26・勝負開始!
クレイグさんと相談して決めた戦いのルールーは……、
・制限時間は二時間。
・モンスターからドロップ出来るアイテムの金額の大小によって勝敗を決める。
・換金はクレテール冒険者ジムと提携しているギルドによって行う。
という簡単な三つだ。
「これで問題はないかい?」
「ありません!」
なんでもいいよ、どうせ負けるんだから。
とはいっても、最初からやる気がないのがバレたらダメだからな。
適当に腕をブンブンと振り回したり、屈伸をしてみたりする。
「じゃあ早速、始めようかしらねえ」
何故かレイラさんが仕切り出す。
私とクレイグさんは一列に並ぶ。
「……始め!」
レイラさんがそう言って、手を叩いた瞬間。
クレイグさんが走り出し、その背中を追いかけるように私も駆け出した。
■
「ジメジメしててやだな……」
湿気で前髪が巻いてくる。
こんなところ、来たくなかったんだけどな。
「まあ仕方ない」
私は目的もなく、洞窟の奥へと進んでいく。
出来るだけ人から遠ざかるように。
「おっ」
スライム発見。
スライムがぴょんぴょんと飛び跳ねながら、私へと向かってくる。
「勇者時代は私から逃げるモンスターばっかだったんだけどな……」
まあ、弱いモンスターであるスライムのことだ。
きっと私の強さなんて分からないだろう。
「よしよーし」
もちろん、そんな可愛らしいスライムなんて倒さない。
飛びついてきたスライムを私は両手で温かく包み込む。
「ぴぎっ、ぴぎっ!」
スライムが私の腕の中で鳴いている。
スライム、ってのは基本的には温厚なモンスターである。
こちらが危害を加えない限りは襲いかかってくることはない。
ドンデリーの森の時みたいに、気が張っていたり、お腹が空いていたら別かもしれないけど……。
「まああの時は一杯人がいたからね」
でも今は私だけだし。
私はスライムを抱きながら、さらに奥へと進んでいく。
強いモンスターを求めて?
いや、もちろん違います。
「ここまできたら、大丈夫かな……」
レイラさんあたりは、私のことを追いかけてきそうだし。
ってか密かに尾行していることは分かっていた。
「サボってるのがバレたら、言い訳出来ないしね」
「ぴぎっ」
スライムが同意するように鳴く。
なので道を曲がった瞬間、高速で動いてみたり。
天井を歩いて、目眩ましをしてみたり。
なんとか尾行を巻いたおかげで、レイラさんを振り切ることが出来た。
「ふんおっ! ふんおっ!」
洞窟のどこかで、クレイグさんの声が反響している。
「頑張ってるなー」
あっ、ここ座るのに丁度良いかも。
予め持ってきていた布の上にお尻を置いて座る。
「ハッハハ! これだけあれば、エクレアさんに負けないはず……」
「大丈夫。心配しなくても、あなたの勝ちだから」
「ぴぎっ」
あー、それにしても暇だな。
なんか本でも持ってくればよかった。
後、一時間三十分くらいだろうか。
勝負が終わるまで、私は誰にも見つからないようにこうやって息を潜めておかなければならないのだ。
退屈すぎる……。
「でも! この勝負が終わったら、晴れてみんな私のことを見直してくれる……じゃなくて、失望してくれるはず!」
『エクレアさんってやっぱり弱いのね』
『失望したわあ。あなたには期待していたというのにねえ』
ああ。
みんなの失望の眼差しがありありと想像出来るぞ!
そして私は普通の女の子ライフを満喫するのだ。
フローラ達とダイエットして。
たまに甘いものを食べて。
そんな極々当たり前、でも幸せな日々がすぐ近くまできている!
「ぴぎっ、ぴぎっ!」
「おお、スラちゃん。あなたも祝福してくれるんだね」
無論、スラちゃんというのは胸の内にいるスライムのことである。
期待で胸がワクワクしてくる。
ロングソードもダイヤモンドソードも使う気配はない。
「むっ……どうしてだ! どうして、モンスターがいないのだ!」
いや、ここまで聞こえてくるってクレイグさん、どんだけ声大きいんだよ。
って感じもしてくるけど……確かに妙だ。
「ちょっと、少なすぎない?」
モンスターが少ないことに越したことはない。
だけどフローラ達と最初、イメジの洞窟に訪れた時を思い出せ。
もっとバンバン、モンスターが出てこなかったか?
いくら人気……じゃなくて、モンスター気の少ない方向に歩いてきたとはいえ、モンスターが出現してくる気配もない。
「スラちゃん、なにか知らない?」
「ぴぎぃ?」
スライムの頭に『?』マークが浮かんでいる。
猛スピードでクレイグさんがモンスターを狩ってしまったから、いなくなってしまった?
いや、そんなわけはない。
いくらクレイグさんでもたかがBランク冒険者。
今まで、たくさんの冒険者がイメジの洞窟を攻略していっただろう。
それなのに、モンスターがいなくなってないということは……。
「この洞窟になにかが起こっている?」
そう結論を出した矢先であった。
「ぴぎー!」
胸の内にいるスライムが突然、大声で鳴き暴れ回った。




