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28・勇者の剣(偽物)

 レイラさん……未だ実力ははっきりとさせていないけど。

 元Aランク冒険者だ、ということを聞いたことがある。

 それなのに、すぐにさじを投げ出すなんて……。


「ふしゃー!」


 攻撃を防がれたせいなのか、古代種がさらなる興奮状態へと入る。


「ちょっと、このスラちゃんをお願いします!」

「あら、これは?」


 スライムをレイラさんに渡す。


 今、思えば。

 イメジの洞窟のモンスターが減っているのも、古代種の出現が関係しているのかもしれない。

 モンスターというものは、わざわざ自分より強いヤツと戦おうとはあまりしない。


 だけどスライムのような弱いモンスターだったら、気配といった見た目だけで相手が強いかどうか判別出来ないのかもしれない。


「ぴぎ……」


 レイラさんの胸の内で鳴いているスライムは心なしか、古代種に怯えているように見えた。


「あなた……なにをするつもりかしらあ?」

「決まっているでしょ!」


 逃げます!

 と言いたいところだけど、それをしてしまえばダイエットコースのみんなが死んじゃうしね。


 私は鞘からロングソードを抜き、


「古代種と戦ってみます!」


 振りかぶりながら、古代種に向かって走り出した。



「ふしゅー!」


 古代種が私を見て、威嚇している。


「さて……」


 これからどうしようか。

 あまりにノープランで来てしまった。


 チラッ、とレイラさんの方を見る。


「ふふふ、面白いことになったわねえ」


 こんな危険な状況なのに、レイラさんは結界を張った中で笑っていた。


「本気出すのはダメだよね……」


 ……そう。

 古代種を前にしても、私には恐怖が少しも生まれてこなかった。


 せいぜい、魔王くらいの強さだろう。

 私は楽勝で魔王を倒したのだ。

 今更、古代種ごときで慌てることなんてないんだけど……。


「うわあ」


 我ながらあざとらしい悲鳴を上げながら、古代種の攻撃を回避する。

 古代種はまるで嵐のように動き回る。


 多分、私の強さを理解しているんだろう。

 暴れ回り、口からさっきの唾液を吐きまくっている。

 私はそれを間一髪で(本当は楽勝で避けられるんだけど)回避する。


「エクレア! 危険ですわ。早く逃げましょう!」


 後ろからフローラの声が聞こえる。

 まあ、そりゃそうなるだろうな。


「どうやって、レイラさんの目をあざむこうか……」


 ドンデリーの森の時みたいに、スライムだけだったらなんとかなる。


 でも——相手は腐っても古代種だ。

 レイラさんの目を欺きつつ、古代種を倒すとなると途端に難易度が上がってしまう。


「えい!」


 考えても仕方ないので、ロングソードを適当に一閃。


「ふしゅー!」


 攻撃は命中し、古代種が苦しそうに体をくねらせる。


「エクレアさんの攻撃が効いてますわ」

「この調子ですわ、エクレア! この調子で、コダイシュとかいうモンスターをギッタンギッタンにしてくださいませ!」

「わたくし達も参戦した方が良いのかしら?」


「それだけは止めて!」


 さすがに古代種相手にみんなを守りきれないよ?


「ふしゅ、ふしゅ、ふしゅー!」


 中途半端な攻撃をくらわせてしまったからだろう。

 どうやら古代種を怒らせてしまい、火球が私に襲いかかる。


「きゃっ!」


 あっ、これは本当の悲鳴です。

 火球は私の近くに被弾した。


「あらあ、魔法も使えるのねえ」


 間延びしたレイラさんの声。


 驚いた。

 この古代種……ただ暴れ回るだけしか出来ないと思っていたけど、ファイアーボールなんていう魔法も使うことが出来るのか。


「ふしゅ、ふしゅ、ふしゅー!」


 古代種がファイアーボール、ライトニング、といった魔法をメチャクチャに連発する。


「ほっ、ほっ、ほっ!」


 でも魔法がくるって分かっていれば、こんなの避けるなんて楽勝だ。

 私は古代種から放たれる魔法を回避しながら、冷静に分析する。


 魔法を使えるモンスター、ってなるとなかなか数が少なくなってくる。

 高い知性を備えてないと魔法は使えないはずなんだけど……どうやら、この古代種。魔法の理論なんて全然理解していないけど、無理矢理に発動させているらしい。

 それは大人ほどの身長がある赤ん坊が暴れ回っているようなものだ。


「話し合い……は無理だよね?」


 うん、やっぱり言語は理解出来ないだろう。


 どうしよう……。

 このままじゃ、ダイエットコースのみんなの方に魔法が当たるかもしれないし。

 だからといって、次にロングソードで斬りつけたら今度こそ実力がバレちゃうかもしれないし……。


「そうだ!」


 良い考えが閃く。


「エクレア! なにをなさるつもりですか!」


 フローラの悲鳴のような声。


「ダイヤモンドソードを使ってみる!」


 ロングソードを放り捨てて、もう一つのダイヤモンドソードを鞘から抜く。


 無駄に重い……。

 この剣を作った人はなにを考えているんだろうか。


「ロングソードじゃ、このモンスターは倒せないよ! だから、フローラから貰った剣で戦ってみる!」

「それは良い考えですわね。安物の剣では、その強そうなモンスターに勝てそうにないですし……」

「そうでしょ!」


 ……なんて言ってみるが、私の考えは別のところにある。


「いっくよー!」

「ふしゅー!」


 立ち塞がる古代種に向かって駆け出す。

 ひょひょい、と古代種の背中を駆け上っていく。

 ……この時点で、私の実力がバレてしまいそうな気もするが、細かいことを気にしたら負けなのだ。


「ふしゃー!」

「エクレア!」


 フローラの叫び声が聞こえる。

 古代種がさらに激しく暴れ回りだしたのだ。

 そのせいで、私は振り落とされてしまいそうになる。


「元勇者の実力を舐めないでよね!」


 もちろん、声のボリュームはみんなに聞こえないくらいまで下げている。

 田舎村にいる頃から運動神経は良かった。

 暴れ回る闘牛を乗りこなせるようになったのは、六歳の時であった。


「あらあ、凄いわねえ」


 レイラさんの方を見ると、うっとりとした視線を向けられていた。

 ……よし、なんとか古代種の頭頂部まで移動することが出来た。


「くらえ!」


 ダイヤモンドソードを脳天に突き刺す。

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