第1話 魔導騎士が少女と会う日
初投稿です。
主人公ではなくヒロインがTS異世界トリップしているという、変わり種かもしれない作品となります。
どうぞお楽しみくださいませ。
昔、騎士と呼ばれる人たちがいた。私の父もその1人だった。彼らはどんな敵も倒してきたが、ただ一つ勝てないものがあった。それは時代の流れだ。魔術も技術も進歩した今、肉体と武器しか使えない騎士など、必要とされていない。でも、私は幼い頃から騎士になりたかった。女に騎士は無理だとか、もうそんな時代じゃないとか、みんなは言う。でも、私の夢は、今も変わらない。
「やあ!!」
剣を構え、魔力により腕を強化する。筋力強化なんて時代遅れの魔術だが、それでも私は鍛錬し、父が振るっていた長剣を片手で振れるようになっている。いつも、黒い獣「グオマー」や角の獣「ディカー」を狩っている。
毎日同じことの繰り返しだ。しかし、今日だけは違った。
「あれは……人が倒れてる!?」
ボロボロの服の少女が木の根元にいた。脚力強化の魔術を使い、全速力で獣を斬りはらいながら、そこまで駆け抜けた。そして少女の側でかがみ、脈を測る。
「……良かった。生きてる」
私がそう呟くと、少女の体がぴくりと動き、小さく唸った。
「……うぅん……」
「あ、目が覚めたんだ」
どうやら無事らしく、少女はゆっくりと目を開いた。
「……あれ? ここは……?」
「山の中よ。君は気を失ってたの」
あたりをキョロキョロと見回したり、自分の体や周囲を触ってみたりしている。どうやら迷子らしい。
「そっか……あれ? なんか僕の声高くない? それに、髪もこんなに長かったっけ?」
「そう? むしろ女の子にしては低い方だし、腰あたりまで髪伸ばすなんて意識しないとできないし……」
野獣に襲われて記憶に障害でも起きてしまっているのだろうか?
「待ってくれよ、僕は男だぞ?」
「え? その、大丈夫?」
「大丈夫なわけあるかよ! よく見たら上はあるし! 下はないし! 意識するほど体はなんかふわふわしてるしいいい!」
この子、私が今まで生きてきた中で一番すごいパニックに陥っていそうだ。
「ね、ねぇ、どうしたの? とりあえず落ち着いて、ね?」
「っていうかあんた誰!?」
これは相当にまずいことになっていそうだ。とりあえず質問には答えないと。
「私はシャムル・セプテリエム。近くの村に住んでるんだ。剣の修行のために森の中に来たら、君が倒れているのを見つけたんだよ」
「え? 剣の修行? っていうかなんだよその格好、いつの時代だよ?」
「あー、騎士なんて時代遅れよね、よく言われる」
「はあ?」
普通に答えたはずなんだけど、どうやら会話が噛み合ってなさそうだ。
「そういうことじゃないんだよ! あー! ボクは今どうなってるんだ!? 気がついたら変な森にいるし、身体が女の子になってるし、変な女にまで会うなんて!」
今はまともな会話は望めなさそうだ。だったらとりあえず、この子を安全なところに連れて行って、落ち着くまで待つしかない。
「見た感じ、道に迷ってパニックになったってところみたいだし、落ち着いて、安全なところに行かない? それから話を聞くから、とりあえず私についてきてくれるかな?」
「なんであんたみたいな変な女についていかなきゃいけないんだよ」
これは正攻法ではダメそうだ。次はどう話してみようかと考えてみる。その時だった。
「グオオオオオオオ!」
獣の咆哮が耳に届いた。そして、それが聞こえた方を見ると、先ほどシャムルが斬り倒した獣の同種で、一回り大きいサイズのものがいた。
「うわあああ!! なんだよあれええええ!?」
それに気づいた少女が大声を出す。するとその声を頼りに魔獣がスピードを速めて接近してきた。
「あー、やっちゃったか……さっきのグオマーの親みたいね」
こうなったら命に関わる。ならば強引な手を使うしかない。
「ごめん、頑張ってついて来て!」
私は少女の手を引いて全力で駆け出した。
「うわああっ!」
村まではそう遠くはない。ただ、さっきの叫び声を聞きいて獣は興奮し、動きが速くなっている。声を上げなければ、それか私1人だったら逃げ切る余裕はあった。間もなく追いつかれるだろう。そうしたら真っ向から戦うしか無くなる。そうなると勝ち目は薄い。
「やるしかないか……君、近くの木陰に隠れてて」
「ま、まさかあのクマみたいなやつと戦うのか!? あいつ見た感じ3メートルくらいあるぞ!」
「いいから!……あいつを倒すまで動かないでね」
少女は不安そうな様子で私を見つつ、近くの木のあたりに身を隠した。
「ふう、……我が剣の全力、見せる時!」
かつて、私の父が強敵に対峙した時の言葉で、自分を振るい立たせる。そして目を閉じ、感覚を研ぎ澄ます。アレは全力で突っ込んでくる。その勢いを利用して、タイミングよく剣を振り下ろせば、斬れる。
「グオオオオオオ!!!!!」
野獣が吠える。足音がどんどん近づいてくる。……引きつけなければ剣は届かず、引きつけすぎると、私は最悪ここで果てることになる。一瞬で斬り伏せる。
「はあああああああああ!!!」
全力で叫びながら、その剣を一気に振り下ろした。肉や骨をえぐる音がくる。気を抜いたら吹き飛ばされるほどの勢いを、強化魔術でなんとか押し留める。雨のような返り血が降り止んだのち、私は漸く目を開いた。真っ二つに裂けた肉の塊が、自分の両脇にあった。
「ふぅ……」
集中力が途切れ、体がふらついた。
「おい、大丈夫か!?」
隠れさせていた少女が、私に駆け寄ってきた。
「大丈夫、物凄く疲れただけだから」
そう言って、精一杯の笑みを作る。本当は結構余裕がない。
「……さっきはごめん、変な女とか言って」
「いいのよ別に、そっちにも事情ありそうだし」
ハプニングはあったけど、なんとかこれから話は聞いてもらえそうになった。
「それと……その……」
「ん?」
「あ……えっと! かっこよかった! なんか、本物の騎士を見てるみたいだったぞ!」
本物の騎士。私が目指していたものだ。初めて会った人にそう言われたら、嬉しくないわけがない。
「そう言って貰えて光栄よ」
「お、おう」
言った側も照れているらしい。顔立ちと相まって、その表情は可愛らしかった。
「じゃあ、とりあえず私の村に来て。それからゆっくり話を聴くから」
「ああ、わかった」
今度は大人しくついていく気になってくれたらしい。これでやっと一安心だ。あとは村に帰る準備をするだけだ。
「じゃあ、ちょっと待ってて。せっかくの大物だし、肉だけでも持って帰らないと」
「え? こいつ食べるの?」
「もちろん。夜は焼き肉よ!」
グオマーの肉は、サイズが大きいほど固くなるが、その分味が濃厚になるらしい。このサイズを狩るのは初めてだ。どんな味だろうかと思いつつ、肉を袋に詰めた。
「じゃあ、行こうか。えーと……名前、まだ聞いてなかったわね。なんていうの?」
「僕は、星夜。結城星夜だ」
ちょっと変わった名前だ。空色の髪なんてこの辺では珍しいから、離れたところから来たのかもしれない。
「えっと、どっちが名前?」
「星夜が名前で、結城が苗字だ」
苗字と名前の順番が逆、やっぱり遠くの国の人らしい。
「じゃあ、セーヤね。よろしく」
「ああ、よろしくな」
「それじゃあ行くわよ、付いてきて」
セーヤを連れて村に帰る。この子を見たら村の人達はなんて言うだろうか? そう思いながら歩く私と、無言でついてくるセーヤ。何か話題を出そうかと思っていたら、だんだんとひらけた空が姿を見せはじめた。もうすぐ森を抜ける。
「そろそろ森を抜けるわ。その先に村があるの」
「そうか、歩き疲れてきたところだしありがたいな……なんとか体の感覚にも慣れてきたよ」
「やっぱりなにか事情あるのね。あっ、見えてきた。あの柵の向こう」
その指の先には、野獣避けの柵、その奥には家がぽつぽつと建っている小さな村があった。私たちが暮らしている村、かつて騎士だった人達が作った村だ。
1話、いかがでしたか?
毎日投稿とはいかないとは思いますが、できる限り速めな更新を心がけていきたいところです。
この先、もっと変わり種な作品になるかもしれませんが、お付き合いよろしくお願いいたします。