第70話 宝石探偵
谷の村から戻ってきて数日後、ライズとレティそれにラミアは冒険者ギルドへ出向いていた。
「ギルド長に面会をお願いします」
ライズが受付嬢に面会を申し込むと、あらかじめ連絡を受けていたのか受付嬢が応接室へと案内してくれる。
「ギルド長、ライズ様がいらっしゃいました」
「入ってくれ」
ドアの向こうからギルド長であるトロウの声が聞こえる。
「どうぞ」
受付嬢がドアを開けてライズ達を促す。
ライズ達が室内に入ると、そこにはギルド長であるトロウだけでなく、町長の姿もあった。
町長は偶然来ていた訳ではない。
今回の面会の為に数日前からお互いのスケジュールを調整した居たのだ。
「よく来てくれた。まぁ座ってくれ。ああ、ラミア君……」
「いえ、私の事はお気遣い無く」
トロウが言うまでも無くラミアは座る事を辞退する。
身体の6割近くが尻尾で構成されているラミアが座れる椅子となると、特注で作るしかない。
だがそんな大きな椅子を作ってしまうと部屋にはとても入らない事は誰の目にも明らかだ。
そもそも特定種族専用の椅子など需要が無い。
各種族用の椅子をいちいち作っていては、しまう場所を確保するのも一苦労だ。
「いや、ラミア君用に絨毯を用意したからそちらに座ってくれたまえ」
「え?」
まさかの申し出に驚くラミア。
彼女にとって床に座るのは当たり前の事だったので、絨毯に座ってくれなどと言われるとは思ってもいなかったのだ。
「いや、いつも床に座らせてすまないから絨毯を用意したと続けようと思っていたんだがな」
「え、あ……ありがとうございます」
早とちりした恥ずかしさと、トロウの優しさに触れてラミアは顔を真っ赤にして座り込んだ。
「うむ、じゃあ会議を始めようか。ライズ君、君が手に入れた奇妙な宝石だが、どうだったんだね?」
「はい、やはり悪魔に関係する品でした」
ライズはリザードマンの集落から入手した封魔の術宝に付いてトロウと町長に説明する。
この宝石を手に入れたライズは、トロウに相談してまずはミティックの鑑定を受けてから今後の方針を決めようと議論を交わしていたのだ。
「そ、それじゃあその宝石があるとまた悪魔がこの町にやってくるという事かね!?」
説明を聞いた町長が怯えた様子でライズを見つめる。
「ご安心なく。術宝は教会の専門家が回収してくれます。この町にはドラゴンも居ますし、悪魔退治の専門家も護衛の為に来てくれていますから、早々心配はありませんよ」
専門化と言った所でライズ達の脳内に魔物達と遊び呆けるカーラの姿が思い起こされたが、あえてそれを口にする事は無かった。
(わざわざ不安がらせる必要もないからな)
「今後の方針としては、この町の人間、もしくは悪魔が襲撃してきた当初に宝石を町に持ち込んだ人間が居ないかの確認、それに大魔の森に術宝が隠された遺跡が無いかどうかの調査の二つですね」
「そんな所だろうな。こちらは冒険者達を動員して森を探索させつつ、遺跡について情報を探ることにする」
「では、私は商人達に話を聞いて回る事にしようか」
「私は貴族と資産家の方々に話を聞いてみます」
トロウと町長、それにレティがそれぞれの役割を決めてゆく。
特にレティは騎士の立場を活用して、平民が話をし辛い相手との交渉を引き受けてくれた事にライズは内心で感謝する。
(俺も一応は貴族だけど、成り上がりの貴族って色眼鏡で見られるんだよなぁ)
生まれつきの貴族達の視線を思い出してうんざりするライズ。
「ではこちらも情報収集と行きましょう。持ち主が居たとして術宝が盗品である可能性もありますし、金銭的価値から宝石の存在を秘匿しようとする者も居るでしょうから」
「そうだな、そっちはよろしく頼む。こちらはあまり個人の懐を探るような事をすると組織の結束に悪影響を及ぼすからな」
トロウが茶化すように苦笑する。
(まぁ、冒険者は組織というより寄り合い所帯だからな。どうしても強い命令が出来ないのは仕方がない)
「では我々はこれで」
「ああ、情報を期待している」
◇
事務所に帰ってきたライズは、自分の部屋へと戻る。
すると窓がカタンと音を立ててひとりでに開いてゆく。
「ただいまだニャ」
否、窓を開けたのは言葉を操る猫、ケットシーであった。
「お帰り。どうだった?」
ベッドに腰掛けたライズの膝の上にケットシーが乗り込む。
「はずれだニャ。後ろめたい連中も後ろめたくない連中もお目当ての宝石の情報は持ってなかったニャ」
「ふむ……」
ライズはいつかの新騎士団長達の陰謀を暴いた時の様に、ケットシーの情報収集を頼んでいた。
悪徳商人や盗賊、売値を上げる為に闇の市場に禁制品を出す冒険者、そして借金のかたに売られる差し押さえの品と表に出てこない情報をケットシーは集めていたのだ。
「なぜか悪人って猫が好きだしなー」
「アイツ等は後ろめたい事をしてるから、自然と癒しを求めているのニャ。だから俺達が寄ってけばアゴを撫でさせる代償にエサをくれるニャ」
人間は何処までもネコに支配されるしかない悲しい生き物なのだと痛感させられうライズ。
だがそれはそれとして彼はケットシーの毛並みを満喫した。
「あ~、そこそこ、そこ良いニャア。やっぱご主人の撫でテクは最高だにゃあ。裏通りの連中は手付きが荒いんだニャ」
「そりゃあお前は喋るからな。撫でるならこうしろって注文つけてくるし、お前好みの撫で方になるさ」
「そーニャァ。ご主人以外とは言葉を話せ無いからその辺は仕方ないニャア。あ~そこそこ」
ゴロゴロと喉を鳴らしながらケットシーが尻尾をゆっくりと左右に振る。
「となると、後はギルド長達の情報待ちか」
空振りだったライズは、トロウ達の情報を待つのだった。




