30・もう一度勇者になってみる
いつもの穏やかで平和なクレテール。
でも今はなんということだろうか。
人々が慌ただしく走り回っている。
「なんてことだ……」
やはり、古代種はクレテールに移動していたのだ。
古代種はその巨大な体を使って暴れ回り、クレテールの街並みを破壊していっている。
「くっ……どうしてだ! イメジの洞窟で封印されていたんじゃねえのかよ!」
「分からねえ……誰かが勝手に封印を解いた? でも、そんなことをしてなんの得が?」
「ごちゃごちゃ言ってても、仕方ないだろ! 今はこのモンスターをなんとかしねえと!」
クレテールの冒険者達が古代種の回りを取り囲むようにして、必死に戦っている。
「ご、ごめんねさい!」
それを横目に小さく呟く。
……やっぱり、あの洞窟の水晶のような石って古代種を封印していたのか!
「がはっ!」
「耐えろ! オレ達が頑張らねえとクレテールはお終いだ!」
並の冒険者なら、古代種の攻撃一発でやられてしまうだろう。
しかし劣勢ながらも、冒険者達はなんとか古代種に立ち向かっている。
今のところは死人を出してないように見えるけど……全滅するのは時間の問題だ。
「ちょっと待っててね!」
本当なら、今すぐにでも助けに入りたい。
でも武器もなにも持っていない私では、さすがに古代種は手に余る。
とはいっても、ロングソードだったりダイヤモンドソードだったり、あんなしょぼい武器じゃ古代種にトドメを刺せない。
だから、
「今すぐ武器を取りに行きますから!」
自宅に向かって駆け出した。
——そう、私の家には一本の剣が置かれている。
普通の女の子ライフを送るために、捨てようと思ったけどどうしても捨てられなかったものだ。
だって、あの剣には旅の思い出が一杯詰まっているんだもん。
「でも……本当に良いんだろうか……」
走りながら、自問自答する。
——もし、あの武器を使ってしまえば私の正体がバレてしまうかもしれない。
「でも……でも! クレテールを守りたい!」
そう。
私が戦わなければクレテールは滅びる。
それだけは嫌だった。
古代種が暴れ回っているせいで、崩壊していく建物。
流れ弾の唾液が地面に着弾し、人々の悲鳴が上がる。
「ここ!」
私の家にたどり着く。
良かった、どうやら建物は崩壊していないみたい。
崩壊していて、剣が見つからないってなったら洒落にならないからね。
私は蹴破るような勢いでドアを開け、狭い部屋の片隅に置かれている剣を手に取る。
「久しぶりだね」
鞘に収まっている剣。
私はそれに対して、話しかける。
「もう一度——私と戦ってね」
そして柄を握り、一気に剣を引っこ抜く。
その瞬間——目の前が光で包まれる。
ダイヤモンドソードのように、ただ貴金属を散りばめているからではない。
研ぎ澄まされた刀身。
あらゆる魔法処理がなされたために起こる発光。
魔王を打倒した剣でもあった。
その名は——。
「——フェニックス・ブレイズ。いくよ」
勇者の剣を携え、急いで家の外に出た。
「ダメだ、オレ達だけではどうしようもねえ!」
「もうこの街はお終いだ!」
家から外に飛び出すと。
暴れ回っている古代種に匙を投げ、逃げている冒険者の姿があった。
「お嬢ちゃんも早く逃げな! あのモンスターは……」
「もう大丈夫。安心して」
私がそう言うと、冒険者の人は頭に『?』マークを浮かべた。
でも追求する暇もないと判断したのか、私の前から走り去ってしまった。
「私の大事な街をこんなメチャクチャにして……」
「ふしゃー!」
興奮状態にある古代種が街の中央で暴れ回っているのが見える。
建物が倒壊しているし、古代種の体も大きいから離れていても位置がはっきりしているのだ。
「ちょっとお仕置きが必要だね」
すう、と息を吸う。
そしてかっと目を見開き、地面を思い切り蹴る。
——跳躍。
「ふしゃー!」
そして古代種の目の前に着地。
走って五分くらいの距離ならば、一回ジャンプしただけで到着することが私には出来る。
いきなり現れたように見えたのだろう。
私に対して、威嚇を始める古代種。
「私達が封印を解いたことが悪かったのかもしれない。でもごめんね。私は私で大切なものを守らないといけないから」
フェニックス・ブレイズを振りかぶる。
様々な魔法効果が付与されている、勇者にだけ持つことが許された剣。
私はそれを秘境にまで素材集めに出かけ、伝説の鍛冶屋さんに作ってもらった。
魔王さえも楽勝で倒した最強の武器だ。
「ふしゃー!」
古代種が唾液を吐く。
私はジャンプしてそれを回避し、そのまま古代種の頭に目掛けて剣を突き刺す。
「ふしゃあああああああああ!」
鼓膜が破れんばかりの絶叫。
ダイヤモンドソードで突き刺した時は、せいぜい皮が破れたくらいで肉まで辿り着いていない。
だけど勇者の剣さえあれば、たった一刺しで古代種の(そんなのがあるのかは正確には分からないけど)脳みそまで辿り着くことが出来る。
「はあああああああ!」
久しぶりに気合いを入れて、そのまま剣を引く。
緑色の血液が噴射し、体がベトベトになってしまったけど気にしている余裕はない。
古代種の肉の繊維がブチブチと千切れていく。
そのまま頭から尻尾まで剣を引いたまま降り、古代種を真っ二つに切断する。
「——ざっとこんなもんですか」
後ろを振り返ると、そこには動かなくなった古代種が倒れ伏せていた。




