一日目
俺が朝起きるのは、カーテンの隙間から射し込む光のせいでも、携帯のアラームの音のせいでもない。
「ゆ……ん、ゆ…くん」
「ん……?」
「おはよぉ、ゆーくん。」
語尾にハートが付くほどの笑顔と甘ったるい声と、
身体にかけられている体重と、
「痛っ、またかよ……」
――左手首に巻き付けられた縄の痛みのせいだ。
「おはよう、片岡。相変わらずだな。」
俺の幼なじみの片岡青菜は、毎朝家に迎えに来てはこうやって、俺の上に乗っかり、縄を巻き付けてくるんだ。
彼女によるとそれが興奮するらしい。
「相変わらずって何?ていうか、青菜って呼んでよぅ。」
「ばっ、呼べるか!」
クラスメイトに、ロリ巨乳アニメ声という萌え萌え幼なじみがいるなんて羨ましいと言われている俺が、青菜なんて呼んだらどうなると思う?
答え、ぼっちになる。確実に。ただでさえ友達少ないのに。
「えー、何でよぅ。」
こっちの事情も知らずに聞いてくるのが癪に障る。
おい、もしお前が語尾を伸ばす癖をやめて、普通女子になったら呼んでやらなくもないぞ。と、そんなことは言わない。
「何でもだ!とりあえず今すぐ降りろ!そして縄をほどけ!」
「ちぇー、わかったぁ。」
こう強く言わないと聞かないのが厄介な所だ。
「じゃあ着替えるから、部屋から出てろ。」
「えー?手伝ってあげるよぉ?」
片岡はあざとく上目遣いをするが、俺には通用しない。それどころか、引くレベルだ。
「は?何言ってんのお前。」
「ごめんなさい……でも……」
しゅん、と効果音が付きそうな落ち込みように少し申し訳無くなってくるが、ここで甘やかしてはいけない。
無理やりにでも外に追い出して、扉を閉める。
待たせては悪いと思い、急いで着替えて片岡の元へ向かう。
それからリビングで昨日の残り物やスーパーの惣菜を一緒に食べ、家を出る。
「行ってきます。」
誰の返事も返ってこない家に挨拶してから。