2 インダでイインダ
「アッルラエ」
女はチャイを口に運びながら、側使えの女に声をかける。
「なんでしょうソルタカッタ姫様」
「今日の王宮の様子は?」
ソルタカッタは目を閉じて茶の香りを嗅ぐ。
「ドクサレー部隊長が亡くなられたとかで、ラーリパッパ将軍が……」
「アッルラエ……お前の好きなその男の話は特に聞いていないわよ」
「もうしわけありません!」
「女王の今日の様子は?」
「おかわりなく玉座にいらっしゃりました」
「そう……相変わらずお姉様は幸せそうね」
ソルタカッタは微笑を浮かべながらカップをテーブルへおいた。
「はい」
アッルラエは屈託なく微笑んだ。
「これからお客様がくるから、人払いをしたら貴女はもう下がっていいわ」
「護衛をつけずにですか!?」
「相手は私を殺さないと、確定しているから問題ないわ」
「えっ……!?」
「私が呼ぶまで将軍にアタックでもしていらっしゃい」
「ええ!?」
――――――――――――
「はあ……これがトォンボ帰りってやつか?」
「インダに着きましたな」
やる気満々のダリンダとは対照的にレアンは“出戻りだが”とボヤく。
「屋敷はまだしもさすがに王宮はそう簡単には忍び込めないわね」
「え……レアンさんたちまさか城に乗り込むんですか?」
レアンはグアーナ達の前で一般人を装っている。
この場で正体を知っているリィやダリンダはともかくディシの処遇にレアンは困った。
「さて後はあの屈強な女たち二人に任せて俺は家でホットケイキ食うかな。なんかノリでお前を連れて来てしまったが、ディシお前も帰っていいぞ」
「待たんかーい!!」
リィはレアンの肩をつかんで引きとめた。
「貴殿らはなにしにきたんですか?」
ダリンダは顔をひきつらせる。
「しかたないな……いくしかないらしい」
「でもレアンさん戦えるんですか?」
レアンは空気を読めよもう聞くなよ黙って行かせてくれ。
という無言の威圧をするが、そんなもの伝わるわけがないのだった。
「そういえばディシはなんでレアンを師匠なんて呼んでたの。強いって知ってるからそう呼んでたんでしょ?」
「あーなんか師匠とかほしい気分だったというか、その余裕そうな構えとか強そうな雰囲気してるじゃないですか」
「まあ言われてみれば定職にもつかずにフワフワしてスカした態度だけどたまにカッコいいし」
「あんま褒めるなよ照れるじゃねえか」
「……ほとんど貶されてませんか?」
「もうなんかいいやってなりました。シュカさんのお母さんが拐われたときも興味なさそうに外行ってましたし」
「あーそうだな俺も弟子いらねーしじゃあな俺ぜんぜん戦えねーもんむしろお前のほうが強いんじゃね~?」
ギリギリのところでディシに正体がバレる前に欺けるとレアンは自分を卑下した。
ダリンダは反論したくなったが、レアンの正体をバラさぬように言葉を飲み込んだ。
「待ちなさいよ」
リィはディシを引き止めた。
「なんですか?」
「おっおいリィ……」
「レアンは別に興味ないからって逃げたんじゃないわ。英雄に頼んでサショウさんを助けてもらったのもレアンだし、彼はそんなに弱くもないわ普通よ普通!」
リィは正体をバラさぬよううまくフォローしつつ一矢報いた。
「へえ……やっぱり僕もついていきますよ師匠!!」
「師匠は止めろせいぜい知り合いくらいだ。この城から生きて出てきたら水くらいは出してやる」
「まあアンタは武器持ってないんだから、逃げるだけでいいわよ」
「はーい」
レアンはディシと裏口から入って、さりげなく離れた。
ぶっちゃけ皆は、ディシが死のうと自己責任と思っているシビアである。
レアンは英雄に変装しながら異変に気づいた敵を軽く気絶させた。
所持している黒剣で殺していい人数が日替わりで決まっているからだ。
もし死なせそうな場合は白杖で回復してやる必要がある。
その頃変装したリィと、ダリンダは城へ入っていた。
「取り合えずシュカ姫を探してこっそり連れだすわよ」
万が一見つかったらレアンたちと共に敵をボコりながらシュカを回収する手筈だ。
「だれかくる……」
部屋から人が出る気配がしたため、二人は柱に隠れる。
すると見覚えのある人影が横切り、白髪の女が大箱をガラガラと荷台で運ぶ姿が見えた。
「着いていきましょう」
二人が女のあとをついていくとそこには大きな扉があった。
玉座の間だと察しがついた二人。
荷台を引いた女は兵士達を軽々と下がらせて扉を開ける。
閉じた後に女官のフリをして後に続いて入る。
「ソルタカッタ、姉妹とていささか不躾ではないか」
「ごめんなさい久しぶりにお姿を拝見したくなったんです」
「用は?」
「お姉様に、良いものをお持ちいたしましたわ」
荷台の大箱から出てきたのは銀髪の少女だった。
「なんだこれは……そのような趣味はないぞ」
「これはワコクの姫です」
「またその話しか……ドクサレーの酔狂にはほとほと飽いたぞ奴は死んだのだ。今さら姫を集めたい者などおらぬわ」
「例えば貴女の飼い犬とか……」
「ラーリパッパのことか?」
「さあどうでしょう」
「奴が裏切ることなど……」
「ふふ……さようなら、私にこんな役目を押し付け配下を意のままにしお飾りの女王となった姉様」
ソルタカッタが短剣を構える。
短剣がなにか飛び道具のようなものに弾かれる。
「そこまでよ!!」
「なによ貴女たちは!?」
「シュカを返せ!!」
レアンとリィ、ダリンダが取り囲んだ。タラタリラッタが驚き、どさくさ紛れにソルタカッタは逃げた。
「アンタが女王タラタリラッタか」
「そうだ」
女王は死にかけたにも関わらず堂々たる出で立ちで玉座から見下ろした。
「なぜこんな真似をしたかは聞かない。俺たちはアンタを倒しにきたわけでもない。ただこの可哀想な少女を救いにきただけだ」
「何をしているかなど、こちらが聞きたいくらいだ。勝手につれて行け……といいたい所ではあるが、あいにく慈悲ある神ではない。無礼者をそのまま帰してやれるほど人間の心は広くはないのだ」
玉座の隣にある長い武器を手にしたタラタリラッタは立ち上がる。
「なら戦うしかないな……」
「ご無事ですかタラタリラッタ様あああ!!」
ラーリパッパが兵士を引き連れ現れた。
「ラーリパッパ、どこにいっておった!」
タラタリラッタは拍子が抜けたように武器を持つ手を下げた。
「陛下がワコクにてドクサレーの仇を取るように。と命を下されたとキサキから聞き、しかし何か可笑しいと思い引き返して参りました」
タラタリラッタ女王の前に片足をつき、ラーリパッパは語った。
「やっぱりキサキはアンタらの……」
レアン達は2人を見据えると、武器を構え攻撃にそなえる。
「ラーリパッパよ。そのような命令、した覚えはないが」
「え?」
タラタリラッタの言葉にラーリパッパ、レアン達は目を見開く。
「どういうことだよ」
「アナタ達がキサキにシュカを拐わせたんじゃないの?」
「寝言は寝て言え。なぜそのような顔も体も平たい小娘を拐わねばならんのだ」
とラーリパッパが言った。
「それはそうだが」
「あの?」
シュカを貶されダリンダが真顔でレアンの背後にまわる。
「いやなんでもない。ソーダが飲みたくなっただけだ」
「貴様らは……」
ラーリパッパはレアン達に気がつくと憎悪の表情を浮かべる。
「……もしや」
タラタリラッタはその様子から察した。
「剣を抜け!部下の仇を討たせてもらう!」
ラーリパッパはレアンに向かって素早く武器を向ける。
油断していたレアンはそれを辛うじて受けた。
「俺ひとりで十分だお前らは下がってろ」
――――久々に面白そうな奴が現れたものだ。
レアンはニヤリ、と口の端を上げた。
「……!わかったわ!」
リィはレアンから距離を取る。
「でも雑魚を倒してもね……」
リィは退屈そうに兵士達を流し見。
「ならば私が相手になろう」
「女王が自ら相手になってくるなんて……光栄ですわ!!」
二人の武器がぶつかりあうと壁にかけてあった肖像画が崩れて破れた。
その様子にレアンとラーリパッパ、ダリンダは軽く唖然とするが何も言わずに戦いを続けた。
「メン!!」
「ぐおっ」
ダリンダは薙刀の持つところ側で兵士をコケさせて足をつかみジャイアントスイングし兵士等を一気に片付ける。
「なんだこの女クソつええぞ!!」
「ぐあっ」
「邪魔だ!」
とんできた兵士をちぎっては投げるレアン。
「テリトリーに入るんじゃねえ!!」
「将軍申し訳ありませええん!」
ラーリパッパに謝罪しながら兵士達はそのばにふっとんで玉座の間が大荒れになる。
「師匠~あわわ……」
その場やようやくに追いついたディシが参上し惨状に騒然とした。
「ただのかませチンピラ兵士から将軍になっているとは驚いたぜ大出世じゃねえか……オメデトウ!」
レアンは横で斬り武器を弾こうとする。
「オレは初めから将軍だったがな!」
ラーリパッパはンワアールで受け軽く傷がつくが手から離れはしなかった。
「チッ……ちょこまか動きやがってお前アサシンだな」
「貴様に答える義理はない!」
「あわわ……」
リィとタラタリラッタの音速を越えた戦闘を観察しているディシ。
「どけガキ!!」
背後に剣を振りかざした兵士が迫った。
「あぶない小僧!!」
近くに敵がいなくなり暇していたダリンダが叫ぶ。
それにレアンとリィは気がつくがかばっている暇はなく、ダリンダも間に合わない。
「うわ~」
ディシはしゃがんで兵士の攻撃を避け、立ち上がると偶然に頭突きをかました。
「あーびっくりした」
ディシはため息をつく。
見ていた女王はあっけにとられ、隙ができる。
リィに遠方から武器を弾きとばされ、無慈悲なる武器が迫る。
「タラタリラッタ!!」
ラーリパッパがレアンの剣を武器ごと投げ捨て走り、戦いを中断し身をていして女王を庇いにいく。
「二人まとめてミンチになるだけよ」
その姿にリィは驚くが、レアンの為に敵は倒さなければならない。
敵を倒さなければ武器は止まらない、誰にも止められない。
ダリンダは生唾を飲んでただ敵二人が死ぬ瞬間を見るしかできない。
リィがまばたきのため目を閉じると、キイイイイイン。という金属のすれあう音がした。
「え?」
一同は予想もしなかった光景に騒然とする。
「はあ……やれやれ、そいつらは一応敵じゃないみたいだ」
レアンは腕を組みながら息をつく。
敵をオロシガネのように磨り潰す強力な武器、それを止めた黒い剣。
「どういうこと!?」
「いっとくが俺は何もしてない。あの剣が勝手に止めたんだ」
「いったいどうなって……」
「殺すなら俺を殺せ!!」
まるで手負いの獣のように叫ぶラーリパッパ。
「まあ落ち着けよ……俺がお前らを殺すことは今のところないぞ。よかったな」
「なんだと!?」
「なにがどうしたのか説明してよ、わけわかんないんだけど?」
「この剣は世界のバランスを維持するものだ。つまりあの二人を殺せばバランスが乱れるってことだ」
「なんで?二人くらい減ってもバランスもへったくれもないでしょ」
「というか国を納める女王が死んだらインダの管理者がいなくなるからな」
「管理者がいるなら新しい管理者でも作れば?」
「今までこの世界のバランスが保たれてたのは、皮肉にもタラタリラッタ女王が統治してたからだろ」
「う……」
「万が一これから性格悪い奴が新しい王になってみろ……俺の仕事が増えるんだよ」
「む~」
「ただでさえ神の気まぐれのせいで増えていくキャラどもの管理があるってのにな」
「はいはい。わかったわよとりあえず納得したわ」
「まあお前が俺の為に敵を倒そうと頑張ってくれたことには感謝してるぜ」
「うん、なんか疲れたからソフトクレームが食べたいな」
「ならこんどヨウコクにでもいくか」
――――――
「シュカ姫!!」
ダリンダが箱から姫を取りだす。
「ダリンダ……」
「ご無事でよかったです~」
ディシが安堵して息をついた。
「申し訳ござりません」
ダリンダは頭を垂れる。
「さーてそろそろ帰ろ~っと」
ディシはレアン達の元へ移動した。
「よっ……よいのじゃ非は妾にもある。顔をあげてくれ」
首をふって、ダリンダの肩に手を乗せる。
ぽたり、どちらのものかわからない滴が、床に落ちていく。
――――――――――――
「勝手にやってきて城内を荒らして片付けもせず去ったか……わけのわからん嵐のような奴等であったな」
「はい」
「すまない、隙をつかれたばかりに仇をとらせてやれなかった」
「気がつかれてたんですか……!?」
「国を納める王を守ろうとしたその忠臣ぶりは見事だ」
「そんな大層なもんじゃ……国がどうなろうと別に俺は」
「伝説の剣に主姫が二人……これは何がかが起きる前触れだろうか」
「陛下?」
「だが何が起きようと変わらん情けをかけられた身、女王を続ける他あるまい」
―――――――――
「シュカを助けたはいいが、キサキと逃げたインダの女をとっちめないとな」
「えーめんどくさーい」
「僕ちょっと用事があるので帰りますね」
「用事?」
「なんだよ今更、ここまできたらむしろついてこいよ」
「そろそろ兄弟達が幼稚舎から帰ってくるので迎えにいってやらないと」
「……もしかしてあいつ孤児院育ちか?」
「あーそれっぽいわね、でも私たちには関係ないわ。行きましょ」
◆
「ちょっと待って何か忘れてた」
ワコクへ向かう途中、リィが足を止めた。
「なんだよ」
「インダの男はシュカ姫を狙っていたわよ。女王は知らなかったみたいだけど」
たしかにそのことをラーリパッパは話していなかった。
「そうだな……たぶんドクサレーやキサキが女王の命令だとラーリパッパに嘘の情報を流した。こういうことだろ?」
「なるほど、すぐ騙されるバカなんだ」
「そうなるな」
ドクサレー達がラーリパッパを騙さなければ奴の部下は少なくともあの時は死ななかっただろう。
ワコクのゲートへ向かう最中、倒れている少年がいた。
「シノビの少年だな、治してやるか」
「その杖は神宝……そんなに易々治していいものなのですか?」
杖で道端の縁もない少年を治癒することについてダリンダが問う。
「俺は別にどうでもいいが、杖が治す人間を選ぶんだ」
「そうなのですか……」
少年をパッと治し、ワコクへ入った。
「一先ず私はこそこそする必要ありませんね」
ダリンダは堂々と入る。
「ねえ今さらだけど姫連れてきて大丈夫?」
リィは足手まといになるとは本人の前では言わないが、まあ敵地にいくなら危険だ。
「ワコクへ向かうのなら妾も行くに決まっておるではないか」
「それはまあそうだな」
本来なら敵のインダを倒し、後は家に帰るだけなのだ。しかし、味方側の中にも主姫を狙う敵は潜んでいる。
だがクツソを首謀者と考えれば、なぜインダが攻めてきたときにシュカをダリンダに使わせたか、疑問が生じるのである。
インダのドクサレーとクツソが組んでいたなら、ドクサレーはシュカを狙わない。
だがシュカがいない代わりにドクサレーが母親サショウを拐った。
キサキの主がクツソではないか、またはシュカ等をワコクから出す必要がなにか理由があったか。
―――クツソとドクサレーが一時的に手を結ぶフリをしたと考えるのが妥当だな。
「レアン~いつまで探偵ポーズしてんの置いてくよ」
「ああ、いまいく」
「……カッスー姫は無事であろうか」
「誰だよ」
「クツソ殿の娘で、シュカ姫とは年が近いため姉妹のように親しくしておられる方です」
「ふーん」
「姉妹といえばレアン殿には姉と妹がいるんでしたね」
「ああ、科学者の兄と家出中の弟もいるんだなこれが」
「あ、着いたわ」
「それにしてもでかいな天守閣というのは」
「こちらではありませぬが」
「え?」
「そちらの国の貴族令嬢が姫とイコールで、王女はもっと上の皇族クラスになります」
「……へ~姫って沢山いるのね」
レアン達はビルのようにそびえる天守閣――――ではなく、その下にあるカリヤスの城へ入る。
―――――
「カリヤス様」
忍の女が男の後ろへ現れる。
「……客人が来たか」
――――――
「よくぞシュカ姫をまもってくれたな」
クツソはダリンダに諸々の説明をされるとレアン一行を捕えるどころか、城へ歓迎した。
皆は屋敷内でお茶を飲みつつ、くつろいでいる。
ふとしたとき、レアンはハッとした。
(―――神が胃痛を訴えている?)
「どうしたのレアン?」
「いや、なんでもない。とにかく、これからどうすべきか考えよう」
歓迎モードだが、クツソを信頼してはいけない。ここはどう出るべきか、チャンスを伺いキサキについてカマをかけよう。そうレアンの脳裏では考えがめぐっていた。
―――――――――――【天守閣】
「翠黎<すいれい>様」
刀を二本腰に差した男は、御簾<みす>の向こうにいる姫君にひざまずく。
「……不穏な動きがみられますね―――クツソ、カリヤス敵はどちらか?」
「御膳を失礼つかまつります」
扇子で顔をおおった女の影が男から見える。男は部屋を立ち去る。
「ゴウさま~」
腰に剣を下げた女が長廊下を素早く走り、男へ突進していく。
「……アーラ」
男は女を見るやいなや、脱兎のごとく逃げ出した。
「つかまえましたよ~」
「……やれやれ」
「……お二方、スイレイ様の部屋前でさわがしいですよ」
「すっすみません」
「では失礼いたします」
二人はそそくさと去る。
「カッスー、キサキのほうはどうか?」
「は、奴ならば地下へ捕らえまして」
「そう、ならクツソではなくカリヤスが怪しいようね。この文を我が父、帝に」
「は……」
――――
「ゴゥさま~私はこれで失礼しますが女房の私を差し置き他の女に目移りしないでくださいね~」
「待てアーラ、いつからお前は女房になったのだ?」
「えへへ~」
「ゴゥ殿よ」
「カッスー殿、それがしになにか用か」
「姫から、帝へこの文を渡すようにと預かって参ったのじゃ」
「ふむ、解りもうした」
―――――――――
「そういえばダリンダさんとシュカ姫の姿がないわね」
茶菓子を食べ終えたリィが湯呑みを置いて一言。
「部屋で休んでいるんじゃないか?」
俺達がいる間、コナソじゃあるまいし奴等が何か行動をおこす確率は低い。
「でも、なんかひっかかるんだよねー」
「なら探してみるか」
万が一黒タイツが現れていないとも限らないからな。
というわけで二人の居場所を和メイド達にたずねた。
皆知らぬ存ぜぬ見かけていない。の一点張りで、何の収穫もない。
「やっぱ怪しいわよ」
「そうだな」
やはりクツソを見張っておくべきだったな。
――――――
「しまった……」
黒髪の女は外からついたてや閂のかけられた真っ暗い部屋で目をさます。
乱雑に物が置かれた狭いその場所は使われていないようで、埃っぽいために女は咳き込む。
―――――――
「なあ近頃、有名な悪の組織が壊滅したらしいぞ」
「へーどこだよ」
「邪神教団アズローだ」
「幹部が邪神そのものだって噂のあれか?」
「ああ」
「アズローといやぁ、暗殺を依頼されたら必ず死ぬとされるほど恐れられながら、その実態と活動エリアすら見つからない伝説のミナモ教団と並ぶ大組織じゃねえか」
「どんな奴なんだそんなブッ飛んだ真似をしやがったのは」
「きっとタッパは5メイトゥルはあるイカツイ大男だろ」
軽く武器を所持した騎士の男達は、集団で粗野な浮浪者等の元へ。
「おい……ヨウコク王騎士団エンペラーキングダムだ!!」
「早く逃げねーとしょっぴかれちまう!!」
「はあ~い不法滞在組織のしたっぱさん」
集団をなした制服の女達が、騎士から逃げる二人組を挟み撃ちにした。
「げっこっちからは女傑衆クイーンヤード!!」
「どうするよアニキ!?」
「私は騎士団の副隊長、テイトウだ」
騎士団の男はが一人、前へ出て中指で眼鏡をあげる。
「私は女傑衆の副将軍ツェーカよ!」
女も前に出て、快活に名乗る。
「華々しい登場を決めたところで悪いが、この者達は我々が連行する」
「あーら、残念ながら捕まえたのは私達」
と副同士はにらみあう。
「エンフィル兄さん、今度なにかおごるから、ウチらに譲ってくんない?」
「フィラ、いくら可愛い妹のたのみでも~そういうわけにはいかないんですよ~?」
「ミグ……オマエら消す」
黒髪の女は短刀を抜いた。
「なんだやんのかこら?小娘はオウチに帰って裁縫でも……」
「よせ、カンノセ。子猫の戯言だ」
「は?邪魔すんなよラァゼ……じゃないっすね―――」
意気がっていた男は想像していた同僚ではない人物が背後にいた為、男から血の気がひく。
「……たたた隊長!?」
「将軍!?」
いがみ合う三組の間に、わって入る二名。
「ほらほら、あなたたち。いがみあっている場合?」
「アメリヤさん!」
「すいません姐さん!!」
「お前達もだ」
「リツェン団長……」
「いやー我が騎士団の物が申し訳ない」
「いえいえこちらこそ」
「というわけでキヤツ等は我々が引き受ける」
「いえいえレディーファーストですから私達が先に泥をかぶりましょう」
「手柄を頂くの間違いでは?」
「まあまあ……」
「やはり派閥派遣は一国に二軍も不要ですな、早急にジュグにお帰りになられたほうがよいのではないか」
「あなた方もヨウコクへお帰りになられてはいか?」
「あの……」
「なんです」
「逃げてます」
「しまった!!」
それぞれ男と女に分かれた集団は悪党の逃げた方向へ向かう。
「ここは……ワコクの貴族の屋敷のようだな」
男は冷静に見慣れない建造物を大きさから自分達の国にある城のようなものだと判断した。
「……入りづらいな」
彼等にとっては他国の案件であるため、周りを守る和兵士たちが邪魔であった。
「問題ありませんわよ悪党をかくまうのも悪党、民間人ではないのだから」
「つまりしょっぴいても構わないということで」
「レッドカード、皆でもらえば怖くないの精神でいきましょう」
女達は和兵士達の前へ堂々と現れた。
「なんだ?」
「ここは家老クツソの屋敷ぞ」
「私達はジュグの治安管理局員よ。悪い男を捕まえにきたの」
「ジュグといいやあ大王国じゃねぇか……」
和兵士達は落ち着かない様子になる。
「……クツソ様なにかやらかしたんだろうか」
「いつかやるとは思ってたけど」
とひそひそ会話する。
「クツソとは誰か知らないけど、二人組のアラビン人が裏手から入っていくのを見たの」
「通ってよろしいかしら?」
「おおう……」
ドタドタと、大所帯で屋敷を走る音がする。
「なんだか向こうが騒がしくないか?」
「そうね。なにかあったのかな……」
「あちらに城主はいたか!?」
「いません!」
「ならば天守郭か!?」
「いきましょう!」
「そこのお二方」
「はい?」
「我らは怪しいものではない。装いを見ればわかるだろうがヨウコクの騎士だ。わけあってクツソという男を探しているのだが、知っているか?」
たずねられたので正直に答える。
「まあ知っている。この城の主はカリヤスという男だが、クツソというのは家老とかいう立場だったな」
「感謝する」
―――クツソはなにかやらかしたのか?
天守郭にいくと言っていたが、クツソがシュカを連れてそこにいるかもしれない。ならオレ達もそこへ行くしかないな。
リィと共に天守郭にひっそり忍び込む。
「レアン、これからどうしようか?」
「しらね」
―――神よ、たまには我々を導いてはくれまいか。
“そなたの役目はカリヤスかクツソを殺すこと”
今のは、おそらく神の言葉だった。つまり天恵というやつである。
「で、ダリンダさんはどうするの?」
「カリヤスかクツソのどちらが殺すべき悪か当ててからわかるんじゃないか」
万が一ダリンダがいないのが悪人のせいとし、まだ生きていればの話だが―――
◆◆
一方その頃、ダリンダは床でつまづいてビンを倒した。
「うわっすべるううう!!」
「うわあああああ!」
廊下を油まみれでスケートするダリンダは洋装の女を巻き込んで転倒してしまった。
「実に申し訳ござらん」
「……」
無表情な少女はダリンダをじっと見て、何も言わずに去ろうとした。
「というかなぜヨウコクのものがここにいる?」
「ミグ……クイーンヤード……クツソを引っ立てにきた」
――ダリンダはミグを見てふと、ヨウコクの人間らしくない容姿だったと思う。
◆◆