クラス 喫茶店 引っ越し
好きな人が……出来た。
同じ学校の、同じ学年の、同じクラスの、同じ女の子。
最初に好きになった時は、凄く混乱した。
こんな稀有な悩み、誰かに相談なんて出来なくて、友達をそういう風に見てしまう罪悪感で距離を置く事も考えた……。
でも、そうやってウジウジしてる私を見て、あの子は心配してくれて……それが凄く暖かくて、心地よくて、私はもうあの子から離れられないんだって、ハッキリ分かった。
だから、あの子とは今まで通り友達でいようと思った。
きっと、それだけで私は……世界一幸せになれるからって、思ってた……。あの日までは……。
「引っ越し?」
「うん……。ごめんね、今まで隠して……」
放課後、いつも二人で来る喫茶店で突然明かされた。
明かしてくれたあの子は申し訳そうに謝って、一週間後に引っ越すつもりで、最後の日に学校でクラスの皆に伝えるつもりで、でも私にだけは先に伝えたかった。必死に涙を堪えながら教えてくれた。
真っ白になった。
あの子に助けて貰ったのに、私は何も出来なかった。
あの子に気づいて貰ったのに、私は気づいてあげられなかった。
それが辛くて…堪らなく悔しくて……申し訳なくて………あの子の前なのに、あの子の方が辛いのに、私は泣いていた。
ごめんなさいって、謝りながら泣いていた……。
あの子はそんな私を見て、何で君が謝るのって、少しだけ笑って……せき止めてた何かが壊れたみたいに涙が溢れてた。
暫く二人で泣いた後、引っ越すまでの一週間、今まで通り友達のままでいて欲しい。と言われた。
引っ越しが決まったのは一か月前。私が気持ちを自覚したのと、同じ時期だ。
あの子も辛いのに、あの時私の事を……。
あぁ、やっぱり、強いなぁ……。
……好きだなぁ。
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引っ越しの話を聞いた翌日。
きっと、いつも通りなんて無理だと思ってた。
でも、朝学校であの子が話し掛けてくれて、普段通りの話をして、普段通りの事をしていたら、驚くほどあっさりと日は沈んでいた。
二日目も、三日目も、四日目も、五日目も。
残酷な位あっさりと時間は過ぎていった……。
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そして今日、あの子が引っ越す前日も、終わろうとしていた。
これが……この他愛もない、かけがえのない繰り返しがあの子の望みだ。
私はこのまま、あの子の親友として、手を振ってあの子を見送ればいい。
別に今生の別れって訳じゃない。連絡手段もあるし、夏休みとかを使えば会う事だって出来る。
……だから、私がこれからあの子に電話するのは、唯の気の迷い。
少し話をして、それで終わり。
そう自分に言い聞かせて、電話する。
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通話ボタンを押して、あの子が出るのを待つ。
数秒は掛かると思ってたから、直ぐに反応が返ってきて電話する。
「もしもし、____だけど……」
「アハハ!奇遇だね。私も今から電話する所だったんだ!」
「そ、そうなんだ…。奇遇だね」
あの子から電話してくれたのが嬉しくて、少し頬が緩む。
そこからは、いつも通りの他愛無い会話が始まった。
いつも通りの声なのに、やっぱり安心して、とても心地が良かった。
それで、気づいたら2時間位話していた……。
これでいい。これで……いい…。
このまま……この気持ちを……。
「……ねぇ、___ちゃん」
「ん~?」
「私ね、___ちゃんに感謝してるんだ」
「えっ?どうしたの?急に…」
「生まれてからずっと、碌に友達なんかいなかった私に、手を差し伸べてくれて、友達になってくれた人。
それからも何度も助けてくれて、1ヵ月前も自分だって苦しいのに私が悩んでるのを見て、慰めてくれた……」
「なんか……恥ずかしいな…」
「だから私も貴方に何かを返したかった……。でも私には何も出来なくて、貴方が悩んでるのだって全然気づいてあげられなかった……」
「そんな事……無いよ。私もいっぱい助けて貰ったよ!」
知ってる。貴方がそう思ってくれてるのは、でも私は……。
「ありがとう…嬉しいよ…。
……それでね、何も返してあげれてないから……せめてお願いは聞いてあげたいって思ったんだ……。
でも……。でも……ダメだった……。
私……耐えられなかった……」
「____……ちゃん?」
電話越しでも分かる、困惑した声。
でも、もう止められない……。
「___ちゃん。好きです……。友達としてじゃなくて、恋愛対象として……」
沈黙が……流れていく…。
言ってしまった。何回も飲み込んだその言葉を……。
何度も封じ込めたその言葉……。
そして、何度も呟いたその言葉……。
「…なんで……」
「……」
「なんで……今…言っちゃったのさぁ!!」
「……ごめんなさい」
「別れが辛いから!!いつも通りで居ようって!!……それなら、耐えられるからって!!また会えるからって!!」
泣きながら、聞いていた。多分あの子も泣いてる。
やっぱり、同じ風に悩んでたんだ……。
「ばかぁ……。これじゃ全部……全部台無しじゃんかぁ……」
「……ごめんなさい」
その後、暫く泣いてる声が聞こえてきて……それは、寝息に変わった。
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「___さんは今日、家庭の事情により引っ越す事になります」
その言葉と同時にクラスに驚きの声が響いて、あの子が色々教卓で話して席に戻る。
席に戻る時私の隣で私にだけ聞こえる声で、放課後屋上で話があるって伝えて、席に戻った。
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放課後、屋上に行くと、あの子が待っていた。
「ごめんね。急に呼び出して」
「ううん。気にしないで、話って?」
私がそう聞くと、あの子照れ臭そうに頬を掻いて……
「はい。コレ」
私の手に紙を置いた
「これは?」
「私の新しい住所」
「……え?」
意図が分からなくて、首を傾げる。
「えっと、あんまり離れてないから、日曜日とかに会いに来て欲しいなぁ……って」
「え……それって」
「昨日の電話の後目が覚めて、それから一晩考えたんだけどね。
私も君の事……好きだと…思うんだ」
……夢だろうか。
「でも引っ越しは決まった事だから……遠距離恋愛?…になっちゃうけど……い、いいかな?」
「……うん…うん!」
何度も頷く。この現実を噛み締める為に。
「えっと……じゃあ、これから……よろしくね」
「はい!」
こうして私は世界一幸せになりました……。