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23・クッキー

「ふう〜、今日も疲れましたわね」


 フローラが座りながら、そう言った。

 そう——ダイエットコースのメニューも終わって、私達はジム近くのカフェに訪れていた。


「フローラ! 今日は今日は!」

「そんなに慌てないでくださいまし」


 もちろん、他のダイエットコースの生徒もいる。

 フローラはバッグからとあるものを取り出して、それをお皿の上に載せた。


「これは……クッキーだよね!」

「そうです」


 茶色で薄く平べったい、丸い形のクッキーであった。

 一つ手に取ると、チョコチップのような黒い斑点はんてんがあった。

 私はクッキーを半分だけ口に入れる。


「〜〜〜〜〜!」


 やっぱり美味しい!


 サクサクとしたクッキーと、チョコチップの潰すような食感が癖になる。

 もちろん、味も絶品で甘さが口に広がっていった。


「美味しい!」

「喜んでもらえて光栄です。お父様の知り合いのお菓子店から取り寄せたのですわよ。みなさんもどうか召し上がってください」


 他のみんなもクッキーに手を付ける。

 うーん、チョコチップのおかげだろうか。

 いくら食べてもこのクッキーは飽きない。

 ペロリと平らげちゃうね。


 でも問題は……、


「喉が渇いちゃうね」


 そうなのだ。

 パサパサとしたクッキー。

 しかも今はジムの帰りだ。

 当然、水分も欲しくなってくる。


「ふふふ。ここはなんだと思っていますの——すみません。アップルティーを人数分お願いできますか?」


 フローラがそう注文すると、カフェの店員がティーカップを私達のテーブルに置く。

 林檎の甘い香り。

 私はティーカップを唇に付けて、アップルティーを口に注ぎ込んでいく。


「う〜ん……やっぱりこれだね……」


 アップルティーの温かみが体に染み渡っていく。

 クッキーとアップルティーを交互に口に入れていく。


 これが、永久機関というヤツなのか!

 いくらでもクッキーを食べられちゃうね。


「オカワリもあるので、どんどん食べてくださいまし」


「やっぱり練習終わりのお茶会は最高ね」

「これが楽しみでわたくし、ダイエットコースに通っているかも」


 他のみんなも次々にクッキーに手を伸ばしていく。


「そういえば、フローラ……前、冒険者の人にボコボコに負けちゃったから落ち込んでいるかと思ったよ〜」

「相手はCランク冒険者ですからね。まだわたくし達の力が及ばなかっただけです」


 おっ、意外に自分を分析出来ているらしい。


『やっぱりわたくしには冒険者の才能がないかもしれません……ジムを止めます……』


 なんて言い出しちゃったら困るからね。

 そう考えてくれるのはいいことで……。


「でもこのまま練習を続けていれば、アネットさんにも勝てるはずです。いつかリベンジをするつもりです」


 そう語るフローラの顔は未来への自信に満ちていた。

 ……やる気は失っていないらしい。


 それじゃあダメなんだって!

 私達! ダイエットコースだってことを忘れてない?


「そういえば、エクレアも……クレイグさんから言い寄られていましたね」

「そうなんだよ。本当、迷惑で」

「クレイグさんと手合わせしないつもりですか? もったいないですよ」

「いやいや。私なんかクレイグさんと戦っても、歯が立たないよ」


 肩をすくめてみる。


「それはそうですね……」


 フローラは納得したのか。

 視線をクッキーに戻し、食べることを再開した。

 そうそう……クレイグさんと戦っても、また力の出し方を間違えちゃって……。


「そんなもの食べちゃったらダメだぁぁああああ」


 噂とすればなんとやら。

 遠くから男の人の声と、ダダダッとこちらに走り寄ってくる音が聞こえた。


「って、クレイグさん?」

「こんな甘いものを食べていたら太っちゃうぞー!」


 ——クレイグさんは私達のところまでやって来て、テーブルを両手で引っ繰り返した。


「きゃっ!」


 そのせいで、クッキーは地面にばらまかれ、ティーカップは割れてしまう。

 お茶会をメチャクチャにしてしまったクレイグさんはわるびれず、


「エクレアさんを尾行していたら! なんてことをしているんだ! 甘いものは太る原因ってのが、最近王都の研究であって……」

「で?」

「だから僕は——ひっ!」


 ゴゴゴ。


 きっとこの時の私、クレイグさんの殺意で満ちていた。

 クレイグさんが私から離れるように一歩退く。


「こんなことをしてどうするつもりですか? みんなの楽しい時間を壊して。っていうかそのカップはお店のものですから弁償ですよ? それに尾行って? ストーカーですかストーカーですか? どう責任を取ってくれるつもりですか?」


 一歩ずつクレイグさんに詰め寄っていく。


「ヒッ……ご、ごめんなさい……」

「ごめんで済んだら騎士団はいりません!」


 クレイグさんの頭に拳骨を落とす。

 ちょっと力を入れすぎちゃったのか。


 クレイグさんはクルクルと目を回して、地面に倒れてしまった。

 もちろん、ティーカップとかクッキーは弁償してもらいました。



「今日こそは僕と戦ってくれ!」

「逃げるな。もしかして僕が怖いのかい?」

「頼む……君と戦えなかったら、僕は、僕は!」


 時にはストレートに。

 時には挑発、時には泣き落とし。

 あらゆる手段、場所でもクレイグさんは私に戦いを挑んできた。


「だから、あなたとは戦いません!」


 いくら言っても、クレイグさんは引くことはない。

 今日なんかシャワーを浴びようとしたら、


「頼む! 僕と戦って……」

「変態!」


 クレイグさんが入ってきたので、蹴りを入れておいた。

 まさに神出鬼没。

 どこにでも現れるクレイグさんに私は困り果てていた。


「どうやったら諦めてくれるんだろう……」

「あら? エクレア、疲れていますわね」


 フローラが体調を気遣ってくれる。


「ダイエットコースのメニューも最近ハードですからね。はい——ドーナッツをあげます。これを食べて元気を出してください」

「わーい!」


 でも甘いものを食べたら疲れが吹っ飛んじゃうね。

 ドーナッツの甘さが口に広がって、脳に突き抜けるような美味しさ。


 ルンルン気分で食べていたら、


「エクレアさん! そんなものを食べる暇があったら僕と戦グハッ!」

「しつこい!」


 ……はあ。


 リラックスしてる時にもクレイグさんは現れる。

 今度は顔に裏拳を叩き込む。

 ちょっと強めに叩いたけど大丈夫だよね?


「僕は諦めない……エクレアさんと戦うことを……グハッ!」


 あっ、気絶した。


「あら、クレイグさん。こんなところでお昼寝ですか。風邪を引きますわよ」


 隣にいるフローラが見当はずれなことを言う。

 厄介だな、気を抜くことが出来ない。

 なにか対策を考えなければ……。

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