4・必死に実力を隠します
ってなわけで、王都から離れたクレテールに家を貰って、悠々自適に暮らすことになった。
もちろん、『元勇者』っていう身分を隠して、だ。
……いや、私は勇者なんて大層なもんじゃないと思ってるけど、みんながそう言うんだから仕方がない。
幸い魔王を倒した報酬金は一生働かなくても大丈夫なくらいの量であった。
元勇者という身分を隠して!
クレテールのご婦人の間では大流行している冒険者ジムのダイエットコースに挑戦する!
これこそ、私が望んでいた普通の女の子であろう。
実際、この二年は普通の女の子として満足な生活を続けていたんだけど……、
「だから! ジムのお兄さんの体調がたまたま悪かっただけですってば!」
どうしてこうなった!
「例えクレイグさんの調子が悪くても、気絶させるくらいの一撃をくらわせるなんて……一体、あなたは何者っ?」
そう!
ジムのお兄さん――クレイグさんを模擬戦で倒しちゃった私は、ジムの人達に囲まれて疑惑の目を向けられていた!
「私は普通の女の子です! Bランク冒険者のクレイグさんを倒せるくらい強いわけないじゃないですか!」
「そりゃそうだけど……」
不味い!
つい、実力の片鱗を見せてしまった。
このままでは、私の身分がバレてしまうかもしれない。
それはいけない。折角、クレテールまでやって来て普通の女の子ライフを満喫していたのだ。
「クレイグさん!」
「ん、んー……?」
そうこうしている内に、床で横になっていたクレイグさんの意識が戻ったようだ。
目に当てられていたタオルをどけて、
「ぼ、僕は……一体なにが?」
「エクレアさんと模擬戦をやって! 意識を失ったんですよ!」
周囲の人達がクレイグさんに状況を説明している。
あ、エクレアっていうのは私の名前だ。
私の本当の名前は『エイミー・レジーナ』って言う。
でも、さすがに本名の名乗ったら一瞬でバレてしまうから偽名を名乗ることにした。
エクレア・アップルティ――。
名前、適当すぎだろって言わないでよね!
「エクレア……さん? 確かダイエットコースの生徒――」
その時。
クレイグさんは私を見た瞬間、獣のように飛び上がって近くの柱を抱いた。
「ひ、ひぃっ! ド、ドラゴン!」
「どうしてこうなった!」
私、可愛い女の子なんですけど!
「ドラゴン……? エクレアさんが、ってことなのか」
「ドラゴンと見間違う程の実力……ますますタダモノじゃない」
状況が悪化している!
このままじゃ、マジでヤバい!
私は腕を捲り上げて、
「見てください! こんな細腕でクレイグさんを倒せるわけないじゃないですか!」
「むっ」
いくらダイエットコースに来たといっても、私は可憐な女の子。
「確かに……いくら頑張っても、その腕でクレイグさんを倒せるとは思えない……」
「やっぱりなにかの間違い?」
よし!
もしかしたらなんとか誤魔化せるかもしれない!
「でも……二の腕のお肉はしっかりしているみたいだわね」
「あっ!」
急に女性のジムトレーナーに二の腕を揉まれて、変な声を上げてしまう。
「とにかく! なにかの間違い間違いです! 私は普通の女の子です。ダイエットに来た普通の女の子なんです!」
「むぅ……普通、凄腕の冒険者って体つきを見ただけで分かるけど、やっぱり普通の女の子にしか見えない」
「余計な脂肪は付いているみたいだけどね」
おい、一人!
ドサクサに紛れて、私のことを罵倒していないかっ?
「きょ、今日のところは帰ります! 明日も来ますからね!」
なんとか誤魔化せそうなところで、ダッシュで冒険者ジムを後にする。
あっ、そうそう。
ジムを出る寸前でクルッと顔だけで振り向いて、
「もちろん! ダイエットコースにね!」
そうウィンクをして、逃げるようにして自宅に直行した。




