3・二年前のこと
〜二年前〜
「あれ? これって魔王だったのっ?」
勇者だと祭り上げられ、魔王を倒す『旅行』に出かけていた時だ。
私達は道中、美味しいケーキがあると言われる街まで馬車に揺られて向かっていた。
途中……なんだか道を塞がれて、面倒臭いなって思いながら外に出たら奇怪な顔色をした男(?)がいた。
まあこういうのはよくあることだ。
旅の途中で『盗賊』に襲われることなんて。
だからいつも通り、特に深く考えもせずに道を塞いだ男をボコボコにしてしまった。
「自分達の戦いが早くも終わってしまった」
魔法使いの女の子が口にする。
そうそう、説明していなかったけど、私は一人で旅行をしていたわけではない。
私――エイミー、と魔法使いの女の子。武闘家の女の子の三人でパーティーを組んでいたのだ。
「例え盗賊と間違ったとはいえ……殺すまで過剰に暴力を振るう。オレでもさすがにドン引きだぜ」
「ちょ、ちょっと! ちょっと力の具合を間違っただけだってさ!」
うわぁ……どうしよう。
道のど真ん中で大の字になって倒れている男。
盗賊にしては珍しい魔法を使うと思ったけど、まさか魔王だったなんて……。
そこらへんで拾った木の枝で魔王の頬を突いてみる。
「返事がない……どうやら屍のようだ」
表情が乏しい魔法使いの子が単調なリズムで声を出す。
「本当に死んじゃったのかな?」
「どうやらそうみたい」
「どうしよう……治癒魔法とか使って生き返らせることって出来ない?」
「無理」
「お前はそうじゃなかったかもしれないが、オレ達って魔王を倒すために旅を続けていたってことを忘れてないか?」
うーん。
やっぱり私は魔王を倒してしまったらしい。
どうせなら、もう少し劇的に倒してみたかった。
私は他の二人と比べて、魔王に執着してなかったけど。
「と、とりあえず! ここに置いておくのもあれだし、ギルドに届けよ! 報酬金が貰えるかもしれないし」
「そんなスライムを倒したみたいに……」
「相変わらずエイミーは次元が違うぜ」
なにやら後ろで意味の分からないことを呟いている二人を放って、馬車に魔王(の死体)を投げ入れた。
「――そなたはこの度、魔王を倒し世界に平和をもたらし――」
どうして、こうなった。
王都のギルドに魔王の死体を持っていったら、まずは疑われ、どうやら本物だと分かると驚き。そして悲鳴。
そこからは目まぐるしく時間が流れていったため、細かいとこは覚えていない。
記憶が再開したのは、まさしく今。
「はあ……」
曖昧な笑みを浮かべる。
今――私は国王の前にいる。
この国を統べるハーフルト王国の国王である。
私は偉い人達に囲まれ、国王直々に表彰状を読まれ、どうやら盛大に祝われているようである。
「どうやってあの魔王を倒したんだ?」
「十万の軍がたった魔王一体で壊滅させられたというのに……」
「想像を絶する程の死闘だったに違いない」
いやいや!
余裕でしたから!
しかも旅行ついでに、盗賊だと思って倒してしまいましたから!
「魔王を倒したそなたはこの国……いや世界の英雄じゃ。望むことはないかのぅ?」
「望むこと?」
「儂の力で叶うことがあれば、そなたの願いを叶えたいと思っているのじゃが」
望むことか……。
正直、私はそんなに欲しいものなんてない。
そんなに裕福でない家で生まれたからなのかもしれない。
私は美味しいお菓子を食べて、平和な日常を過ごせればそれでいいのだ。
「魔王を倒したんだ。もしや……この国を統べる王に?」
「いやいや、勇者様とはいえ男が欲しいに決まっている」
「あの歳で全てを手に入れるとは……」
後ろで見守っている人々のヒソヒソ声が聞こえる。
――間違いだっとはいえ、魔王を倒してしまったのは事実であった。
あまり世間を知らないとはいえ、魔王を倒してしまえば否応がなしに注目されるのは私だって分かる。
――もしかしたら、平穏な日々ってもう訪れない?
急に不安になってくる。
勇者とまつりあげられ、事件が起これば出動するだろうし、気軽に出歩くことも出来ない。
そんなのは嫌だ。
口髭を生やした優しそうな国王。
だから少し考えてから、私はこう答えた。
「普通の女の子になりたいです!」




