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前略
涼しげな白いワンピースに大きめな水色の帽子。
彼女は屈んで言った。
「綺麗な匂いが鼻につく。海って素敵ね」
素敵な笑顔が、空からの光によく似合った。
「何か、風景が浮かんだり…するかい?」
遠慮気味に僕が聞くと、彼女は帽子が落ちないように手で押さえ、空を見上げ語った。
「不思議だわ。私と貴方の声しかないのに、私の想う風景はとても賑わってるの…そう、海水浴を楽しむ人たちで。黒人も白人も、老若男女問わず。沢山の人で溢れかえっているわ、とても楽しそう……あくまで私の頭の中の風景だけど」
彼女は言い終えると顔を下げ、再び海の匂いに心を傾けているようだった。
そして僕は疑った。彼女は以前、ビーチに行ったことがある。少なくとも目が見えていた頃に。
それから少しの間、僕らは何をするでもなく、ただ黙ってそこに居た。