第3話 魔導師入門、意外な才能?
お待たせいたしました。第3話でございます。
今回は波乱が巻き起こると言いましたが、実際そんなに波乱でもない気がしてきてしまいました。
それはさておき、今回もお楽しみくださいませ。
シャムルはミーシャを連れて村へ帰ってきた。すると幼馴染のリカが丁度やってきたので、話はリカの家、つまり村長宅ですることに。いくつか話を終えたあと、ミーシャに「この世界で生き残れる術」を教えることになり……。
「と、いうわけで湖畔に来たよぉ〜」
こんなことを言いながら両手を広げてくるくる回っているリカの姿が見えた。足下には何やら怪しげな書物が置かれている。
「それで、生き残る術っていうのは、なんなんだよ」
単刀直入に聞くミーシャ。
「それはねぇ……」
何か重大なことを言うように焦らすリカ。
「それは……?」
その雰囲気に流されるミーシャ。
そのまま数秒、ついにその口が開かれる。その内容とは……。
「シャムルちゃん説明よろしくぅ!」
「言わないのかよ!」
ミーシャは、盛大にズッコケながら鋭いツッコミを入れた。その一部始終を見ていたシャムル、
「ナイスツッコミだよミーシャ! そんなわけで私から言わせてもらうと、今から教えるのは魔導って技術なんだ」
と、少し笑いながらも冷静に答える。この焦らし、幼い頃からずっとやられてきたリカの得意技なので、対応には慣れっこだ。
「魔導? 魔法使いってそんなに簡単になれるものなのか?」
魔法などあり得ないと考えているミーシャは訝しんだ。
「うーん、ちょっと違うねぇ」
リカが答えたが、ミーシャの頭にはハテナマークが浮かんでいる。見かねたシャムルが補足する。
「まず魔法っていうのはね、魔導と魔術、その他呪術とか超能力とか、そういうものの大元になった、遥か昔の技術なんだ。だから、魔導を使えるなら、魔法使いじゃなくて魔導師だよ」
実際のところシャムル本人には魔法のようなものが使えてしまうのだが、それはややこしいことになりそうなので言わないことにした。
「ふーん、なんかややこしいな。特に魔導と魔術なんて同じにしか見えない」
ミーシャとっては既にややこしかったようだが、途中でやめるわけにはいかないのでさらに付け加えて、
「魔導っていうのは、自然の力を人間の力に変える技で、魔術は逆に人間の力を自然の力に変える技だよ」
と説明した。しかし、この説明を聞いたミーシャの頭には再びハテナマークが浮かび始める。それを察してか今度はリカが、
「簡単に言うとねぇ、お祈りしてすごいパワーが湧いてくるみたいなやつが魔導で、呪文を唱えて炎とか雷とか出すやつが魔術だよぉ」
と、具体例を交えて補足した。幼馴染同士、うまく補い合っている。
「そう言われたらなんとなくわかったけど、そんなに簡単にできるものなのか?」
ミーシャは未だに納得していない様子だ。しかし、シャムルとリカは、
「イメージさえ掴めれば簡単だよ」
「とにかくやってみようよぉ」
「男なら、自分の身くらい守れなきゃダメなんじゃないの?」
「見た感じ、結構才能ありそうだしねぇ」
と煽り気味に誘う。
「そんなにいうなら、わかりやすいやつから教えてくれ!」
と、若干やけになりつつも魔導師になる決心をしたのであった。
シャムルとリカは「よし」というアイコンタクトを交わし、待ってましたとばかりに魔導の授業を開始した。
「じゃあ、身体強化かなぁ、ミーシャちゃん、そこの石、持ってみて」
リカは、近くにあった、石というよりはもはや岩と言うべきものを指差す。
ミーシャは挑戦するが、いくら力を込めても持ち上がらない。
「……男の時なら持ち上げられたかもしれない」
実際は、相当な力持ちでもない限り持ち上がらないほどの大きさと重さの岩である。ようはただの言い訳だ。
しかし、それを……
「ほいっと」
軽々しく、シャムルは持ち上げてしまった。ミーシャは驚きを隠せない。
「これが身体強化だよ。腕の筋力とか諸々強くしてるんだ。使いすぎると筋肉が傷ついちゃうから、普通のトレーニングもしてるんだけどね」
そう言いながら、岩をゆっくりと地面に下ろす。
「今の、どうやったんだよ!?」
ミーシャは興味津々な様子でシャムルに近寄って聞いてくる。
「ちょっと説明が難しいんだよね、リカ、頼んだよ」
説明は、怪しげな書物、もとい魔導の入門書を持つリカにバトンタッチする。
「わかったよぉ、じゃあみんなでやろうかぁ」
そう言ってその場に座り込み、目を瞑る。
「こんな風にぃ、楽な姿勢で目を瞑って、心を落ち着かせるんだよぉ」
シャムル、ミーシャも続けて行う。
「そうすると、色々な音が聞こえてくるし、匂いもするし、何かを感じるでしょぉ? みぃんな、この大自然が生んだもので、その大自然のパワーを感じてぇ……」
そのまま数分の間、じっと、水の音や湖畔の匂い、鳥のさえずり、風のせせらぎ、そんな、大自然というものを感じながら、リラックスしていた。
シャムルの戦いの疲れや、ミーシャの見知らぬ世界への不安など、そういったものをこの時は忘れ、ただ、広がる自然に身を委ねていた。
「はぁい、今みたいに、大自然の力を取り込んで、自分の力にするのが魔導師なんだぁ。わたしとかシャムルちゃんくらいになると、これを一瞬でできるようになるんだよぉ」
このようなまとめで、入門編は完了した。
「じゃあ、早速実践だよ」
シャムルの言葉に、ミーシャは再び奮い立つ。
「今の感覚を思い出して、意識を自分の強化したい場所に集中するんだよ」
ミーシャは岩に手をかける。そして目を瞑って自身の腕から先に意識を巡らせ、
「……えい!」
と掛け声をあげる。すると……
「すごい! 一発で成功だね!」
「やっぱり才能あるんだよぉ!」
ミーシャは2人の声が聞こえるとともに目を開く。しっかりと、自分の手で岩を持ち上げていた。しかも、力を入れているという実感は、ほとんどなかった。
それを確認したミーシャは、先ほどシャムルが行ったように、ゆっくりと岩を地面に置いた。
「いやぁ、教えたことがちゃんとできると、こっちも嬉しくなるよねぇ」
「うんうん。私でも一発ではできなかったからね、すごいよミーシャは」
講師役の2人は、教え子の成長を喜んでいた。と、同時にミーシャにもっと色々教えてみようと画策していた。それにまんまと乗せられたミーシャ、
「他にもやってみたくなってきたな、もっと教えてくれよ」
と、完全に教え子の態度になっていた。
そこでシャムルは、
「じゃあ今度は足を強化してみたら? 速く走ったり、高く跳んだり。実用的だし楽しいよ」
と、少々悪い顔で提案した。それを聞いたミーシャ、
「よし、やってみよう」
と、少し調子に乗りながら、目を瞑って足に集中する。そして、膝を曲げて、大きく跳躍する。
その様子を見たリカからひと言。
「あんまり飛ぶと下着見えちゃうよぉ」
それを聞いてはっとしたミーシャ。
「え? ああ! そうだ! 今ボク女の子なんだ! しかもスカートじゃん!」
そう言ってワンピースのスカート部分を慌てて押さえるが、その時にバランスを崩してしまった。
「うわああ! 落ちるうううう!」
このままだと地面に真っ逆さまだ。シャムルはまず足に強化をかけ、ミーシャの方へ走る。そして、さらに腕にも強化をかける。
「ぶつかるうううう!!」
そう叫びながら落ちてくるミーシャを、魔導の力で体にくる衝撃を和らげながらキャッチした。シャムルがミーシャをお姫様抱っこする形になっている。その後、
「ふぅ、危なかった。あんまり調子に乗らないことだね」
と忠告して、ミーシャを地面に下ろした。当のミーシャ、
「……ごめん。あとありがとう、また助けられたみたいだ」
しっかりと反省している様子だった。
そこでリカから1つ提案が入った。
「じゃあ、今日のレッスンは中止してぇ……服、変えようか」
「……そうだな」
ミーシャは、渋々承諾した。というよりは、承諾せざるを得なかった。
ちょっと終わらせ方に無理矢理感ありますが、次回はTS娘なら外せないイベント回なので、そっちの方面のかたがたの期待に添えるよう、全力で取り組みたい所存です。
3話までなんとかなったので、このまま、もしくはペースを上げていきたいところです。
次回もお楽しみに。