7・美少女フローラ
「ぜえ……ぜえ……疲れた」
なんというか。
無駄な動きをして疲れた、というか……。
「本気を出さないようにするのは疲れる……」
私は冒険者ジムの床に座り、息を整えていた。
うわぁ……折角、今日のために新調したシャツが汗でビチョビチョだ。
体が服に引っ付いて、なんともいえない不快感が込み上げてくる。
「大丈夫ですか?」
気持ち悪さとしんどさでグロッキー状態になっていたら、
「誰ですか?」
――声をかけられ、手を差し伸べられた。
「無理もありません。このクレテール冒険者ジムはダイエットコースとはいえハードで有名ですからね」
「そ、そうなんですか!」
「冒険都市とも言われるだけ――それだけ冒険者の育成に力を入れていますからね」
「それは知らなかったぁ……」
あんなんでハードなのっ?
ダイエットコースだけではなく、おそらく冒険者らしき人達もジムで汗を流していたが、あんなんじゃオークの一体を倒すにも難儀しそうだ。
ドラゴンなんて夢のまた夢。
「申し遅れました――わたくし、フローラ・ジュリエールと申しますの」
フローラ――と名乗った女の子の手を取る。
立ち上がって、声をかけてきた彼女の顔を見るとビックリ。
「び、美人さんですねっ!」
「ふふん。ありがとうございます」
貴婦人は上機嫌に鼻を鳴らす。
金髪縦ロール。鼻が高く、高価な壺よりもキレイな白肌。
そして高そうな服。セールで服を買う私とは『力』が違う。
……『女子力』という力が、ね!
「私は! 私はエイ――じゃなくて、エクレア・アップルティーと言いまして」
「あなたの名前は知っていますの」
フローラさんが手で制す。
「――昨日、クレイグさんを模擬戦で倒した女の子ですよね」
「はう!」
やっぱり、そう来たか!
元勇者だということを隠すため、必死に言い訳を考えていると、
「……もっとも、クレイグさんの体調が悪かっただけだと思いますが」
「え?」
「だって、あなたみたいな可愛い女の子が勝てるわけないですもん。ジムの中でもそういう話になっているらしいですわ」
「そ、そうなんです! クレイグさん、急に倒れちゃって!」
都合が良いので黙っておこう。
つうーっ、と首筋を流れた汗に気付かなければいいんだけど。
「それで……今日、あなたに声をかけさせてもらった理由は別にありますの」
「なんなんですか?」
「はい――今からダイエットコースのみなさんと『お茶会』をしますので、ご一緒しませんか?」
お茶会?
確か王都で何回か聞いたことがあるような……。
お茶会かぁ。でもきっと、お茶を飲むだけの退屈な集まりなんだろうなぁ。
まあ丁度喉が渇いているから良いのかもしれないけど。
「もちろんご一緒させてもらいます!」
意識して満面の笑みを作る。
やっぱり普通の女の子になるためには、友達付き合いも大切にしないとね!
今まで、半引きこもり生活してたから、人とコミュニケーションを取っていないしね。
「そんなに喜んでくれるとわたくしも嬉しいですわ」
フローラさんも笑顔で返してくれた。
■
――冒険都市クレテール。
その名の通り、『冒険』によって栄えてきた都市である。
冒険者、という職業は危険ながらも儲かる。
まずクエスト成功によるギルドからの報酬金。ダンジョン内で拾ったアイテムや、倒したモンスターから得られる資源を換金することが出来る。
クレテールは周囲にもダンジョンが多く、そういう意味では資源が豊富であった。
そのおかげで、クレテールに住む人達は豊かな生活が出来ている。
「フローラさん、どこに行くんですか?」
前を歩くフローラさんに尋ねる。
「お茶会が開かれるところです。もうみなさんお店にいるらしいですから」
「わざわざお茶を飲むだけなのに移動するんですか?」
「ジムでお茶会を開くのも雰囲気がないでしょう。それに……ダイエットコースなのに、お茶会なんて……怒られちゃいますわ」
「ふうん?」
フローラさんの言っている意味がよく分からない。
それにしても――地面は絨毯が敷かれているような石畳。
街の至る所に川が流れ、木が植えられているおかげなのか空気もキレイ。
洗練されて統一感のある街並みは、王都よりも目を奪われるものがある。
魔王を倒す(旅行)ついでに、クレテールに寄った時から気になってたんだ!
一人暮らしをするなら、絶対ここって!
「着きましたわ」
クレテールの街並みを見ながら歩いていると、不意にフローラさんは足を止めた。
「ここは……」
――そこは『喫茶店』であった。
今日は夜にあと一度更新します!




