1話 転生者
俺は……死んだのだろうか?
いやいや、死んだらこれで二回目になるもんだが……感覚的に言うと死んではないのだろう。多分。
転生した感覚は何とも新鮮さを感じたのだが、今回はそんな新鮮さを感じない。どっちかっつーと、ゆっめの中にいる感じだろうか?まぁ、ここが夢なのかどうかも分からな―――
『おっじゃまっしま~す!!』
……どうやら夢らしい。
なぜそれが分かるのかというと、原因はテンションが妙に高い奴がいるということがその証拠である。
出会った当初から思っていたが、なかなかウザいテンションの高さだ。俺もよくこんな奴の話を信じたもんだと今では後悔している。
『ねーねー、ウザいって酷くない?仮にも神様の僕に対してさぁ』
神様も何も、そのテンションの高さで人の夢の中に侵入してきたら誰だってウザいって思うからな?神様と言ったら、もっと神聖であって物静かなもんだろ?もっとこう大人びてる感じというか、静かなもんだろ?
『うーわー…すっごい偏見だよねー。もっと柔軟に考えてくれなきゃダメだよ~。神様にも様々な神様がいるんだしね~』
もし、仮にいろんな神様がいたとしても、お前はハズレの方だろうな。
あー……なんで俺の夢にこんな神様が出てくるんだろーな。出てくるなら頭良さそーな神様がよかったー。
すげーざーんーねーんー。
『うっわぁ、なにこの人間。すっげーウザい。
せっかくいい情報を持ってきたのなー。耳寄りな情報なのになー。けどその態度じゃなー』
教えるか教えないか分かんない神様の情報なんてあてにできないからなー。しかも聞いて聞いてアピールがなんとも面倒な感じだし……。うん。このまま夢が覚めるのを待つか。
『いやいや、ここはマジで!とかぜひ教えてくれ!!とか聞くとこでしょ?なんでやる気なくすかなぁ……。 まぁいいや。今回も適当に話すから頑張ってね~』
いや、頑張んねぇから。大体お前話すだけで俺の疑問とかなんも答えねーじゃんか。人の話聞かないにしても限度ってもんが―――
『んとね、今キミの近くにキミと同じくこの世界に来た人間がいるんだよねー。まぁ、その子ちょっと厄介事抱えてるからテキパキ解決しちゃって仲間にしちゃってねー。
因みに、その子が潜んでる街はアズガルドとか言う場所だから』
話を進めんなし!!
つーか、え?何?俺と同じってまさか!!
『じゃ、が~んばってね~』
待て神この野郎!話はまだ終わって―――
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「……あかん。あかんよこれは。材料が足りひん。特に……魔石」
研究所の倉庫で魔道具の材料を探していたんだが……全くもって材料が足りないのだ。
魔法の媒体として使用する武具は勿論のこと、魔法の源である魔石が全くもって足りないのだ。
魔道具は、魔法を媒体とする武具、魔法の属性や効果である魔石によって製作される。その他にも事細かな魔道具製作事情があるんやけども。まぁそれは今は別にええんよ。
問題は魔石やね。
魔石言うんは、魔法そのものって言うた方がええね。魔石に持ち主の魔力を注ぎ込まれるとその魔石の効果が発動する仕組みなんよね。昔は魔法陣を描いたり、詠唱で魔法を発動してたんやけど魔石が発見されてからは、魔力を注いだら発動するから世の中の皆々様はその便利さに目ぇ眩んで高値の取引されたり、奪い合ったりしてたもんや。
まぁ、今はお偉いさんらの協力によって高値の取引はされんと一般の商会で売り出されたりして、普通のお客にも手が出せるようになったんやけどね。
と言っても、珍しい魔石に関してはまだ裏取引やらされているみたいなんよねー。しかも、ウチがほしい魔石いうんがその裏取引される珍しい魔石やねんなぁ……。
「はぁ……ホンマにどないしよかなぁ」
珍しい魔石を購入するには、裏取引を行ってる闇商人を訪ねるしかない。が、闇商人は何かと珍しい魔石を高値で売りつけてくる極悪商人。ましてや見ず知らずのお客に対して安価にしてくれるわけやない。
「……奴を頼るしかないかな」
遠い目をしながら、研究所の倉庫の天井を眺めた。
これは仕方のないことである。魔道具を製作するには魔石は必要不可欠である。
ウチは技術者であって、魔道具をこよなく愛するミハルさんや。決して、ウチは奴に会いたいわけやない。決してや。いや、ホントマジで。
と、そう考えている時だ。
何やら研究所内でガシャン、ゴン、ドタドタ…。という騒がしい音が響いてきた。
いや、実際にはそないな簡単な音やないで?もっとこう大きい音で…ガッシャーン!!とかいう音やで?やないと倉庫におるウチには聞こえんしね。まぁ、研究所やから色々と整理されとらんし、変なとこ触ったらそら崩れたりするもんやねんよね。女性ならもっと綺麗に整理しろとか随分昔に、誰かに言われた気ぃもしなくはないけど……置かれとる資料とか物とかは逆に分かるように置いてあるもんねー。
やから誰かが勝手に動かさん限り、特に被害は―――
「いや、あかんやつやんこれぇ!! 動かされとるやん!!」
ウチは焦りながら、倉庫を後にした。
多分、騒がしい音がした場所は寝室と研究室あたりやろうか?寝室はまだええは、今は野たれ死んだおにーさんがぐっすりしとるやろうし。しかし、研究室は困るわ。あそこには色々と魔道具の資料があるし、それはちょっと失くしたら困るもんでもあるんよね。
ていうか何の音やねんさっきのは。研究室には爆発するもんや置いといて困るもんはなかったはずや。ましてや、自然的な災害のようなもん……それこそ地震とかは起こってなかったし、窓も閉め切ってた筈やろうし。だとするなら、考えられる原因としては―――
「……拾ったおにーさんが起きて、暴れてる」
まじかー。おにーさん、まじかー。
いや、拾ったんウチやけどさぁ。無意味に暴れんといてほしいんよねぇ……。
そら研究所に運ばれて、起きた瞬間ここ何処!?ってなるけど、少しは大人しくして状況判断みたいなことして落ち着いといてほしかったわー。うん。
そう考えながらも、ウチは研究室に到着した。
すると、そこでは少々というか……大分荒れていた。資料が。
もう、何か色々と資料が宙を舞ってしまってな。床には資料が散乱してしまって見るも無残な光景やね。ほんと。
んで、研究室を荒らしたおにーさんはというとね?まぁ、床に転がってましたわ。おにーさん転倒して多分頭打っちゃったんやろうね。両手で頭を抱えながら蹲ってはるもん。凄い痛そうやわぁ……。
「いってぇ……。つか、何だよこの家。紙ばっかじゃんかよ」
「……紙ばっかちゃうよーおにーさん。これは大事な大事な魔道具資料やよ。
まぁ、おにーさんに言うても分からんかも知れへんけど」
「おにーさんって……いや、そもそもこの独特な話し方ってまさか―――ミハル、か?」
おにーさんは、頭を上げてウチを確認した。
ウチは呆れながらもおにーさんを見ていたのだが、おにーさんはウチを見て、何やら喜びを露にしていた。
おにーさん、何で喜んだ顔しとるんやろ?というか、何でウチの名前知っとるん?え?まさかのストーカーとかの類?
いやまっておにーさん、確かにおにーさんを拾いはしたけど、恋になるような発展は望んでないからな?
「ミハル、なのか? ホントに」
「た、確かにウチの名前はミハル言うけど―――」
「そうか! ミハルなのか!! 良かったぁ……!!」
おにーさんはそう言いながらも、また沈んだ。と、思ったら急に立ち上がったのだ。
な、なんやこのおにーさん急に元気になったで!?一体このおにーさんなんなん?面倒やな!テンションのあがりようが!!
「いっやぁ! まさかミハルも転生してきてたとは思わなかったわ。しかしお前変わんねぇな。
普通なら容姿とか少し変わってても可笑しくないんだが」
「……残念やけど、ウチは生まれてから全く変わらんのやけどねぇ」
「そっかそっか。いやぁ、しかしホントに良かったわぁ。
転生したのが俺だけじゃねーってのはホントなのな。
……やっぱ神様の言う通りってことなのか。ウザいけど」
……あかん。この人何言うてるんやろ?さっぱりわからん。略してさぱらんやわ。
しかし、さっきから転生だの神様だのよー分からんこと言うてはるけどおにーさん大丈夫かいな。
まぁ、この状況から考えるにこのおにーさん。ウチのことを誰かと間違えてるんやろうな。やないと初対面のウチに対してこないな馴れ馴れしく接することなんてできんやろうしね。
やとするならば、ウチがやることは一つやな。
「んー、でも奴が言った厄介事ってのは何だ?状況から考えると、ミハルが転生者だろ?
んで、厄介事ってのは……この紙の事か?って、何だこれ?……全くもって分からんぞ?この記号とかなんなんだ?……なんかの暗号か?
なぁ、ミハル。お前これは一体何なん―――」
「せえぇいやああぁっ!!」
ウチは、その掛け声とともに思いっきりおにーさんの頭めがけて、振り上げた黒い槌を振り下げたのだった……。
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「痛ってぇ……」
「自業自得や。ウチはおにーさんとは初対面やし、危険人物な場合の対処としては当然やよ」
「だとしても!槌で殴ることはねーだろ!?頭割れそうになったじゃねーか!!」
「んー……まぁ、本気やなかったから許して―な。おにーさん」
「知るか!この野郎!!」
ウチとおにーさんは、床に散らばった資料を拾い集めていた。
さっきの出来事ではあるが、ウチはおにーさんの後頭部を黒い槌で思いっきり強打した。
んで、おにーさんはあまりの痛さに数時間後頭部を抑えて、資料が散らばった床を転がって、一旦止まり、強打された頭を両手で抑えた。
その間に、とりあえずウチはウチのことをちょこっと自己紹介した。それを聞いていたのか聞いていないのかは分からないけど、おにーさんは頷いていたので大丈夫やね。うん。
そんで、今はおにーさんが荒らした資料をウチとおにーさんで片付けてるところやよー。
「んで、おにーさんの知ってはるミハルいう子はウチと似てるわけやね」
「そーそー。だから俺も間違ったんだよ。つーか似すぎだろほんとに」
「けど残念ながら、ウチはおにーさんの知っとるミハルちゃんやあらへんよ?
ウチはおにーさんと関わるんはこれが初見やし、何よりウチはおにーさんを拾っただけやからねー」
「拾ったって……まぁ、そのおかげで俺はこうしているわけだしなぁ。とりあえず、ありがとよ。
……しっかし、ほんと似てるな。喋り方とかも」
おにーさんはウチをジロジロ見ながらも感心していた。
そないジロジロ見られてもウチが困るんやけどなぁ……。
大体、ミハル言う子はウチに似てるとか言うてるけど、ウチとしては見ず知らずの相手に似てる言われてもそうなんやー的な感じにしか思わへんのよねぇ。何より、全くもってウチには関係なさそうやしな。
「あぁ、でも髪の色は赤色じゃなく黒色だけどな」
「……おにーさん、見分けついとるやん」
「いやいや、お前の髪の色って正確には黒っぽい赤色だから、一瞬だけじゃわかんねーよ」
「さよか。まぁ、そのミハル言う子が何者であれ、ウチは全くもって違うからな?
ウチの名前はミハル・グランディアやからね。
大体、おにーさんは一体何者なん?ウチの気まぐれで拾ってもうたけど、さっき転生やら神様やらよう分からんこと言ってたし……」
転生と神様というワードを発した時、おにーさんの体が少々ビクッとなり、若干の冷や汗がでていた。
おおぅ、どうやら聞いたらあかんことやったかな?いや、でもウチは興味あるもんは相手が嫌でも知りたい性分なんよねぇ。でないとうずうずしてもうてたまらんし。
「で、どうなん?おにーさん一体何者なん?」
「……お前、なんでそんなに楽しそうなんだよ」
「フヒヒヒヒ、な~んでやろ~ね~」
「笑い方、エグイぞお前……」
ウチの笑い方に対して少々引き気味なおにーさん。
エグイとはなんやエグイとは!!
ウチはこれでも歴とした女性やねんやからエグイとか言わんといてーな。
まぁ、昔からウチの笑い方可笑しいとか言われたりしてるけど、そない他人が気にするようなことでもないと思うんよねー。だって実際他人に迷惑かけてるわけではないんやし。
「はぁ、まぁ今更隠しても面倒だしな。この際だからもうぶっちゃけるけど……
俺はおにーさんっつー名前じゃなくてシグルドだ。
さっき俺が誤って発言したように、俺は―――“転生者”だ」
おにーさんもとい、シグルドは少々面倒そうな素振りを見せながらも、自分の素性を明かしたのだった。