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昭君のステータス

先日、初めて誤字報告機能で誤字を訂正していただきました。

改めて、この場を借りて御礼申し上げます。

ありがとうございました!


……そして早速今話でも誤字報告を受けました。

ありがとうございます!



 初めて目にした、自分達のステータス。

 そこに記されていたことは、到底スルー出来なかった。色々な意味で。

 だけど書かれているものはしょうがない。

 衝撃が過ぎ去れば、諦めがやってくる。

 だって書き換えられないのだから、現状を受け入れるしかないのだ。

 そうして現状を受け入れ……る、前に。

 少年少女達は視線を逸らす。

 現実を受け入れるのはつらい。

 だから現実逃避に走っても仕方ないよね?

 人間、時に受け入れがたい現実を前にすると、他者と自分を比較することで落ち着きを取り戻そうとする場合がある。

 アイツよりはまだマシだよね、の精神である。

 しかし現時点でステータスを表示させているのは、あらゆる意味で自分の同類ばかり。

 比べようにもあまりに差がなさすぎる。

 別に自分より劣っている誰かを見つけたいわけじゃない。

 ただ、自分よりもツッコミどころのある誰かを見つけてみたかった。

 その『誰か』をネタにすることで、自分のステータスへの辛さを少しでも忘れられたら……

 じり、じりり、と。

 いつしか勇者御一行(笑)であることが確定してしまった四人は、昭君と田中君を取り囲んでいた。

 忙しく指先を走らせて、アクションRPGの中ボス相手にコンボを決める昭君と、そんな昭君の様子に正気を疑いながら昭君の指先が繰り出す妙技に目が釘付け状態の田中君を。

「すげぇ……もうすぐ200コンボ? マジかよ」

「………………!! 次で、トドメ」

「うあ、なにこのカットイン。派手すぎる。これまさか最終奥義的なナニかか!」

「ふぅ……条件、達成だね。これで隠しダンジョン奥にある隠しダンジョン入口の鍵が手に入るはず」

「隠しダンジョンの、更に隠しダンジョン!? どんだけ隠されてるんだよ……」

「田中君、興味あるの? 公式HPのURL教えようか」

「いや、いい。ゲーム名だけ教えてくれ。自分で検索す――って俺達、帰れないんだろ? 教えてもらってもな」

「……ふぅん? 田中君は帰れないって思うんだ」

「だってここの神様がそう言ってんだろ? なら、そういうことなんだろ」

「田中君自身はどう思ってるのか、聞いてみたいね」

「はは。聞いてどうするんだよ、三倉」

「おすすめゲームの一覧を紹介する」

「この流れでそうくるか」

「どうにもならなかったら兄さんに迎えに来てもらうし」

「迎えに……って、そんなちょっと遠いとこにある塾みたいに。おい、三倉、わかってるか? わかってないのか? ここ、異世界なんだぞ。迎えに来てもらえるはずないだろ」

「明日、予約してたゲームの発売日なんだよね」

「いやだから無理だって」

 ここがどこか、今がどんな時か。

 まるで忘れ果ててしまったかのように、関係のない話に花が咲く。

「ちょっと、いつまでゲームの話なんてしてるつもり? 三倉も、進行状況が落ち着いたんなら一度ゲームの電源切りなさいよ」

「そうそう。なーに他人事みたいな顔してるんだよ」

「他人事みたい、じゃなくて他人事だよね」

「いや、そうとは限らないだろ! 無関心決め込んでるっぽいけど、ステータスの確認したのかよ。もしかしたら重要なことが書かれてるかもしれないだろ。三倉も、田中も!」

「神の加護とやらをもらえなかった俺にステータスを表示しろとか、さらし者にする気か。肩身の狭い思いをするだけだろ。そんなに俺をみじめにさせたいのか」

「う……っそれを言われると。そっか、守護神?とかいうのがついているのは三倉だけなんだよな……」

「田中にステータスを見せろっていうのは、酷かも」

 堂々と胸を逸らして自ら無能宣言を打ち立てる、田中君。

 彼には彼の事情でステータスを表示するわけにはいかなかっただけだが、神の加護をもらえていないという一事によって周囲からは同情の眼差しが注がれる。

 しかしこうなると、昭君ひとりに期待値が高まっていく。

 そうして、ちょっとだけ困ったような顔で。

 人の好い佐重喜君が、昭君に声をかけた。

 純粋な心配のにじんだ、困り果てた声で。

「三倉、ある意味で個人情報だし、見せてって頼むのは心苦しいんだけど……魔王退治なんて、道中で何が起きるかわからないだろ? できることとできないことを把握しておくためにも、ステータスを見せてほしい」

「さも当然のように魔王退治に参加するような物言いだけど、僕、参加するつもりはないよ?」

「は!? ここまで来て、この流れでそもそもの旅立ちを拒否られた!?」

「見せるのは構わないけど、ステータスを見たくらいでその人のことが全部わかるはずもないよね」

「え、ここでそもそも論? っつうか三倉、お前ステータス気にならないのか?」

「『ステータス』を信奉しすぎるのはどうかと思うよってだけ」

「う……っさっきまではしゃいで一喜一憂していた身としちゃ気まずい。けど言っていることは正論、の、ような……?」

「吉栖、なに説得されかけてるのよ! 御託はいいから見せなさいよ、三倉」

「村江さん、個人情報保護法って知ってる? 君がプライバシーを侵害する大人にならないか心配だよ」

「ここ日本じゃないじゃない。異世界来てまで法律なんて知ったことじゃないわよ」

「なかなかの危険思想だね、村江さん。思い切りは良いけれど」

「つべこべ言わず、とっとと見・せ・な・さ・い!!」

 生来の押しの強さが前面に押し出てくる。

 村江さんは狙っている男……佐重喜君の前だということも忘れてか、お構いなしにぐいぐいと昭君に要求を突きつける。

 さりげなく襟首を掴んでいるが、果たして佐重喜君に見られてはいないだろうか。

「あんたは私たちにステータスを見せるの。いい? わかった?」

 こうも強引に迫られては昭君も仕方ないと思ったのだろうか。

 億劫そうに溜息をつくと、わかったわかったとひらひら手を振る。

「はいはい、ステータスステータス、オープンオープン」

 そして、声を聴いただけでもわかるくらい凄まじくどうでも良さそうにステータスを呼び出した。

 昭君の眼前、中空にウィンドウが浮き上がる。

 ただし記載されている内容は、なぜか佐重喜君たちとなんか色々違った。


 『 ☆ ステイタス ☆ 』


 そう、表示された単語の下につらつらと文字列が連なっている。

 それぞれ横書きで、一行ずつ文字列は意味を形成している。

 ただしそこに、数値的なモノはひとつもなかった。


 それは、上から順にこう記述されていた。


 『男子中学生』

 『ゲーマー』

 『三十五人並の容姿』


 そこまでは、よかった。

 まだ同級生である面々にとっても納得のいくものだったから。

「えー……なんか俺らのと違うぜ? なんで称号欄っぽいのだけなんだよ」

「っていうか三十五人並の容姿ってなに、三十五人並って。初めて聞くんだけど」

「えっと、十人並、の3.5倍……?」

「え、三倉ってそんな顔整ってた? ただの根暗なチビじゃ……目線が合わないからまじまじと顔見たことないけど」

 納得はいくが、釈然としない。

 そんな思いで村江さんが昭君の顔を覗き込む。

 今まで地味で目立たないと思っていた昭君の顔をはっきり見るのは初めてだが……

「……いわれてみると、整ってるかもしれない?」

 よく見れば地味に整っている。

 整ってはいるが、自分より身長が低いという時点で食指が動かない。

 なので特に心が動くこともなかったのだが。

 しかし彼らが平静に情報を受け止められていたのも、それまでだった。

 『三十五人並』、その下に並ぶ情報は、彼らの理解の範疇をちょっぴり超えていた。

 三十五人並に気を取られていた佐重喜君達も、すぐに気づく。

 気づいて、疑問と困惑で固まった。


 『高貴な血筋』

 『人魚の息子』

 『異世界を救った英雄の弟』

 『異世界の賢者の弟』

 『鶏神の茶飲み友達』

 『巻き込まれ拉致被害者』



「………………なにこれ」

 予想とは違う形で表示された『ステータス(?)』に、周囲の人々は困惑を隠せない!

 一人、そんな中でもお構いなしに淡々と昭君が言った。

「だから、社会的地位及び身分(ステイタス)でしょ」



 社会的地位・身分



 その言葉が脳に浸透するまでに、少年達は暫しの時間を要した。

 理解が及ぶのと、ほぼ同時。

 思わず叫んだのは吉栖君だった。


「ステイタスって……俺らが求めてるのはそういうヤツじゃねぇぇえええええええっ!!」


 ステータスってそっちかよ! そっちのステータスかよ!

 そんな吉栖君の声なきツッコミが叫びには込められていた。

 だけど吉栖君よ、君が真にツッコミを入れるべきはそこじゃない。

 いや、そこも確かにツッコミどころではあるのだが。

 それよりも書かれている内容に注目するべきである。

 つらつらと怪しいことが書かれているのだから。

 





 ちなみに『魔法少女の兄』がステイタスに載っていないのは、異世界で世界規模の知名度と社会貢献度を有したお兄ちゃんたちに比べて明ちゃんがまだ社会的地位に数えられるほどの社会貢献をしていないから、だったりします。ご町内の魔法少女はまだまだ知名度が低い。

 

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