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1・魔王は12歳の時に倒しました

「うわ……太ったかも」


 鏡の前。

 下着姿の私はお腹の脂肪を掴んで、一人そう呟いた。


 こんな姿! 一人の時じゃないと、出来ないよね!


「魔王倒したのいつ頃だっけ……」


 この世界において、私の名前を知らない者はほぼいないだろう。


 二年前、私は旅行のついでに魔王を倒して勇者と呼ばれることになった。

 あの頃は嫌でも運動しないといけなかったし、十二歳という年齢もあってかいくら食べても太ることはなかった。


「でも、さすがにこの肉はやばいよね」


 プニプニ。


 王都では『マシュマロ系女子』たる言葉が流行っているらしいが、そんなものに騙されてはいけない。


 鏡の前の自分をもう一度見る。

 見よ! このしなやかな肢体したい

 馬で三日かかる道のりでも、一日で辿り着く脚力。初めて振るった剣でドラゴンを倒す豪腕。それでいて筋肉質ではなく、女性としての丸みも帯びた完璧なボディ!


 ――だけど、やっぱ衰えは隠せないみたい。まだ私、十四歳だけど。


 一見、細いように見えるけどよく見れば、余計なお肉が付いているのは明白である。


『魔王を倒して以来、半ヒキコモリ生活をしていた罰だ。オヤツばっかり食べやがって。それがこの報いにくだ!』


 どこからともなく、肉神にくしんが現れ、お腹に溜まった肉に対してそう言う。


「これではいけない!」


 このままでは昔、プロヴィルの洞窟で出会った肉魔神ピッグオークみたいになってしまう。

 私、まだ十四歳だよ? ファーストキッスだって済ませていない。


 急いで私は服に着替えて、家を飛び出した。


 やること? そんなの決まっている。


「ダイエットしなきゃ!」


 一大決心をした私は足取りも速く、この街のとある場所を目指した。


  ■


 クレテール冒険者ジム――。


 そんな大きな看板が掲げられている建物の入り口。

 意を決して、私は中へと入っていった。


「すいませーん! 入会希望なんですけど!」


 受付の筋肉質のお兄さんに話しかける。


「おぉ! ようこそ! 我がクレテール冒険者ジムへ!」

「入会希望なんですけど! 出来れば今日から入りたいんですが……」

「もちろん、大歓迎さ! クレテール冒険者ジムは誰にでも門戸もんこを開いている」


 抱きかかえるように両腕を広げるお兄さん。

 少し日焼けもしていて、笑顔が眩しいナイスガイというヤツだ。


「その前に……この冒険者ジムがどういうところが分かっているかい?」


 お兄さんがジロジロと私の体を眺めてくる。

 無理もない……だって、私は十六歳の女の子。こんなところにやって来るような人に見えないからだ。


 クレテール冒険者ジム――。

 ここは冒険者を養成する施設である。


 今から冒険者になろうとしている者、今現在冒険者であるが腕を磨きたい者。

 練習設備も整っているものだから、この街の冒険者達はこぞって入会しに来るらしい。


 冒険者といったら、ゴブリンとかドラゴンとかを倒して報酬金を得る人々のことである。

 もちろん、常に危険と隣り合わせ。

 少し気を抜けば死んじゃうかもしれないリスクがあるんだけど……。


「はい、もちろん分かっています」

「君のような可愛い女の子が冒険者になろうとしているなんて……正気の沙汰とは思えないね。危険は承知しているよね?」

「そんな可愛いだなんて……」


 ……いけない!


 殿方に褒められるなんて久しぶりだから、つい頬を赤らめてしまった。

 実際、魔王を倒したのに比べればそこらへんに転がっているモンスターなんて、お菓子を食べながらでも勝てるだろう。

 だから私にとって冒険者っていうのは、危険リスクがない、ってこと。


 でも……このお兄さんは勘違いしている。

 私がこのジムにやって来たのは――、


「……覚悟の上です。厳しい日々になるでしょう」

「それが分かっているならどうして冒険者に? 無理は言わない。止めておきな。君には冒険者になる資質はない」

「確かにそうかもしれません……! ですが、どうしても私はこのジムに入会したいんです」

「分からず屋だな! ダメだダメだダメだ! 冒険者になるなんて――」

「いいえ!」


 バン!


 受付の机を叩いて、ジムに響き渡るような声でこう告げる。


「ダイエットコースを希望しているんです!」


「なーんだ……冒険者になるわけじゃなかったのか。ダイエットコースなら大丈夫だよ。ほら、ここの申込用紙に名前を書いて」


 ――こうして私は無事にクレテール冒険者ジム、ダイエットコースへの入会を果たしたのであった。


今日は21時30分くらいにもう一度、更新します。

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