25・なんでまたダンジョンに……
「我ながら完璧な作戦!」
「ん? なんの話かな」
「あ、こっちの話です」
クレイグさんが頭上に『?』マークを浮かべている。
「それにしてもエクレアさん……そろそろ手を離してくれないかな? 君のような可愛い女の子に手を握られていたら照れるというか……」
「あっ、ごめんなさい!」
すぐに手を離す。
頬をほんのりピンク色に染めているクレイグさんの表情は、今まで見たことがないような気がした。
「ふふふ、ポンコツちゃん。まさか十四歳の女の子に手を握られただけで発情するなんてね。さすが童貞ちゃん」
遠くでレイラさんが呟いていたような気がしたが、『童貞』の言葉の意味が分からない。
でもなんだか聞いたらダメな気がしたので、口を閉ざしておいた。
■
ジムから出て、私の家に戻ってきた。
「ふう、疲れた」
そのままベッドにダイブ。
私の家は魔王の討伐によって得たお金で買った。
とはいっても、大豪邸なんか買ったら『普通の女の子ライフ』が崩れ去るので、クレテールでは珍しくもない普通の一軒家だ。
「なんでまたダンジョンに行くことになるんだろう……」
手を上げて、手の甲と天井を合わせてみる。
勇者時代。
元々、私は田舎で生まれ育った普通の女の子だった。
確かに男の子と比べて、剣が得意だったこともあるけど……それは単純に運動神経が良いだけだと思っていた。
雲まで突き抜けている神樹に上って怒られたこともあったけど。
水の上を走れないかなー、と思っていたら本当に走れたけど。
適当に剣を振り回して遊んでいたら、風圧で家が一軒潰れて怒られちゃったりなんかもしたけど。
ごくごく普通の運動神経が良い女の子であった。
「今頃、あの子達なにしてるんだろう……」
そんな私はとある魔法使いと武闘家の女の子にスカウトされて、旅行に出かけることになった。
……実はそれ、魔王討伐のためだったって聞かされたのは後になってからであった。
「もう『あれ』を使わないって決めていたのに」
部屋の片隅に立て掛けている剣を見る。
鞘に埃が被っている。
もう、二年も使ってないんだもんな……。
私はそれをベッドに寝ころびながら、頭の中を空っぽにして眺めている。
埃を被っている剣……それは勇者時代に使っていた剣だ。
「捨ててもよかったけど、旅を共にした仲間だもんね。捨てられないよ」
その剣を見ているだけで、旅行の記憶が甦っていく。
ふと寄ってみた田舎村の料理が美味しかったこと。
港町で美味しいお魚を食べたこと。
王都では珍しいお菓子に舌鼓を打ったこと。
……あれ? もしかして、美味しいものを食べた記憶しかない。
「明日でジムのみんなを失望させるんだ!」
エクレアさんって弱いじゃん、って。
するとみんなの私を見る目も変わって、軌道修正が出来るはずなんだ。
「う〜ん、眠くなってきたな〜」
明日が楽しみだ。
ドクンドクン。
この胸の高鳴りは?
モンスターを一杯倒せること?
いやいや、違うに決まっている。
ちょっと外れてしまった『普通の女の子ライフ』に戻れることだ。
「明日は……絶対……手を抜……」
ダメだ、お布団のふかふかには勝てない。
一度目を瞑ると、そのまま夢の世界へと直行してしまった。
■
翌日。
「ふっふふ……とうとう君ともう一度戦うことが出来るね」
「っていうかなんで、みんな来ちゃってるの?」
イメジの洞窟前。
早朝ということもあって、瞼が重い。
本当は昼からが良かったけど、クレイグさんがこんな時間を指定してくるからだ。
私とクレイグさんの戦いを見るため、洞窟前に冒険者ジムの何人かが集合している。
「注目の対決だからですわ、エクレア」
「ポンコツちゃんがボコボコにやられるのは楽しみだわあ」
「ふ、ふん! そんな暴力トレーナーなんかボコボコにしなさいよね!」
フローラが、レイラさん、アネットさんが。
もちろん、他のトレーナーやダイエットコースのみんなだって。
うーん、これは面倒臭いことになった。
みんなが集まってたら、なんだかやりにくいじゃん。
「いや、これは好都合?」
首をブンブンと振って、考えを改め直す。
注目されて、やりにくいのは事実だ。
だけどみんなの前で、私の実力(嘘バージョン)を見せつけたら?
みんなが私のことを弱いって思ってくれて、『普通の女の子ライフ』を送ることが出来るのだ!
「みんな! 私の活躍、ちゃんと見ててよね」
無論、活躍なんてする気はさらさらない。
「エクレア」
フローラが両手に『とあるもの』を携えて、私に歩み寄る。
「これはわたくしからの餞別ですわ。これを使って、なんとか良い勝負をしてくださいね」
「これは……」
フローラから手渡されたのは剣であった。
さすが、親友のフローラ。勝負を前に剣を用意してくれたんだ!
って思ったけど、持った瞬間。重くて腕が思わず下がってしまう。
「ダイヤモンドソードですわ」
フローラが剣の名を告げる。
その剣をよく見ると、無駄にキラキラ光っていて、目が痛くなってきそうだ。
これだけ重かったら、満足に剣を振るうことも出来ないだろう。
「例の武器屋で一番高くて強そうな武器ですわ。それを使えば、エクレアでもクレイグさんと渡り合えるでしょう」
「そ、それはどうも……」
じゃあ、この剣に付けられているキラキラしている石は一つ一つがダイヤモンドということなのか。
こんなもの戦いの邪魔なんだけど、返すのもなんなので腰からぶら下げておく。
「重い……」
今日の戦いで使おうとしているロングソードと、ダイヤモンドソード。
とはいっても、ロングソードも飾りみたいなもので、まともに使う気なんてないけどね。
一応「頑張ります!」っていうポーズは必要だからだ。
「じゃあルールを決めようか」
クレイグさんが口を開く。




