のあとすぐ開かれた白羊宮の認定試合で、当然のごとくあいつはⅫ騎士団の白羊宮となった。そして今もシエラの傍につくために頑張っている姿がたまに放送される。それがヘイトを集めるために組まれた特集でも、Ⅻ騎士団としては邪道と言われていようとも、その姿を見るたびに俺は目的を思い出すことが出来た。ずっと歩く練習と話す練習をしてきた。全てはこの日の為。Ⅻ騎士団が毎年この日、この町に来る。今年は白羊宮。リンが来る。
一介の子供となった俺がリンに接触するには今日しかない。今日を逃せば次は12年後だ。待っていられない。
おぼつかない足を必死に走らせ、広場に向かう。リンに会えないという考えは捨てた。絶対に会う。だから身一つでここまで来た。苦笑する、まさかこの俺が、こんなにも王宮に戻りたいと思う日が来るとは。
「…まっていろ、シエラ、リン…っ!」
どんっ。
「っ!」
「おっと、ごめんねお嬢さん。せっかくの可愛い服が台無しだ」
「…何やってるの……」
「―」
聞き覚えのある声。思わず顔を上げると、金髪の軽薄そうな男の隣、あの頃と変わらないリンがいた。
「……」
「すまないなお嬢さん。お怪我は?」
「ありがとう…ございます」
金髪の男の手は俺の胴を掴んだ。ひょい、と持ち上げられた。
「それ、高い高い!!」
思いっきり上に振られた。俺の体が一瞬で無重力状態になる。
「―」
「ほいキャッチ!楽しかったか?」
「…」
「あれ?怖かったか?」
「うわぁああぁあぁああん!!」
「わっ!ご、ごめんね!!どうしよ、リン!」
「僕に言われても…」
こいつには悪いが、ここは子供であることをフル活用させてもらう。金髪を思いっきり手で押しのけて拒絶をアピールする。
「俺のこと嫌いなのか?もしかして」
「そうなんじゃない…?」
「なんか俺に抱っこされてるの嫌いみたい!」
「降ろしてあげなよ…」
「うわああぁあああぁぁ!!」
ここぞとばかりにリンの方を指さした。
「お前の方が好みみたいだなお嬢さんは…。残念…」
「…僕?僕は子供とか―わっ」
金髪がリンに俺を移動させようと近づけるとともにリンの衣服に手を伸ばして掴まる。
「ほら!リン良かったな、女の子に気に入られて!」
リンはおっかなびっくりというような手つきで俺を扱うが、丁寧さは金髪よりはるかに勝る。春の陽だまりのような暖かさ、薄い胸から心臓の鼓動が聞こえる。
……。
「…寝ちゃった?」
「おお、リン。やるな!!」
―はっ!
これはまずい、一歳児は行動可能時間が短い。つまり、疲れるとすぐ眠ってしまうのだ。眠ってしまったら最後、強制送還もあり得る。リンに印象を植え付けるためにやっていたが、離れなくては。
「…おにいちゃんおなまえは?」
「僕…?」
「うん!」
「…僕はリン」
「俺はロウ!よろしくお嬢さん」
「おにいちゃんたちごめんなさい、おじゃましちゃって。わたしリフィア!」
そう言うとリンはゆっくりと俺を下ろした。
「あんまり走るんじゃないぞ、危ないからな」
「はあい」
金髪は俺の頭をがしがし、と撫でて去る。リンは軽く会釈して去って行った。
「リンにあえたのはうんがよかったとおもったが…おもわぬしょうがいがあったな。やはりじんせいにちかみちなどないな」
気を取り直して、俺も当初の目的である広場に行くことにする。
「今日は年に一回の建国感謝祭!今年もⅫ騎士団の内の一人がゲストとして来てくださっております、今年は白羊宮のリン=アリエス様です!」
「「おおー!」」
「「「きゃぁー!」」」
「かんせいはだんじょひりつ2たい3というところか。ちゃんとしごとはしていたようだ。でだしのあのじょうきょうからここまできたとかんがえるとしんじがたいせいちょうだ」
リンは椅子から立って深く礼をした。あれは多分笑おうとしている顔だな。努力は認める。
あの正装も良く着せたものだ。衣装係の努力がうかがえる。リンは昔からきっちりとした服が苦手でゆったりとした服ばかり好んできていた。きっちりすると動きにくくて嫌いだそうだ。流石に融通くらいは聞かせられるようになったのだろうか。
この建国感謝祭に来たのはもちろんリンと接触するためだ。この建国感謝祭にはそうできるチャンスがある。
「おおっと、今年も現れた!巨獣だぁ!!」
「きゃーっ!」
「おぉー!!」
来た。建国感謝祭の日には広く穏やかな海に生息する通常より少し大きな生物を毎年この祭りのために連れてくる。そしてそれを毎年Ⅻ騎士団が倒す。『巨獣』とはその生物のことだ。しかし、今年は何かが違った。
「でか…すぎ……」
「…」
「きゃー!今年は凄いわ!」「頑張ってー!」「Ⅻ騎士団の力、魅せてやれ!!」
それは、一つの山かと思っていた。いや、山な訳なかった。だってそっちは、海なのだから。
≪キャオオォォォオォオオォン!!≫
耳を劈くような金切り声が響いた。耳をふさいでも頭に残っている。今まで見たことのないサイズだ。
リンの方を見ると、誰かと会話をしているようだ。しばらくすると、リンは前へ向き直った。多分、あれはロウと会話していたのだろう。Ⅻ騎士団は全員インカムを所持している。いつでも両手を使わずⅫ騎士団内での会話、連携が可能なのだが…。
リンとロウが一緒に来ていたのは恐らくこの巨獣にもつながっているのだろう。近年異変が起きている。実はこのような突然変異にしても度が過ぎている巨獣は最近はあまり珍しくない。そして今回、それが感謝祭で姿を現した、むしろ民衆はそれを期待していたような所もあるだろう。しかしそんな訳はない、人の集まる感謝祭にもしものことがあれば困る。今回感謝祭に巨獣が現れたのはまさに異常事態、リンとロウが二人で来ていたのはそれが予測できていたためだろう。だがリンはロウの助けを断った、多分。リンはこの感謝祭の儀礼を優先したのだ。感謝祭の儀式は毎年巨獣をⅫ騎士団が一人で倒している、それを今回一人では無理だから二人で…となれば巨獣が日常的になりつつある現状国内最強を誇るⅫ騎士団、延いては王国への信頼が地に落ちる。…Ⅻ騎士団も同じ人間なのだがな。
巨獣に跳ね上げられた海が街に降り注ぎバケツをひっくり返したような土砂降りとなっている。波も荒れ狂い、正直広場に居ては危険だが…民衆はこんな状況でも逃げていない。むしろ面白がって撮影をする者もあらわれている。平和に慣れすぎて危機感が欠落してしまっているのだ。絶対的な信頼。国民とするならばこれほど理想的な連中はいない。
その民衆をかき分けて前へ出る。最前列へ。そして、一番上へ。中心へ。
「おにいちゃん!」
着いた。リンは周囲を見渡せる塔に立っていた。塔の最上階。リンの髪は烏の濡れ羽色となって一層艶めきを放っていた。
「…君は」
「おにいちゃんならよゆうでしょ!あんなの!!」
「…ここは危ないよ、第一、どうやって―」
「しんじている、リン」
「―」
あいつの顔は、まさに驚愕と言った様だった。
「たすけて!リンおにいちゃん!!」
「おおっと!?少女が海の方へ飛び込みました!!あちらは巨獣の方向、少女危う―え」
風がうるさい。なかなか思い切ったまねをしてしまった。しかし、こうでもしないと二人っきりにはなれない。
まったく、手間がかかる。
「―っ…」
リンが俺に追い付いた。俺を抱き留め、儀礼用に支給されていた剣を塔の壁に突き立てる。金属と石が擦りあう音がうるさい。その音が止まったころ、リンは俺に顔を向ける。
…その顔はまだ理解が追い付かない、といった様子だな。
「リン。あまりおれにてをやかせるな」
「……もしかして、ギア?」
「まあそうだろうな。おれじしんでもまだふしぎなここちだ。からだがこんなにちいさくなっているとは、それに、うまれかわってもきおくがのこっているとは。それだけおれのしゅうちゃくがつよかったということかな」
「おまえもそうだったみたいだが」
「…っ!良かったぁ……!」
俺が笑うとリンはほころんで笑った。これがリンの笑顔だ。今でも変わっていない。
「このきょじゅう、ぜったいにのがせないこうきだ、ぜったいたおせ」
「勿論!」
「おお!少女とアリエス様が帰ってきました!!」
「…この子を宜しくお願いします」
「あっ!はいはい!…今年の巨獣は例年とはわけが違いそうですが…勝算はありますか?」
「……どう?リフィア」
「おにいちゃんはぜったいかてるよ?」
「じゃあ、勝てます」
俺とリンはにやっと昔のように悪ガキのような笑みを交わす。
「ほお…?いつの間にか、仲良くなったようですね?」
リンは腰にさしてあるカタナに手を添え、目を閉じた。あれは一種のルーティーンらしい。儀礼用に支給された剣は先ほど駄目にしてしまった。…リンが武器を二本持ち歩く性分で良かった。
あのカタナとやらは中々変わった形状で片側に刃がついていない。その刀身は薄く、少し力を入れれば折れてしまいそうなほどだ。
だが、俺が今まで見てきたどの剣よりも美しい。
「いけ」
一瞬。その瞬間にはもうリンは居なかった。長いマントを全く苦にしないほどの跳躍。
飛び立った時の回転力を生かした回転切りで巨獣の牙をはじく。
そしてそのまま頭、胴、尾に沿って切りかかっていく。きっと誰にも、奴は捕まえられない。今のあいつは、岩をも砕き流れる水。
そして、死を運ぶ風だ。
速い、巨獣の尾の先にはリンが立っていた。リンはカタナを、ゆっくり、だがしっかりと柄に納めた。
巨獣の輪郭がずれる。巨獣は自分が切られたことに気付いていないのか、開いたままのその大きな口をこちらへ近づけてくる。だが、その間にも巨獣の崩壊は止まらない。
やがて、巨獣はただの肉塊となった。
「すげー!!」
「キャー!!!」
「…こんなにたくさん。……食べきれるかなあ」
「おまえ、きょじゅうをくうつもりか…」
巨獣を食うという試みは試された。が、結果は悲惨であった。好んで食う者は居ないだろう。それに、この巨獣は魚だ。魚は生臭い、肉の方が旨い。わざわざ魚を食うやつの気がしれない。
…と言いたいところだったが、この姿になって肉を、魚を、録に食えなくなった俺にとって巨獣は不味くとも貴重なタンパク源だったし、美味しく感じていた。
しかし、リンにはもう少し階級にあった振る舞いをするよう気を付けてほしいものだ。
「リン、おうきゅうにかえったらすぐあたまをあらうぞ、かいすいはかみにわるい」
「あ、うん。でもまずは巨獣の肉を運ばないと…こんなに多かったら運ぶの大変そうだし…」
「それではおそすぎる。ならばちかくのすいどうをつかうぞ」
「えー…」
「―リン、お疲れ!!」
声の方を見るとロウがいた。
「…有難―わぁっ!」
「お前、ちゃんと洗わねぇと海水は髪に悪いぞ?」
リンはロウにバケツに入った水をかけられた後、どこから持ってきたのかタオルでごしごしされている。
「……でもいきなり水かけないでよ…」
「どうせ足先までびしょびしょだったからいいだろ!帰ったらまた整えてやるよ。取り敢えずあらかたの水気だけな」
「…大丈夫だよ……でも、一応有難う」
「あれ?さっきのお嬢ちゃん何でここにいるんだ?」
「―リン」
リンに耳打ちする。
「…おれもおうきゅうへつれていけ、りゆうは…ぶかだといっておけ」
「えっと…この子は……部下?」
(なぜぎもんけいなんだ!)
(部下って何で?)
(そこからか!?)
「…へえ」
そう言うとロウは俺の方に顔を近づけてきた。
「さっき会った時はそんな印象無かったけど?」
「…」
「ロウには関係ない…」
リンが俺とロウの間を手で阻む。
「関係ないってことはないだろー!俺は一応お前のお目付け役なんだし?」
こいつは面倒くさいタイプの人種だったな…さて、どちらで行くか。
「…あいさつがおくれてもうしわけありませんでした。たしかにわたしはさきほどまではリンさまとはまったくかんけいのないいちしょうじょでございました。しかし、さきほどのたたかいをまぢかではいけんさせていただきうんめいをかんじました。あしでまといになるつもりはありません。これからしょうめいしてみせます」
「…」
流石にロウは面食らっているようだ。まあ、1歳児がこれだけ喋ったら誰でもそうなるだろう。むしろ、それが狙いだからな。
「成程。ま、リンもⅫ騎士団としては1歳児だから助手にはこれだけしっかりした1歳児が丁度良いかもな!」
「ありがとうございます」
「…?良かったね、ギ―痛っ」
リンがふいに名前を漏らしそうになったので。肘でどついておく。
「…あれ」
安心したらどっと眠気がこみあげてきた。足元がふらつく。
「っと、大丈夫?」
「……」
「眠いんじゃないのか?やっぱお嬢ちゃんだな!初めに会った時みたいに抱きかかえて連れて行ってやれよ」
「そっか……よいしょ」
ゆっくり体が上に持ち上げられた。しかしリンはぐしょぐしょで気持ち悪かった。
「…うぅー」
「あれ…?」
「お前服まで濡れてるからじゃないのか?」
「本当だ、ロウが抱いた方がいいかな?」
「よし任せろ!」
「ううー!」
リンの服に必死にしがみつく。人を勝手に高い高いするような輩に抱かれるくらいならぐしょぐしょの方がましだ。
「俺何か悪いことしたのか?」
「服、濡れてて…冷たくてごめんね…」
「………」
やがて心地よい眠気の波にさらわれ、俺の意識はそこで途切れた。
「……」
次に目を覚ました時にはふわふわのベッドの上に寝かせられていた。あたりを見回すと、リンの姿がない。
「リン…?」
暗闇に目が慣れたころ辺りを探索するとソファに座ったまま寝ているリンを見つけた。テーブルの上にはいくつかの料理が並んでいた。見ると、どれも柔らかそうなものばかりだったから俺が起きてきたときのために用意した物なのだろう。
リンの顔を見ると、首が座っていないためか半開きの口で阿保みたいに寝ていた。
「…ふ、あほづら」
そういえば、昔はよく三人で寝ていたからな、こうしてリンの阿保面を見るのも珍しくなかった。…一年ぶりなのに凄く久しぶりな気がした。
「おい、おきろ!」
電気を点けた後、げし、と蹴るともぞ…と動いてゆっくりと起き上がってきた。
「ふあ…へ……?」
「はらがへった、めし。というより、でんきをつけたらおきろ。はくようきゅうとしてだいじょうぶなのか?」
「おはよ……ギア…」
リンはまだ眼をこすって眠そうにしている。完全に覚醒しきっていないという感じだ。
「おれをよぶときはリフィアだ。きをつけろ」
「…ご飯、用意しようか?」
「そういったんだ。ひとはだくらいにしてくれ」
「うん…」
にへら、と柔和な笑みを見せる。こいつは寝ぼけているとこんな感じだ。
「どっちがいい?二つあるけど」
「じゃあシチューのほう」
「了解。はいどうぞ」
スプーンにすくって口に含む。美味い。
「おまえ、りにゅうしょくなんてつくったことあったのか」
「ううん。女の人に聞いたの」
「あのあとどうなった?」
「えっと…報告して、ロウがいろいろ言ってくれたからリフィアは正式に僕の部下になって……あ!僕また明日別の任務で外に行かないと」
「なるほど、りょうかいした。……シエラはどうだ?」
「シエラはギアがいなくなった日からあまり部屋から出てこなくなったって、だからお付きの任務もあまりないって。僕は、まだ王族騎士でもないし……」
「まだおうしつほうもんのけんげんはあたえられていないか…まぁ、つみかさね…」
「リフィア、やっぱり眠いんじゃない?」
「……そのようだ」
「ごちそうさまでした」
「…」
「寝床まで運ぶね」
やわらかい感触が俺を包んだ。寝かされて手を離される。
「…あれ。リフィア、手を放して」
「……いい」
「?」
「……いっしょに、ねていい…から」
「…子どもになったら甘えん坊になったね、リフィアは」
「しょうがないだろ…ほんのう……だ…」
隣に気配を感じた。リンがベッドに入ったようだ。
やはり人がいると暖かい。
「おやすみ、リフィア」
「…」
色々な用語が出てきますが大体は登場人物たちが説明してくれます。彼らのタイミングを待って頂けたら幸いです。




