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放課後・消えた六人

こちらは短編シリーズの続編になります。

読んでも意味が分からない!という方もいるかと思いますが、過去のシリーズ作品を参照していただければ幸いです。



 小学生の時、通信簿によく書かれた一言。

 『あきら君には協調性が少し足りないようです。』

 あまりに毎度のコメント過ぎて昭君本人は全く気にしていなかったけれど、彼の両親ばかりか実は兄達までも気にしていたらしいと知った、つい最近。

 気にするだけなら兄達の自由だと思った。



 

  あきら君は今日も通常運転でお送りいたします。

   ~巻き込まれ拉致・再び~




 個々の性格。

 それはまさに人それぞれ、千差万別。

 それでも似た性質、気質、気の合う者同士で自然と行動を共にするようになる。

 人間は社会性を持った、群れる生き物である。

 だからそれは、自然なこと。

 クラスのちょっとばかりキラキラした男女が放課後の教室で寄り集まって、わいわい、きゃいきゃい青春している。

 それもまた、当然なこと。

 キラキラ青春しちゃってる彼らは、ちょっと今度の週末に遠出しちゃう計画なんて立てちゃったりして。

 少し離れた所にある水族館に一緒に行こうかなんて話し合っていた。

 グループを構成するのは男女二人ずつ、計四人。

 それは傍目にWデートと判断されてもおかしくない光景で。

 何か愉快な妄想でもしたのか、髪の毛先までおしゃれに気を使っているらしい女子二名がちょっと頬を染めて……いや、緩めて幸せそうな空気を醸し出している。

 そんな女子の反応を意識しているらしい男子の片方がそわそわしていたが、生憎なことに女子二名の視線は自然体で女子の反応に気付いていない男子の方へ集中していた。

 彼らの関係性があからさまに見える瞬間である。


 そんな甘いような酸っぱいような世知辛いような、中学生らしい青春真っ盛りの教室で。

 側にいるのはやってられないと思ったのか、級友達は皆さっさと帰宅していた。

 いま、教室の中には四人だけ……否、たった今ひとり増えた。


 がらり

 

 無遠慮に教室の引き戸を開けて。

 教室内の青春!と強烈に主張してくる空気など物ともせず気にもせず、スタスタと躊躇いなく踏み込んでくる。

 そして彼らのちょうど集っている机の、後ろの席へと淀みない歩みで一直線。

 そんな猛者は誰か?

 昭君である。

「――あれ、三倉? 帰ったんじゃなかったのか」

 至近距離まで昭君が接近して初めて気配に気づいたらしく、男子の片方……女子の熱い視線を独占☆している男子……佐重喜(さえき)君が昭君に声をかける。

 どうやら驚いているらしく、ぱちぱちと目を(しばた)いて。

「珍しい。いつも帰りの会が終わったら下駄箱まで一直線なのに」

「忘れ物だよ。メモリーカードの収納ケース」

 そう言って昭君が軽く振って見せるのは、小さなメモリーカードが八枚収納された透明なプラスチックのケース。視力のとても良い佐重喜君の目には、『32G』という記憶容量を示す数値がはっきりと見えた。

 32Gが、×8……昭君の密度も内容も濃い時間の結晶体である。

 学校ではただの平凡なゲーマー中学生、取るに足らないクラスの一員としか認識されていない昭君。

 そんな彼の忘れ物に佐重喜君も納得したらしく、どこか生温い注ぎながらも「ああ」と頷いている。

 見れば他三名も微妙な表情だ。

 女子のロン毛の方、村江さんは気を取り直すように……むしろ昭君から佐重喜君の関心を奪うように、ちょっと意識して大きめに声を上げる。

「そ、そうそう! それで水族館なんだけど! お昼ご飯ってどうする? 水族館の隣に公園あったよね! なんだったら私、お弁当作ってきてあげても良いよ?」

 さっさと話題をさっきまでの楽しいお出かけ(脳内変換:デート)に戻したいという気持ちでいっぱいだ。

 ちょっと大胆かなと思いながらも佐重喜君の左腕にぐっと抱き着いて佐重喜君の顔面を凝視する勢いで見つめてみる。

 お弁当を作ると言いながらも、彼女の普段のお弁当は冷凍食品が中心だ。それとわからないように詰めなおされてはいるが、一緒にお昼ご飯を食べているもう一人の女子……西村さんにはそれがわかりきっていた。

 どうせお母さんに作ってもらうつもりなんでしょ。自力じゃ目玉焼きが精々なのに。

 内心ではそう思いながらも、思い人に醜い女の罵り合いを見せるつもりはない。

 視線で村江さんに牽制を送りつつ、口先では良い考えだと褒め称えて便乗した。

「じゃあさじゃあさ、私も作ってくる! みんなで囲んで食べるんだもん。一人で準備するのは大変だもんね?」

 村江さんに向ける視線が語っていた。

 冷凍食品は混ぜるんじゃねーぞ? じっくり食べ比べてもらおうぜ……?

 私の母さんと、あんたのお母さんの腕をね!

 女子二名の間で、視線がぶつかり合う。

 一瞬、激しい火花が飛び散る幻影が見えた。


 ……否、幻影ではない。


 まるで測ったかのようなタイミングで、本当に火花が散っていた。

 発生源は視線の交錯した地点……より、やや下方。

 彼らの立っている場所を中心とした、床全体だ!


「な、なにこれぇ……っ!?」

 ぎょっとして、反射的に村江さんは飛び退ろうとした。

 だけどできなかった。

「なんで!? なんで、足が動かないの!?」

 足が一歩も動かない。

 床全体、(サークル)状に広がった光……そこに直接触れているせいだろうか。

 この場に居合わせた全員が身動き取れず、光に真下から強く照らされるばかり。


 ぴ、ぽ、ぱ、ぽ……

「――あ、母さん? 今日はちょっと帰りが遅くなるかも。お夕飯は先に食べててよ」


 そんな中、昭君はお母さんに電話をかけていた。


「ちょ……三倉ぁ!? おま、何してんの!?」

「何って、電話だけど。帰りが遅くなるなら家に連絡するよう言われてるし」

「電話する余裕があるならここは110番だろ!? 助け! 助け呼ぼうよ!」

「110番って謎の発光現象にも対応してくれるの?」

「い、いやどうだろ……? 確かに非常事態なら家に電話はもっともな話……?」

「ちょっと待て佐重喜、納得するな。丸め込まれるな! 絶対に三倉の反応のがおかしいって!」

「そこを気にするあたり、君たちも余裕あるよね」

「溜息つくなー! 三倉、お前にだけは余裕どうのこうの云々かんぬん言われたくねぇー!」

 教室の床がいきなりルミナリエ並みに発光しだすという、この異常事態。

 仲良く巻き込まれたクラスのお友達は中々混乱が著しい様子。

 大騒ぎな彼らを尻目に、昭君はしっかりとメモリーカードのケースを鞄の中にしまい込む。

 足が動かないなりに、やれることはやっておこうという心積もりが変な方向に発揮されている。

 鞄の中身が零れないようになっていることを確認すると、しっかり鞄を装備して固定した。

 こうしておけば、何があっても鞄とは引き離されまい。

「――よし」

「何がよしなの三倉ぁ!?」

 表情一つ変えることなく平然としている昭君が、村江さんには異次元生物のように見えた。

 そうこうしている間にも、床の発光はますます強くなっていき――

 ――その時、教室のドアがからりと開いた。

 そこからひょっこり頭を出すと同時、大して教室内の状況を確認することもなく足を踏み入れたのはこれまた同じクラスの少年――田中君。

「佐重喜、用事は終わった――ってなんだこの床!!?」

「ひ、被害者が増えたー!!」

「なんで寄りにもよってこのタイミングで来ちゃったの田中ぁ!」

「そりゃ佐重喜と帰りにラーメン屋に寄る約束してたからだけど!? っていうか本当になんだこの床。まさか……魔界からの襲撃か!?」

「おい田中、頭大丈夫か……?」

「田中君が頭やられたー!!」

「失礼なことを言うな! 誰が気違いだ!」

「誰もそこまで言ってねーよ!」

 教室の中には男子四名、女子二名。

 総勢六名の中学生は非常事態に直面して混乱の極致に達していた。

 その中で昭君だけは、どことなく眠そうな顔でごしごし目元を擦っていたが……

「そういえば僕、昨日寝てないんだよね。徹夜でダンジョン攻略してて」

 状況の進展がどうなるのか。

 それを確かめようともしないまま……自らの力で現状を打破するのは難しいと見てか。

 昭君は近くの椅子を引き寄せると、足は動かないながらに腰を下ろし。

「……何か状況に変化があったら起こして」


 そして、寝た。


「ね、寝るなぁぁあああああああ!!」

「ちょっと三倉の神経どうなってるの!? この状況で寝るとか図太すぎでしょ!」

 周囲の五人を驚愕させながら、昭君は微睡みの沼にゆっくりと意識を沈めていった。



 そして、浮上した。

「ん? ああ、状況に進展あったんだ」

 昭君が意識を取り戻した時。

 彼らを取り巻く状況……いや、環境は一変していた。

 世界的な意味で。


「――ようこそおいでくださいました、異界の勇者様方。どうかわたくし共をお救いください」


 一変した世界の中、彼らを取り巻いていたのは銀色の衣装に身を包んだ集団と、白い花で彩られた清楚な衣装の金髪美少女。

 見たこともない建築様式の、高い天井。

 白い柱が等間隔に並ぶ『神殿』の中……衝撃と驚きで唖然と固まったまま、六人の中学生は金髪美少女の顔を凝視していた。

 今この美少女、異界言うたぞ?

 いきなり場所が変わって、景色が変わって。

 どう見ても日本人じゃない集団に取り囲まれて。

 佐重喜君たちの精神的疲労はピークに達しようとしていた。

 頭が痺れたのか、精神的疲労の為か反応の鈍い佐重喜君たち。

 彼らの顔と、金髪美少女――『召喚の儀』を取り仕切った『巫女姫』の顔を順繰りに眺め回して。

 昭君は抱えていた鞄を膝の上に乗せると、次いで自身の頭を鞄に埋めた。

「おやすみ」

「……って寝るなぁぁああああああっ!! この異常事態でなんで寝られるわけ!?」

「眠いものは仕方ないよね。生物の三大欲求にも数えられてるんだから」

 状況が変わったが、自分には手に負えないとでも思ったのか。

 あるいはあまり異世界的なものに興味関心を持てなかったのか。

 再び寝入ろうとする昭君の脳天に、吉栖君のチョップがめり込んで昭君の睡眠を阻止するのだった。



 

 



ちなみに昭君は特に冒険しません。


↓今回の昭君関係者。


佐重喜(さえき) 貴晴(たかはる)

 召喚されるまでただの一般市民だった中学生。昭君のクラスメイト。

 顔が良いので無駄にモテるが本人に自覚はない。何故なら彼の兄の方がイケメンだから。

 顔が良すぎる兄を見慣れてマヒしており、せめて自分は内面を磨こうと思って努力してきた。

 爽やかで運動も勉強も並み以上の努力をもってモノにしてきた真面目で善良な男の子。


吉栖(よしずみ) 惇哉(あつや)

 召喚されるまでただの一般市民だった中学生。昭君のクラスメイト。

 お調子者で単純、煽てられると世界樹にだって登っちゃうタイプ。

 佐重喜君とは幼馴染でマブダチ。女子からは『佐重喜君の親友』という点にしか価値を認められていないが、本人は気づいていない。

 元バリ族の従兄に懐いてしまったばっかりに、色々余計な知識を植え付けられているが単純すぎて「にいちゃんすごい!」で完結している。悪い知識はあっても活用する発想がない。


村江(むらえ) 姫璃(きり)

 狩人のような目で佐重喜君を狙う肉食女子そのいち。

 召喚されるまでただの一般市民だった中学生。昭君のクラスメイト。

 昭君のことはただの陰気なチビだと判じて今まで気にも留めていなかった。

 素敵な彼氏が欲しいと純粋に強く思っている恋に恋する女の子☆

 現実はちょっと見えていない系。

 ちなみにお母さんは小学校(給食室)勤務の管理栄養士。


西村(にしむら) 雪野(ゆきの)

 狩人のような目で佐重喜君を狙う肉食女子そのに。

 召喚されるまでただの一般市民だった中学生。昭君のクラスメイト。

 さばさばした気質で現実的。村江さんとは利害の一致で協力関係を結んでおり、佐重喜君たちが思うほど仲がいいわけではない。むしろ村江さんに都合よく利用されて苦々しく思っている。

 ちなみにお母さんはこじゃれた調理師専門学校の先生。


田中(たなか)・アマデウス・(はじめ)

 ちょっとお高く留まってクールぶってる昭君のクラスメイト。

 なぜか佐重喜君とは馬が合うようでつるんでいるが、それ以外の生徒とはほぼ没交渉。

 人見知りか性格か、そういう主義なのかは謎だが孤高を気取って他の生徒とは距離を置いている。

 中二病疑惑をかけられているが、実は次期魔王候補と目される地獄の有力者(あくま)


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