恐怖の大魔女がやって来ました?
家からこっそり抜け出しては出かけること一週間。
とうとうバレました。
そのうちバレるとは思ってたけど、案外早かったね。
まったくずーっとバレないのもみんなどんだけ俺に感心がないの?ってちょっと寂しいけどさ。
できればもうちょっと楽しみたかった。
角を生やしたカタリナママの言い付けでしばらく編み物をしている隣で大人しく本を読んで過ごすことになった俺です。
どうせだからこれまで読んでいなかった魔法書以外の中から愛読書を見つけようと思います。
と、いうわけで俺が選んだのはこの三冊。
世界の歴史
ナサル・ヤボーのバビロン探索記
世界の発展と異人の関係について
どれも前から気にはなっていたタイトルだったのだが、なかなか手が回らなかった。
魔法書ってのはただ読むだけの本じゃないからね。
まず最初に手をつけるのはナサル・ヤボーのバビロン探索記。
バビロンってのはこの世界に存在する6つの大陸それぞれに一つずつ建っている神様が造ったとされるとんでもなく高い搭で、なんと中身は迷宮、つまりダンジョンである!
ゲームやラノベのなかで散々疑似探検してきたダンジョンである。
未知と冒険と宝とハーレムのダンジョンである!?(しつこい)
実のところ俺が魔法を毎日練習しているのもダンジョンに挑む時の為。せっかく異世界に転生して、しかもその世界にはダンジョンがあるという。
なのにダンジョンに挑まないなんてそんなことが許されていいものか?あり得ない。
そう。
俺的には絶対にあり得ないったらあり得ないのだ!
危険?
それがなんだ。
どうせ前世で一度は死んだのである。
せっかく生まれ変わったのだから今度こそ俺は俺の好きなことを思いっきりする。
思えば前世では流されるままだったり、色んなことを諦めて生きていた気がするのだ。
勉強だって運動だって女の子のことだって、いつもどうせ頑張っても元が違うし。なんてやる前から諦めて、自分がしんどくない選択ばかりしていた。
死んだことを自覚した時、正直ああすれば良かったこうしておけば良かったあれもあれもあれもしておきたかった、と散々後悔したから。今度は後悔しないように生きるのだ。
俺は真剣な面持ちで本を捲る。
そんな娘の様子を複雑そうな顔で見守るカタリナママ。
母親的にはもっと女の子らしい本を読んで欲しいらしい。
勧められた恋愛ものとかのキラキラしい本は全部お断りしちゃいました。ごめんなさい。
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年上の女の子がやってきた。
家族会議により召喚されたお客さん。
事前情報によれば俺の従姉でパンプキン家本家のお嬢様。
うちは分家らしい。
ええと。
「ミランダ・パンプキンですわ、半年ほどこちらでお世話になります。よろしくお願いいたしますわね?」
ああ、そう。
ミランダ。
「いらっしゃいミランダ。待ってたのよ。この子が私の娘の・・・
ティオナご挨拶して」
「ティオナ・パンプキンです」
よろしく、と頭を下げる。
あからさまに値踏みする目がちょっとうざい。
「よろしくティオナ。叔母様、荷物はどちらに運んだらよろしいかしら」
「ああ、ごめんなさい。二階に部屋を用意してあるのよ。サーナ」
「はい、奥様」と後ろに控えていたサーナさんがミランダの足下の置かれていた巨大な鞄を抱えて運んで行く。
「馬車に残っている荷物も部屋に運んで置くから、貴女はお茶でも飲んでゆっくりしてちょうだい」
「ありがとうございます」
礼を言いつつ「運んでもらって当たり前」って顔で、リビングに案内するカタリナママについて歩き出す。
黒い編みブーツの尖った爪先が俺の前を通り過ぎる。
見た目は美人、というか12才だから可愛いというべきか。
格好は・・・魔女?
黒いレースの丈が踝まである五分丈のワンピースに黒レースの手袋。黒い革の編みブーツに黒いとんがり帽子。
真っ赤なくるくるロールの長い髪と赤茶の瞳と相まって、ものすごく独特の存在感。
この世界でもコスプレが流行ってるのか?
しかしすごい。
何がすごいって歩いてるだけなのにものすごい高飛車オーラ。
ツンツンだねっ!
いったいミランダを呼んで俺に何させる気だ。
カタリナママ。
黒魔術は勘弁して欲しい。
頑張ろう俺、とりあえずはミランダのデレを探すのだ。
デレがあればツンデレになる。
ツンデレ美少女。
最高じゃないか!
と、自分に言い聞かせる俺であった。