初の5才超え
「「「レンくん5才誕生日おめでとう〜!」」」
両親と兄が優しい笑顔で僕の誕生日を祝ってくれる。
とっても嬉しい。
生きられたわぁとかも、もちろんちょっぴり心配だったから安心もしたけど、家族が喧嘩をしたりいっぱい色々あったけど仲良しでいられている事が一番嬉しい。ふふ、ありがとう。
セミロングの柔らかい水色の髪とウルっとしてる同色のぱっちりお目々が可愛いおっとり雰囲気のスイちゃん。
ぽやっと普段はしてるけど見た目とは違う度胸がある頼りになる大黒柱のモモくん。名前は体を表すというけれど髪と目は優しげな桃色だ。
おっとり和やか美人と優男なイケメンの両親はとても若く見える。もう35歳だけど、10歳は下に見える。
DNAだ。
これは期待せずには初めてしっかり両親を見た時はいられなかった。
モモくんのいつもは表情が柔らかいから分かりづらいけど、男らしい切れ長の目とスイちゃんの綺麗な水色の髪と瞳がいい具合に混ざってないかなぁとワクワクしたりした。
儚い夢だったけどね。
顔つきは可愛いらしいスイちゃん似の水色の髪と桃色の瞳だった。
太郎と変えて欲しい。スイちゃんの顔は大好きだけどやっぱり男だからね。かっこいいのに憧れちゃう。
ガキ大将よろしくな表情が切れ長の目にいかされて、濃いピンク頭に瞳は涼やかな水色。それが太郎だ。兄ながらかっこいい、それ僕が欲しかった。
まぁどちらにせよ、心の表情が顔つきを変えるからね。そう悲観する事もないかと今では割り切ってる。
スイちゃんもモモくんもご近所さんによくニコニコして、優しい両親ねと言って貰ってる。人に与える印象は本人の気持ち次第だ。礼儀正しくしよっと。
「レン!お前は線持ちで産まれてきたから、5才の誕生日の今日を一人前への段階1段目とする。オレの隠れ家に連れて行ってもいいぜ!」
と、太郎が誘ってくれた。
一般的に初めの一線を刻んで能力をコントロールでき出すと一人前扱いになる。
「いいの?今までは危ないからダメって言ってたのに」
太郎は運動神経がいいから、多分大人でも見つけれない変な所に隠れ家を作ってるんだと思う。
スイちゃんとモモくんが後付けたけど撒かれたって言ってたから。やる時はやる男だな太郎は…。よく傷だらけで帰ってくるので心配するモモくんだけど、スイちゃんが男の勲章だと大目にみてるから太郎の行動は制限されたりはしてなかった。
僕には夢があるから、いつもはモンスター図鑑を熟読して暇がないんだけどそろそろ自分の使徒するモンスターの幅を広げて友達増やしたい。
太郎が行く所には何か出逢いがあるかもしれない。
楽しみだ。
「さっそく明日行こうぜ!」
「うん!」
「あっ二人共!明日は夕方から紹介したい人達がいるからそれまでには帰ってきてね?」
***
絶句した。
太郎がここまでバカだったなんて、僕の読みもまだまだだったんだ。
「太郎ーーー!何処だバカやろー!!」
生い茂る山々の中で半泣きになりながらパニック中。
ヤバい、死ぬかもしんない。
***
思えば昔から太郎ははっちゃかめっちゃかなワンパク小僧だった。毎日2段ベッドから落ちるし、そのまま起きないし痛がりもしない。
ご近所の子供で太郎の体力に付いて遊べる子は少ないし、人の話もなんとなしにしか聞いてない。あれ買ってきてと言えば、違うのを必ず買ってくる。数も違う。元気が一番な食いしん坊な寝太郎だ。
でも兄としては優しいし、力加減分かってないけど遊んでくれる。裏表ないから、友達も多い。プラマイ0それが太郎というこの村ユールレのガキ大将だ。
それでも今までで一番僕が衝撃だったのはあの“取り返しつかない事件”だろう。
2年前僕が3才の時に、ある近所の空気の読めないおっちゃんが太郎と僕を比べて言った。
8才にもなって弟に能力線で負けちまって、もっと家の手伝いやらないと無能者になっちまうぞと。
軽い言う事聞かない子供に怪談話をしてお灸をすえる気持ちだったのだろう。でもそんな善意いらない。体がカッて熱くなるみたいに僕は腹が立った。
“無能者”
線が不十分に刻まれない者の事だ。
ごく稀にちゃんと線が繋がってなかったり、薄かったりして満足に能力が使えない者をそう呼ぶ。
原因不明で、明確な改善方法も分かってない。
実はモモくんとスイちゃんも5ミリ幅のあの線が手首を探しても顔の下をいくら探しても見つからない。
でも生活に困ってないし、あれ?って思いながらもぽや〜っと生きていた。
例え無能者だとしても、何処ともしらないおっさんに言われる筋合いはないし他人の家に土足で入る(ユールレは基本土足だけど。)行為はしてほしくなかった。
それに太郎はまだ10才まで2年ある。8才は確かに遅れ気味だけど余計なお世話だ。
ぶあっと怒りが湧いて僕の使徒モンスターが人の見えない所で攻撃準備に入ってるのを感覚で察知する。
けどダメだ、村人を傷つけたら家族に迷惑がかかる。
能力が暴走しかけた時に太郎の声が聞こえた。
線なしでも太郎は運動神経もいいし、そんじょそこらの大人には負けないケンカ力がある。僕より先に怒り狂うと咄嗟に短い幼い手で止めようとした。
「え?能力線って何?」
太郎…分かるよ、現実見たくないよな。兄弟だから分かる。辛い事に無理に立ち向かわなくても、ゆっくりいつか自分の気持ちと向き合えた時でいいんだ。だから、手はださな/
「レンの首の線のやつ?これってインクで遊んでたらのかなくなったやつじゃないの?」
…………え、
「はぁ、坊主はやっぱりバカだなぁ。この線を刻む事で能力が使えるようになるんだ。ちゃんと学校で勉強しないからそうなるんだぞ、まっ嫌いじゃないけどなガキは元気が一番だ!ワッハッハ!」
「ふ〜〜ん。でもオレ今でも強いし」
「そりゃそうだが、線付きになればダンジョンも裏山の未知なる森にだって入る許可でるぞ。能力無しは危ないから禁止されてるけどな。坊主よく連れてけって親父に喚いてるじゃないか」
「えっ!!?そうだったの!?オレてっきり、走り込みしたり筋トレしたら目覚めるもんだと思ってた〜!そうと決まったらつ〜けよっと……あっ付いてる?」
「えー!?何やってんのー!?太郎のバカーー!」
あぁ…太郎が…
「うん?付いてるみたいだな、よし。そこの犬ふせ」
何も考えずにテイマーの証の線を刻んだ…
「「………」」
「中々ふせしないなーふーせふせっ!」
おっちゃんと二人で沈黙する。恐らく太郎は100%右腕に刻むのが良かったタイプだ。なんでテイマーにしたんだ…いや多分太郎は…
「え?他にもあんの?」
おっちゃんが気まずそうに空気を読んで去って行った。野良犬は未だに伏せはしない。というか、やかましいガキに段々腹が立ってきて飛びかかってきそうでさえある。…あっケンカしだした。
僕は一瞬で犬を和ませれる事は出来るけど、太郎の取り返しのつかない証に衝撃をうけてただただケンカを眺めるだけだった。
家に帰って止めれなくてごめんと両親にずっと寝るまで謝った。モモくんは太郎が今でもヤンチャなのでギリギリまで教えるのをやめていたそうだ。スイちゃんは無限の可能性を秘めた子供を抑えつけたくなくて、太郎の成長を見守っていたという。
ある程度説明はしてたので、理解してると思っていたらしく太郎を甘くみていた両親だった。
だからもう泣かないでと3才の僕は情緒がちょっと乱れてたのを落ち着かせられてた。
太郎…テイマーなら魔力を持たない犬ぐらい最低限懐かせる事がでくる。ノラ犬でケンカになってちゃ、約束の世界一周が出来ないじゃないか…
僕がしっかりしてれば…