19・冒険者ギルド
洞窟から出て、真っ先にやって来たのは冒険者ギルドである。
「ここが冒険者ギルドですか……」
みんなは戸惑っている。
そりゃ仕方ない。
冒険者ジムで慣れているものの、そもそもあんなところに通える冒険者は経済的にも豊かなのである。
「ぐへへ。お姉ちゃん達が来るような場所じゃねえぜ」
「お姉ちゃん達、遊ぼうじゃねえか。なあに、優しくしてやるからよ」
酒臭い息を吐きながら、男共が近付いてくる。
おとぎ話に出てくる勇者様……というよりは、その見た目は浮浪者そのものである。
「もっと冒険者というのは立派な人達じゃなかったんですか?」
小声でフローラが尋ねてくる。
「仕方ないよ。冒険都市クレテール――っていうくらいだから、それこそ冒険者は溢れかえっている。能力のない――こういうところでお酒を飲んでいるような冒険者は落ちぶれていくばかりなんだよ」
そう返すと、フローラはポンと手を叩いて。
「なるほど! ここにいる方々は冒険者のオチコボレなんですね!」
「「「「!」」」」
フローラの声が大きかったものだから、ギルドの人達の注目を集めてしまう。
「クックク。なかなか面白いことを言うじゃねえかお嬢ちゃん」
「オチコボレでもお嬢ちゃん達と遊べることくらいは出来るんだがなあ?」
ペロッ、とナイフの刀身を舐めるような輩も。
その様子を見てもフローラは臆している様子はない。
きっとこういう敵意にさらされたことがないので、危険だということが分かっていないのだ。
もっとも、私にとったら可愛いものではあるが。
「受付に行こ!」
でもトラブルは避けたい。
フローラ達に呼びかけて、受付まで移動する。
「こんにちは!」
「こんにちは……どうしたんですか? 社会見学ですか?」
受付の人の訝しむような視線。
「いえ、ダンジョンに行ったので、戦利品を換金したいのですわ」
「ダンジョン……? それはそれは冒険者の方々でしたか。では冒険者証明書を……」
「証明書? そんなものないですわ」
受付の人の顔が凍る。
……いや、飛び込みで換金しにくる人達は多いんだし、そこまでおかしいことではないはずだ。
だけど私達の冒険者らしかぬ服装に加え、証明書もなにもないという部分に引っ掛かったのだろう。
そういう人達は冒険者の縄張りだとか、ダンジョンのルールとか無視して荒らす傾向にあるからだ。
それに勝手にダンジョンに行って勝手に死んでしまっても「あんな危険なダンジョンを野放しにしているとは何事か」と非難を集めかねない。
「……ではダンジョン内で得たアイテムを見せてくれますか?」
受付嬢が表情を戻して告げる。
まあ私はSSランクの冒険者証明書なら持っているんだけどね。
そんなもの見せたら大騒ぎになるので見せないし、そもそも家に置いてきてるけど。
「これですわ!」
フローラはアイテムボックスからダンジョンで得たアイテムをぶちまける。
「……へ?」
受付の人は目を丸くしている。
受付のカウンターを埋め尽くさんばかりにアイテムが広げられたからだ。
「……なんだあいつ等は?」
「どうせ凄腕冒険者に寄生してアイテムだけ貰ったんだろう」
「あれだけのアイテムをドロップするのはCランク冒険者がパーティーを組まないと無理じゃねえか?」
さらにみんなの注目を浴びてしまう。
「……えーっと、これ等のアイテムは?」
「もちろん! 私達がイメジの洞窟に行ってモンスターを倒したのですわ!」
ふん、と息巻くフローラ。
「それで……どれくらいになりますの?」
「……! 少々お待ち下さい!」
アイテムを持って、カウンターの奥へと引っ込む受付。
あれ? もしかしてちょっと多すぎたかな?
だって次から次へとモンスターが出てくるもん。
逃げてもよかったけど、みんないちいち立ち向かおうとしていくし。
結果的にモンスターからドロップするアイテムも多くなってしまった。
やがて受付の人が戻ってきて、
「こちらになります」
カウンターにどっさりと金貨や銀貨の山が積まれる。
「全部で八十万セルビになります。お確かめくださいませ」
「八十万セルビ!」
八十万セルビあれば、クレテールでは三ヶ月は楽に過ごせるので顔が明るくなってしまう。
でもみんなは微妙な顔をして、
「たった八十万セルビですか……」
「意外にしょぼいですわね。これでは飼い犬のえさ代にもなりませんわ」
「まあ最初ですから仕方ありませんわ」
やっぱり金銭感覚がおかしいよ!
「お金ではないのですわ! これはわたくし達が冒険者として立派にデビューした証となるのです」
フローラは嬉々とした表情。
さて、長居しても誰かに絡まられるのも厄介だ。
っていうわけでお金を貰ってギルドから退散しようとすると、
「……先ほどイメジの洞窟って言いましたよね?」
「はい? それがなにか」
「イメジの洞窟に行く冒険者の中では常識なのですが……その中で変なものを見つけなかったですか?」
「変なもの?」
「例えば――水晶のような石とか」
――ああ。
そういえば、そんなのあったな。
まあフローラが記念品として部屋に飾るらしいので、今回は換金していないけど。
「そんなものなかったと思いますわ」
「……そうですか」
言えば無理矢理換金させられると思ったのか。
フローラがなに食わぬ顔で嘘を吐いた。
「……まあこれだけのアイテムを持ってこれたということは良いことですが――もしこの先も冒険者ごっこを続けるなら冒険者証明書の発行をおすすめします。こちらとしても、勝手にダンジョンを荒らされるのは避けたいですから」
「検討いたしますわ」
そう言って、私達はギルドを後にするのであった。




