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11・スライム退治

「スライム?」

「可愛い……」

「持ち帰ってペットにしようかしら」


 スライムが近付いてきてるのに! 

 未だ生徒達は座ったままだ。


「みんな! スライムってモンスターだよ! 早くなんとかしなきゃ!」


 私がそう大きな声を出しても、ピンと来た様子のないみんな。

 だが――スライムが目と鼻の先まで来てやっと、


「キャーッ!」


 とお決まりの悲鳴を上げてくれた。



 三十体――程であろうか。

 カラフルなスライム達がピョンピョンと飛び跳ねながら、こちらに近付いてくる。


「レイラさん!」

「うーん、スライムだから大丈夫だと思うし頑張ってねえ。今日のメニューは『スライムを三十体倒すこと』だったしねえ」


 嘘だ!


 この人、スライムの大群見て思いついただけだよ!

 なんでダイエットコースの生徒が冒険者のクエストみたいなことしないといけないの!


「キャッ!」


 あらら、レイラさんに気を取られている内にスライムが私達の元へと到着しちゃっている。

 一見、透き通った琥珀色でダイヤのようにも見える。


 だが彼等(彼女?)はモンスターなのである。


 一体のスライムはフローラに襲いかかる。


「な、なんですの……っ。この感覚……モゾモゾしま、あっ!」


 スライムはフローラの太股に引っ付いている。

 ただ引っ付いているだけではなく、モゾモゾと這いながらフローラの――二本の足の交差点へと移動している。


「こ、これは……身動き取れませんわ。っていうより、こしょばいような感覚……こんなの初めて、あっ!」


 スライムのプニプニとした感覚は慣れていない人にとって不快に思えるだろう。

 少し冷たくて、動くたびに体が仰け反りそうな感覚に襲われる。


 足に引っ付いているだけなのに、フローラは全身の力が抜けるようにして崩れ落ちてしまう。

 もちろん、その間にもスライムの動きは止まらない。


「はあ……はあ……」


 未知の感覚に襲われ、戸惑っているフローラ。

 徐々に顎が上がっていき、今すぐにも気を失ってしまいそうだ。


「フローラ!」


 私はダッシュして、フローラからスライムを引きはがす。

 スライムを遠くまで放り投げると、そこらへんの木に当たり消滅した。


「たかがスライムだもんな……」


 そう――このスライム、メッチャ弱い。


 モンスターの中でも攻撃力、防御力ともに最弱。

 ちょっと強い刺激を与えれば、跡形もなく消えてしまうのだ。


 だから三十体だろうが、百体だろうが怖くないんだけど……。


「きゃっ!」

「なんですの……これは!」

「むず痒い……あっ! そこはダメ!」


 なのに、どうして阿鼻叫喚に包まれているのだろうか。

 まあ高い月謝を払って、ダイエットコースに来ている生徒なんてモンスターと触れ合ったことなさそうだしなぁ。

 スライムに襲われ、為す術もなく叫んでいるだけである。


「ふふふ。面白いわねえ。スライムごときでこんな苦戦するなんてえ」


 レイラさんはサディストな笑みを浮かべているだけである。

 肝心のレイラさんは最低限の動きでスライムを避け、決して攻撃しようとしていなかった。


 ……なにしてるんだ! この人!


「スライムだから命を取られるとは思えないけど……」


 でもこのままじゃ、転んだりしてみんなが怪我しちゃうかもしれない。

 早くこの状況をなんとかしなくちゃ!


「いや……なんとでもなるんだけど……」


 実際、こんな有象無象が集まったところで私にとったら脅威ではない。

 そこらへんの木の棒を拾って、ちょっと振ってみるだけでスライムを全滅させることが出来るだろう。


 でも問題はあって……、


「ふふふ。どうするのかしら……早く実力を見せなさい」


 レイラさんが邪悪な笑みを浮かべて、こっちを見ている。


 ……間違いない。

 この人、私が本気を出すのを待っているよ!


「どうしよう……」


 視線をレイラさんとスライムの間に行ったり来たりさせる。


 ――クレイグさんを倒したツケがこんなところで来たか。


 私が本気を出したら、きっとジムに報告されてしまうだろう。

 そうすれば私の『普通の女の子ライフ』が終わりを告げてしまう!


「ちょ、ちょっと……止めなさい……わたくし、このままだったら、もう……!」


 フローラが新しい扉を開いてしまいそうである。

 こうしちゃいられない。

 このままだったら、フローラを含むダイエットコースの生徒達がとんでもない目に遭わされてしまう。


 ……いやもう遭わされているんだけどね。


「一か八か!」


 私は疾風のごとく、レイラさんの背後へと回り込む。

 後頭部に手刀で気絶させる?


 いやいや! 手加減ミスして、殺してしまいそうだし!

 私はレイラさんの背後にある木に向かって拳を思い切りぶつける。


 ――ドサササササ!


 するとどうだろうか。

 木が大きく揺れ、葉っぱがもの凄い勢いで落下してきたではないか。


「え? 真っ暗?」


 私の拳による衝撃は木に付いている葉っぱを全て取ってしまう程になった。

 レイラさんの目の前を葉っぱによって遮断する。


「……よし! これだけだったら十分だよね」


 せいぜい、レイラさんの視界を奪えるのは五秒くらいだろう。

 今の私にとったら、それくらいで十分だ。

 私は足元に落ちてあった木の棒を拾い上げる。

 うーん、長さ私の顔くらいしかない。心許ないけど、これで我慢するしかないかぁ。


「えい」


 スライムの大群に向かって、木の棒を上から下に振り下ろす。


「きゃーっ!」

「今度はなんですのーっ!」


 生徒達がパニックになる。


 まあ、それも仕方ないだろう。

 私が振るった木の棒によって、突風が出現する。

 風はスライム諸共、生徒達を高く舞い上がらせた。


「ほっ! ほっ! ほっ!」


 みんなが地面に落下する前に、お姫様抱っこでキャッチして降ろしていく。

 もちろん、私の実力がバレたらいけないのでスピードマックスで、だ。


 これによってみんなだけノーダメージ。

 地面へと真っ逆さまに落下したスライムは強い衝撃によって消滅していった。


「ふう……なんとかなったね」


 腕で額の汗を拭う。


「えっ? スライムが全滅……なにが起こったのお? 急に真っ暗になったと思ったらあ」


 レイラさんが目を丸くしている。

 頭に木の葉を何枚か乗せているレイラさんは小動物のようで可愛かった。

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