12・俺より強いヤツに会いに行く
「ドンデリーの森でスライムの大群を倒したっ?」
ジムに帰ると、目を丸くして驚かれた。
「スライムとはいえ、ダイエットコースの生徒さんが?」
「いや、レイラも一緒だったからな。レイラだったらスライムなんて楽勝――」
「レイラが生徒に手を貸すと思うか?」
私達から離れて、トレーナーの人がごにょごにょと喋っている。
「いやー、レイラさんのおかげですねー。レイラさんの魔法、マジカッコ良かったなー」
頭の後ろに手を回して、トレーナーの人達に聞こえるように言う。
「あそこでわざとらしく吹聴しているのは……エクレアさん?」
「やはり影にエクレアさんありなのか?」
「あれだけバレバレな演技ってことは、逆に考えると演技じゃないんじゃないか?」
余計に怪しまれている!
助けを求めるようにレイラさんに視線を向けると、
「ふふふ。面白い子だわあ。まだまだ要注意ねえ」
と微笑んでいた。
この人! 詳細をトレーナーの人達に説明しない気でいるよ。
……もうあんまり口を挟まないでおこう。
変なことを口走ってしまって、状況が悪化したらダメだしね。
トレーナーの人達から意識を逸らして、ダイエットコースの生徒が集まっている場所へと移動する。
「わたくし達が……スライムを撃退?」
「まるで冒険者みたいですわ!」
「ダイエットを始めるだけでこんなに強くなれるなんて……」
こっちはこっちでなにか勘違いしている?
「フローラさん大活躍でしたわね」
「ふふん、そうでしょう。わたくしの魔法見てくれました?」
フローラが調子に乗ってる!
ってか、魔法なんて使ってないでしょ!
あなた、悶えていただけでしょ!
「はあ……どうしてこうなった」
頭を抱える。
そういえば、こんな感じになってしまった元凶であるトレーナーのクレイグさんは休養している。
なんでも、
『俺より強いヤツに会いに行く!』
とか書き置きを残して、ジムを出て行っただとか。
しばらくしたら戻ってくるらしいけど、戻ってきたタイミングで口封じをしなければ。
「どんどん状況が悪化しているように思えるけど、この先大丈夫なのだろうか……」
誰にも気付かれないように溜息を吐くのであった。
■
「……よし!」
動きやすい服に着替えて外に飛び出す。
「ほっ、ほっ」
早朝。
クレテールの街中は薄く霧がかかっている。
人通りも少なく、落ち着いた雰囲気の中ジョギングを楽しんでいた。
うーん、最高!
たまにしか早起きしないけど、早朝の空気ってなんだか美味しいよね!
「あっ、おはようございます!」
通りがかったおじいちゃんに元気よく挨拶をする。
全盛期に比べたら体も鈍ってきている。
本気を出したら、馬くらいの速度で二時間走り回ることも可能。
でもそんなことしたら、体がビックリして転けちゃうかもしれないしね。
それに……馬くらいの速さで走り回っているのをジムトレーナーなんかに見られたりしたら……。
『いやー、今日は体の調子が良くって。このまま隣町までダッシュで買い物行こうと思ってたんですよー』
なんて言い訳、通用するわけがない。
ちなみに隣町までは馬車で半日はかかる計算だ。
なので……あくまで一般人の速度。
私にとったら、歩いているのと大して変わらない速さで走っていると、
「あれ?」
あそこでうずくまっている姿に見覚えがあるぞ?
「フローラっ?」
うずくまって、しんどそうに肩を上下させているのはフローラだった。
「エクレア……」
汗はかいているものの、それが光の粒となってフローラの美しさを際だたせているようであった。
でも息は荒くて、普通に喋るのもしんどそう。
「ほらほら、深呼吸! 深呼吸!」
「ふーはー。ふーはー……大分、落ち着いてきました」
「フローラもジョギングに?」
「ええ」
フローラは少しふらつきながらも立ち上がる。
「でも……慣れないことはやらないものですね。少し走っただけで、目眩がしてきて」
「そんな! でも、そんなに汗かいてるなら絶対に痩せるよ!」
「あら? そうかしら」
痩せる、って言葉に元気を取り戻したのか。
フローラは顔を明るくさせ、腰をひねってみせる。
「よかったら、一緒にジョギングしようよ」
「ええ。喜んで」
フローラと肩を並べて走る。
それにしても……遅い。
遅すぎて、転んでしまいそうだ。
なんてことを考えていると、
「キャッ!」
ほら、やっちゃった。
遅いペースに合わせるものだから、足がもつれてしまい転倒してしまう。
「大丈夫ですか! エクレア」
フローラがあたふたしながら私の膝を見る。
「すいません……エクレアにはペースが速かったですよね?」
「速い……? そ、そうかもね! 普通の十四歳にはちょっと速かったかも!」
「あっ、こんなところ擦りむいちゃって」
膝小僧の擦り傷が出来ている。
まあ、ちょっとしか血が出てないし。魔王を倒す旅行に出かけてた時は仲間の右腕が吹っ飛んだ光景も見ているし。
「大丈夫だよ。放っておけばこんなの治るよー」
「わわわ! 大変です。出血多量で死んじゃうかもしれません!」
いやいや! こんなので死なないから!
でもフローラは狼狽えながら、小さい舌で私の膝をペロッと舐めた。
「ひゃっ!」
冷たくて、つい声を出してしまう。
「フ、フローラ? なにをしているのっ?」
「なんでも唾液を付ければ治る、って応急処置を聞いたことがあります」
そんなの子どもしかしないから!
「ひゃっ!」
フローラは気にせず、私の膝を舐め続けた。
「フ、フローラ……こそばいから止め……ひゃっ!」
血が止まる頃には、フローラの口もカラカラになっていただろう。




