24・君には失望したよ大作戦
「今日の講師はアタシよ〜」
「げっ!」
思わず乙女らしかぬ声を上げてしまう。
それも当然。
何故なら……今、私達の前に立っているのは、
「レ、レイラさん。今日はなにをするんですか?」
「ふふふ」
レイラさんが愉快そうに笑う。
私達ダイエットコースにモンスター狩りのメニューを考えた人。
一番、私のことを怪しんでいる人。
ダイエットコースのみんなでダンジョンに行ったことをチクった疑惑がある人。
正直、私はこの人のことが苦手であった。
「今日はドラゴン退治をしたいと思うわあ」
「なんで!」
「冒険者にとって、ドラゴンというのはいつか倒さないといけないからねえ」
「私達、冒険者じゃないですからっ!」
「あら、聞いたわよお。あなた達、勝手にダンジョンに行ったらしいじゃないのお」
「そ、それは……」
「じゃあこれくらい出来るわね」
あんなの、スライムとか弱いモンスターしか出てこなかったから良かったんだ。
ドラゴンとなると、さすがの私もちょっとだけ本気を出さないと、けが人を出してしまうかもしれない。
ドラゴンというと、モンスターの中でも強い部類に入ることで有名だしね。
そのことはみんなも知っているだろう。
当然、一緒になって反対するはず……、
「わたし、ドラゴンと一度戦ってみたかったんですわ」
「腕が鳴りますわね。私の魔法が吠えますわ」
「ドラゴンを倒せば、Sランク冒険者になれるでしょうか?」
……ダメだ。
この人達、まだ勘違いしているよ。
あれだけ、アネットにボコボコにやられたというのに。
「ふふふ、決定ねえ」
レイラさんがうっとりした表情を見せる。
分かる、分かるぞ!
『ふふふ。可愛い乙女達がドラゴンに食われるところを想像すると、頭がおかしくなっちゃいそうだわあ』
とでも思っている顔だ。
私はレイラさんに詰め寄り、
「ダメ、ダメー! ドラゴンなんかと戦えるわけありません。いくらレイラさんが一緒でも……」
「あら、あなたならドラゴンくらい楽勝でしょう?」
意味深な視線を向けてくるレイラさん。
やっぱり、この人。私の正体に気付いている?
いや、元勇者だということは見破っていないはずだ。
「か、勝てるわけないじゃないですか! 私、どこにでもいる普通の女の子ですよ?」
ほっぺに人差し指を引っ付けて、首を傾げてみる。
「じゃあ行ってみましょうか。仲間がドラゴンに殺されそうになっても、あなたは手出し一つも出来ないってことねえ?」
「い、いや……それは話が違……」
前のスライムの時はなんとかなった。
レイラさんの目を誤魔化しつつ、スライムを駆除することが出来た。
でもドラゴンとなると、それも出来ないかもしれない。
……もしかして限界?
正体を隠すことが限界?
「……そうだ!」
ポン、と手を叩く。
良い考えが閃いた。
現状の問題を全て片付ける方法が!
「ちょっと待ってください!」
「どこに行くつもりなのお?」
レイラさんに背を向け走り出す。
「見つけてくるんです!」
「誰を?」
私はその人の名を告げてから、ウィンクしてこう続けた。
「私がか弱い女の子ってところを証明してあげます!」
「いた! クレイグさん」
呼びかけると、クレイグさんの顔がこちらを向いた。
クレイグさんは他の生徒に教えている最中だった。
私はクレイグさんの両手を取って、
「私と戦ってください!」
「マジで!」
クレイグさんが目を飛び出すくらいに驚いている。
「失礼……もちろん、僕としては嬉しいんだけど、なんで急にそんな気に?」
「クレイグさんも……レイラさんも私が強いと勘違いしているからです! 一回、戦えば分かるでしょう?」
そうなのだ。
私がジムであたふたしている原因。
クレイグさんが私に付きまとっている理由。
それは『私——エクレアが強いと思っている』からである。
……いや、実際強いと思うよ?
でも『普通の女の子ライフ』を楽しむ予定である私にとって、そのように思われるのはいけないことなのだ。
「じゃあ……早速戦おうか!」
クレイグさんが近くの模擬剣を取って構える。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
いきなり剣を振るってきそうなので、慌てて手で制す。
実践はヤバすぎる。
何故なら、ふとした瞬間にスイッチが入ってしまうかもしれないからだ。
「普通に戦うのは怪我をするかもしれませんし、危ないですよ。ここは別の方法で戦いましょう?」
「冒険者というのは怪我してなんぼだろう? 背中に傷を付けられて、初めて一人前になれる」
「逃げ傷じゃないですか!」
傷を付けられるのは冒険者としては二流!
勇者時代、たくさんのモンスターと戦ってきたけど、一度も怪我なんてしたことなかったしね!
だからこそ、フローラと一緒にシャワーを浴びても大丈夫なのだ。見て困るような傷がないからね。
……恥ずかしいのは変わりないんだからね!
「とにかく、普通に剣を交えて決闘……ってのはダメです」
「む、むー……しかし」
「じゃないと私、あなたと戦いませんからね!」
まだ納得がいってなさそうなクレイグさんの表情。
でも「仕方ないな……じゃあなにで?」と言葉を続けてくれた。
「……どっちが多くモンスターを狩れるか勝負です」
「ほお」
興味深げにクレイグさんが顔を近付けてくる。
「クレイグさん、立派な冒険者なんですよね? ダンジョンに行って、私より多くモンスターを狩ることが出来るはずですよね?」
「そりゃそうだ。なんせ僕はBランク冒険者なんだからね。モンスターを狩ることに関しては一流だよ」
ドヤ顔のクレイグさん。
「ふふふ、Bランクごときで威張っていたら笑いものね。ポンコツちゃん」
見れば、部屋の隅っこの方でレイラさんが私達の様子を眺めていた。
「だから……こうしましょう! 明日、イメジの洞窟に行ってどっちがモンスターを多く狩ることが出来るか、それで勝負しましょう」
「面白い! その勝負、受けた!」
よし! 乗ってくれた。
もちろん、私はクレイグさんに勝つ気はない。
力を抜くつもりなのだ。
これなら、ダンジョンで適当にうろついているだけで勝負が終わっているだろう。
モンスターを一体も狩ることが出来なかった私を見て、ジムの先生はこう言うのだ。
『君には失望したよ……』
って。




