21・新人かわいがり
「確かクレイグさんがBランク冒険者でしたわよね?」
「風の噂でレイラトレーナーは元Aランクとも聞きましたわ。それに比べたらCランクは微妙……」
「ええい! うるさい!」
アネットさんが爆発する。
「クレイグさんもレイラさんもここのトレーナー! でもわたしは月謝を払ってジムに通っている一生徒! 生徒の中ではわたしが最高ランクなんだからね!」
なにを言っても、私は元SSランクだったのでCだろうとBだろうと対して変わりはない。
「もしかして、わたしを舐めてるの?」
「いえそういうわけでは……」
フローラがやんわりと否定する。
だけどアネットさんの怒りは収まっていないのか、激しい口調でこう言う。
「……いいわ。わたしが直々にあなた達に指導を付けてあげる!」
「ちょ、ちょっとアネットさん! 勝手な真似は――」
「止めないで。ここで私がお灸を据えてあげれば、もう勝手な真似はしないかもしれないでしょ?」
「そりゃそうだけど……」
トレーナーは止めようとするけど、最終的には渋々と承諾したみたいだ。
「とりあえず、外に行きましょ」
クレテール冒険者ジムの建物はコの字になっている。
そのコの左側、つまり凹んでいる部分が中庭になっているのである。
そこにアネットさんは辿り着き、くるっと振り返って言う。
「いい? 今から実践形式のレッスンを始めるわ。一撃でもわたしに入れることが出来ればあなた達の勝ち」
実践形式?
ダイエットコースの人達になにを言うんだろうか。
抗議しようとすると、それよりも早くフローラが前に出て、
「いいのかしら? わたくし達は昨日、高ランククエストを達成させたのですわよ? 一撃だけ、ってそんな条件っていうのは」
えー! なに勘違いしているの!
本当は勝手にダンジョンに行って勝手に(私が)モンスターを倒しただけだけど、フローラの中で思い出が改竄させられているっ?
「ふん。聞いたわよ。たかがイメジの洞窟って低ランクダンジョンに行っただけ、って聞いたわよ」
「ふふふ。侮らないでくださいね。もしわたくし達が勝ったらなにかくださるの?」
「土下座でもなんでもしてあげるわよ」
強気に出たね。
「わたくし達の力見せつけてあげましょう!」
「ダンジョンに行ってれべるあっぷしたはずですからね。これだけいれば、いくら冒険者の方とはいえ楽勝のはずですわ」
みんなも変な風に自信が付いちゃってるし。
まあダイエットコースの人達で十人もいるし、アネットさん一人だけだったら危険はないだろう。
「じゃあ始めるわよ!」
アネットさんが大鎌を振り上げて、私達に突進してくる。
大鎌である。彼女の身長ほどもある武器。振り回すだけでも難しそうな武器である。
だけどアネットさんはそれを器用に振り回して、
「はあ!」
ダイエットコース側の人間を二人吹っ飛ばした!
「きゃっ!」
ダイエットコースの二人が地面に倒れる。
「安心して。怪我はさせないつもりだから」
反対側に走り抜けたアネットさんが大鎌をグルグルと回しながら言う。
風圧だけで二人を吹っ飛ばしたのだろう。
「やあ!」
フローラの頼りなさそうな攻撃。
「そんな鈍い動きでわたしに勝つつもりなの?」
アネットさんがフローラのレイピアを叩き落とす。
「こんなので調子に乗ってたの笑わせるわ」
――そこからは一方的であった。
っていうかいくら相手はCランクとはいえ、私達が勝てるはずもない。
アネットさんが大鎌を振り回すたびにまた一人――また一人、芝生の地面に倒れていく。
「きゃー。こわいですー」
私にとったら、アネットさんもどっこどっこいだったけど。
だけど本気を出すわけにもいかないよね。
痛いのは嫌だったから、適当に逃げ回る演技をしておいたけど。
「あんた、逃げ足早いじゃないの」
逃げ回っていたら、いつの間にかダイエットコースの人達はみんな地面に倒れていた。
「うう……無念ですわ」
「体が……痛いですわ。これが本物の冒険者」
「アザになってないかしら?」
まあアネットさんも本気の攻撃を繰り出しているわけじゃないから、大したダメージは受けてないと思うけど。
地面に転ける・倒れる、というのはそれだけで痛い行為だ。
「やっぱりわたくし達は弱かったのでしょうか……」
「なんのためにダイエットコースに通っていたのでしょうか」
痩せるためだよね!
「よくもみんなを――!」
いや、みんなが変な方向に自信を付けちゃったのは私も問題だと思うよ?
でも昨日まで楽しくダンジョンを攻略していたことを思い出してしまう。
みんなが落ち込んでいる光景を見ていると――少し、アネットさんに腹立たしさを感じてしまうのだ。
「さて――さっさと決着、じゃなくてレッスンを終わらせてもらうわ」
――ここまでやらなくても良かったんじゃなかな。
って。
アネットさんの大鎌が近付いてくる。
……ちょっとイライラをぶつけてもいいよね?
私は大鎌を人差し指と中指で受け止めるため右手を――、
「うぉぉおおおおおお! 喧嘩はダメだぞぉぉおおおおお!」
声だけで地響きがした。
「え? へ? クレイ――きゃっ!」
どこからともなくヤツはやってきた。
地響きを起こしながら走ってきた。
その人はやって来たと思ったら、いきなりアネットさんにアッパーをくらわせた。
宙に浮かび、くるくると回りながらアネットさんが地面に叩きつけられる。
「喧嘩はダメだぞぉぉおおおおおお! そんなことをしていたら、立派な冒険者になれないぞぉぉおおお!」
「クレイグさん……」
そう。
いきなりやって来て、アネットさんに一発くらわせたのはクレイグさんであった。
私がダイエットコースに来て、模擬戦で圧勝してしまった人だ。
「別に喧嘩をしていたわけじゃ……」
「おっ? 誰かと思えば君はエクレアさんじゃないか!」
クレイグさんは私に負けてからジムに来ず、休養していたと聞くけど。
今のクレイグさんの顔は自信に満ちていて、とても休んでいた人には見えなかった。
「僕はジムに来ない間! 地元の里に戻ってきて修行していたんだ! それはそれは厳しい修行であった――君に勝つためにね!」
「わ、私に?」
キラッ、と目を輝かせるクレイグさん。
「そこで……だ! 単刀直入に言おう!」
人差し指を私に向けて、
「僕と戦ってくれないか?」
「え? 私と?」
……なんか変な方向に話が進んじゃってる!
トラウマを刻むレベルで負かしたというのに。
この人はどうして、再戦なんか申し込んで来ちゃっているんだろう。
「どうだい! エクレアさん。僕と戦ってくれるかな? ふふふ、とはいっても返事は聞かなくてもいいかもしれないね。強者は惹かれ合うのだから」
クレイグさんの顔を見ていれば、答えは一つしか浮かんでこない。
私は頭を下げて、こう返した。
「嫌です。お断りします」
当たり前だよね。




