倭神★降臨
今回は召喚されたクラスメイト:田中・アマデウス・萌君(悪魔)の視点でお送りします☆
彼は、見てしまったのだよ……
今話に関して、初めて誤字報告機能での誤字報告をいただきました。
小林は見落としがちょこちょこあるので、大変助かります。
ありがとうございました!
光に飲み込まれた時、それが召喚魔法であると感覚的に察していた。
まさか地元からの手がここまで……?
こんな魔法に飲み込まれる心当りはそう多くはない。
だから最初は、追っ手に所在が察知されたのだと思った。
だが、どうやら違ったらしい。
召喚された先、俺達を……そう、俺達を取り囲んでいたのは、銀色の衣装に身を包んだ集団だった。
俺だけではなく、佐重喜達まで呼び出されたことにおかしいと気づく。
それに続いての銀色集団。
こんな奇天烈な衣装を好んで着用する集団に、心当たりなんぞない。
単身で着そうなヤツには何人か思い当たったが、見回してもその誰もここにはいなかった。
そして、前に進み出てきた女の言葉でハッキリと確信した。
「――ようこそおいでくださいました、異界の勇者様方。どうかわたくし共をお救いください」
ああ、これは俺の地元関係とは別件だと。
急速に、気が抜けそうになった。
俺の命を狙った刺客の仕業かと警戒していた部分が解けていく。
だが気持ちを弛緩させる訳にはいかない。
確かに、俺の地元とは関係がないんだろう。
だが地元とは関係がなかったとしても――それで、身の安全が保障される訳じゃない。
代表者らしい女の物言いだけでも、厄介事を持ちかけられているのだと簡単に想像できるんだから。
さっきまでとは違う気持ちで、改めて周囲を見回す。
周囲の……俺達を取り囲む銀色集団。
今、俺達が身を置いているこの建造物の細部に至るまで。
わずかな違和感にも気付けるよう、注意深く五感の全てを使って観察していく。
俺達をどうするつもりなのか、処遇は、生殺与奪に関しては……
相手の思惑を十全に知れる訳ではないのだから、警戒をいくら先に立てても足りはしない。
そして、この状況にそぐわない明らかな異質点にすぐ気付くこととなる。
外ならぬ……こちら側で。
うん、三倉。お前この状況で寝るか?
今までひたすら地味で目立たない、取るに足りない奴だと思ってたんだが。
そう、どこのクラスにも一人二人は存在する、根暗で大人しい部類の『ただの中学生』だと。
そんな歯牙にもかけていなかったクラスメイトが、得体のしれないイキモノだったことにふと気づいてしまったかのような……この不安。
現実だと認められず逃避したようには見えない。
一瞬だけ起きた奴の目に動揺は見られず、透明な眼差しが確かに周囲の情報を読み取っていた。
現段階でわかるだけの、状況を認識していた。
その時点……状況を把握して動揺せずに受け止めてる時点で、『ただの中学生』じゃないな。
いや、ちゃんと状況を把握していたら先行きに対する不安も動揺も覚えそうなもんなんだが。
今の現状を現実だと認識していて、その上でこいつ寝やがった。
マジか。マジでかー……。
佐重喜たちも信じられないって目で三倉を見ていた。
ああ、ほら向こうさん……俺達を『召喚』したとかいう銀色の奴らも戸惑ってるじゃねーか。
なんだよこの微妙な空気は。
前に進み出てきて歓迎ポーズを取ってた白い女なんか、完璧に固まってる。
女の背後に浮かんでいる、常人には見ることもできない霊的存在……『霊格』から判断して、おそらく女に力を貸した神霊の類だろう、そいつらも困惑からか落ち着かない様子だ。
……しかしあの神霊ども、なんかものっそいTVとかで見覚えのあるフォルムしてんなぁ。
あのツルっと丸そうな感じ……見れば見るほど、似てやがる。
「え、ええと……勇者様方はお疲れのようですわね。無理もありません。わたくし共の急な招きに応じてくださったのですもの」
「えーっと……疲れっていうか……三倉のコレは、疲れっていうか昨日徹夜したって言ってたから完全に自業自得のアレなんだけど。えっと、招きに応じたっていうか……これ、ドッキリじゃないんですか? っていうかどうかドッキリだと言ってください。流石に頭の神経焼き切れそうなんで!」
「どっきり、とは……? 申し訳ありませんが、勇者様のお言葉はわたくしには少々難しいもののようです」
見ているうちに目が離せなくなってじぃっと凝視していると、ぺ……神霊どもは召喚者の女が再起動したのに合わせてハッと動き出す。
動揺から声の震える佐重喜と、白い女。
両者が言葉を交わす間にすすすっと進み出てくると、ぺぺぺ~ん☆とコミカルな効果音を響かせながら(※常人には聞こえない)、光を振りまいていく。
先頭にいた佐重喜から順番に、その頭上にかざすように右のフr……腕を差し出してはキラキラと光を浴びせかけていく。どうやら神霊お得意の『加護』とやらを与えて回っているようだ。
――マズイな。
今はまだ気づかれていないようだが、一人一人に加護をかけて回る神は順調にこっちへと近づいてくる。俺達は本質的に『神霊』とは相いれない。神々の持つ概念やら性質やらにもよるが、『正義』の代名詞にされるような性質だとすると……
近寄って、俺の『正体』に気付かれたらマズイ。
その瞬間を思って俺は息を呑んだんだが。
……そう、少なからず緊張したんだが。
俺の緊張は、寸前で全くの無駄となった。
俺の、ひとつ前。
佐重喜ら四人に加護を振りまき終えたペn……神霊が、今まさに五人目……どういう神経してんのかよくわからないが、未だに惰眠を貪り続ける三倉の頭上へと差し掛かった時だった。
前の四人同様に、三倉にも加護を授けようとしたんだろう。
だが、神霊がフリ……腕を掲げようとした瞬間だった。
いきなり、三倉の背後の空間が歪んだ。
言葉通りの意味で、歪み、罅割れ……時空をぶち抜く穴が出現していた。
霊的存在を見る能力のない佐重喜たちは気づかなかった。
でも俺の目には、はっきりと見えた。見えてしまった。
三倉の背後、空間の穴から。
人のものに酷似した『腕』が突き出されるのを。
サイズは、おそらく人間の三倍ほどといったところか。
相応に太く、長い腕は無駄なく筋肉のついた逞しさで。
容赦なく、目の前にあったペn……神霊の顔面を鷲掴んでいた。
それはもう遠慮なく、ぬいぐるみを握りつぶすような勢いで。
しかもそのまま、高く掴み上げていく。容赦がねえ。
そして俺の地獄耳に、霊的領域でのみ響く『声』が聞こえてきた。
『――貴様どういう料簡だ。こっちに何の断りもなく他所様の領域侵犯か。手順と道理守れやごるぁ。まずはこっちに一言許可得んのが筋ってものじゃろうが。違うのか、あぁん? しかも加護まで授けようとしおったな貴様。こっちの更なる領域侵犯か。侵略か。軽んじるのも大概にせぇよ』
全身の身をよじり、何とか拘束から逃れようと暴れる神霊。
時空の歪みから、神霊を掴む腕の持ち主がゆっくりと姿を現す。
そうして現れた腕の主もまた、『神霊』――人間が『神』と呼ぶ霊格を持っていた。
ただ神は神でも、伝承が廃れ、信仰する民を失って忘れ去られた古い神々のような……どこか荒んだ空気と、希薄な存在感を身にまとっていたが。
姿からしてアジア圏……多分日本?の古い神なんだろうと思う。
顔面や全身に紺色と朱色の刺青が流線形の文様を刻んでいたが。
あれ社会科の資料集で見た縄文人(※予想図)に似てるな、あの刺青……いつの時代の神だ。
和風というより、もうなんか倭って感じの神だった。
ギラギラと鋭く光る視線は、荒んだ空気のせいか……野犬のような危うさがある。
ああ、ペn……あの神が野犬に食い殺される惨劇映像が目に浮かんだ。
『うちの巫女の御子に勝手に手ぇ出して無事で済むと思ってんじゃねえだろうなぁ……? こっちは日々、巫女から子供らの無事と安寧祈られてんだよ。その祈りを踏み躙りおって……ちぃっと裏まで来んかい。話ぃ付けたる』
後から現れた倭っぽい神の言葉から察するに、三倉の母親がこの神の巫女……と?
どういう因果関係でこんな凶悪そうな神と縁づいてしまったのかは知らないが、どうやらその縁で倭神は三倉のことを見守っていた、らしい……?
そしてこの神に何の承諾もなく、勝手に三倉を連れ出して加護まで与えようとしたから倭神は怒って表れた……らしい。なんか倭神の領分に手ぇ出したからって。
というかちょっと待ってくれ。
クラスのなんてことない、よくいる根暗系クラスメイトだと思っていたちっさい少年にこんなおっかない守護神がついているなんて予想もしていなかったんだが。
なんかもう召喚者代表っぽい女がどうこうとか、佐重喜との会話とか他に気にするべき要素が気にも留まらないレベルで神々同士の悶着が気になって仕方がない。
っていうか三倉、寝るな。
こんなおっかない神の顕現背負って寝るな、起きろ。
お前の頭上でとんでもないことが起きてるんだぞ。
そうこうしている内に。
結局、三倉が少しも起きない内に、倭神が更なる動きを見せる。
裏で話をつける、という言葉を有言実行だ。
一層激しく暴れて抵抗するペンg……この地の神をものともせず。
顔面がっちり鷲掴みにしたまま、自分が出てきた時空の歪みに引きずり込んでいった……。
一瞬あの歪みに飛び込んだら地球に戻るんじゃ?と思わなくもなかったが……あんな荒んだ空気全開の神が待ち受ける空間に飛び込む心の準備は用意していない。
俺は顔を引きつらせて神々が消えるのを見送るばかりだった。
そして、そんな衝撃映像を。
どうやら目撃してしまったのは俺ばかりじゃなかったらしい。
霊的存在を見ることができる人間は希少だが、俺達を召喚した女がまさにその希少な一部に該当したらしい。
「神よ!? 神よ……!?」
「え、どうしたの!? いきなりこのお姉さん取り乱し始めたんですけど!?」
「神がどうのって……いやぁっなんかヤバイ薬キメてるみたいな!?」
「あんた、ヤバイ薬きめてる人見たことあるの……?」
「いとこの兄ちゃんの舎弟さんが昔……って今はそんなことどうでもよくて!」
「いや、いやいや大分どうでもよくない情報が今ちらって聞こえたような……」
現場は、大混乱だった。
俺達を召喚したとかぬけぬけと言い放った女が、状況説明の途中で神とか口走りつつ錯乱したら、そりゃ混乱もするだろ……。
そんな、凄まじく混沌とした最中。
それでもなお鞄に顔を埋めて周囲の騒音も物ともせずにぐっすりすやすや眠り続ける、三倉。
こいつどんだけ図太いんだよ……。
あまり話したこともなく、どういう奴なのか考えたこともなかったが。
今この時、騒ぐ周囲から切り離されたように平然と眠り続ける三倉の強心臓ぶりに、俺は深く深く感じ入ったのだった。
こいつ、只者じゃねえ……と。
レッグフォール神(正さんを異世界に連れてった鶏型神)はちゃんと倭神様に事前許可を取ったらしい。
ちなみに倭神様は三倉ママが故郷で奉っていた神様のようです。
どうやら三倉ママがタイムスリップして現代にきても見守っていてくれた様子。
そのご縁で三倉ママの子供たちのことも見守ってくださっている。
子供たちが直接信仰しているわけではないので、特に加護は与えていない。
本当にただ見守っているだけ。
……ただし、神々の領域で手を出されるとモンスターペアレントよろしく出張ってくる。