気が軽く→色ボケ野郎のせいで台無し的な
部屋に案内されてからは用意された夕食もそこそこに、主用の部屋に隣接した使用人用の部屋で泥に沈むように眠ってしまった。
直前の問題が一番重くのしかかっているのはあるけれど、朝からお嬢様が家族と相対するのを心配しながら見守り、その後は竜の背中で精神をガリガリと削られ、王都到着直前では空中大遊泳を体験する羽目になったのだ。
王霊としての肉体は丈夫でも、精神的に限界が来ていてもなんらおかしくはない。
そして目が覚めた次の日。
いつもは目覚めが良い方だけれど、今日は頭に粘液でもまとわりついているかのように思考が鈍い。そして緩やかに再生される昨日の出来事がさらに気分を陰鬱にしていく。
そんな風にまともに働かない思考でも、習慣化した動きはもはや半自動の域で身体が実行してくれ、いつものように部屋の扉を開けて廊下に出る。
いや、正確には廊下に出ようとした。
扉の外に広がっていたのは見慣れた屋敷の廊下などではなく、何故かまた部屋。
しかし僕の目を奪っていたのは部屋そのものではなく、その中で強烈な存在感を放っている――肌色。
僕とほぼ同じ時間に起きる人物は身の回りで一人だけ。よく見れば視界の端に映る天蓋付きの高級そうなベッドでは僕達の主と妹のように可愛がっている少女が仲良く寝息を立てている。
そこで、とてつもない密度だった昨日の中で、とても小さい割合を占めていた部屋に入ってからの事を断片的に思い出す。
城の客間には主用の部屋に隣接するように使用人用の部屋が存在する→しかし使用人用の部屋は一部屋→僕とユリアさんが同じ部屋で寝起き? →お嬢様がそれは駄目だと主張→イル共々ユリアさんがお嬢様の部屋で寝起きすることに、つまりは男女で分かれることに→僕と大体同じ時間に起きるユリアさんが仕事(城でどんな仕事があるのかよく知らないんだけど)をするために着替える→僕突入。
ユリアさんは寝巻きを脱いだところだったようで、引き締まりつつも出る所は出た女性らしい曲線を惜しげもなく僕に晒している。そして……黒。
いや~、普段表情に乏しいユリアさんがポカンとしてるところなんて初めて見たよ。彼女でもこんな顔するんだね~あっはっは。
瞬間的にガラスのようにクリアになった思考だったけれど、元が元である僕の頭では処理不能で、現実逃避という極めて情けない対処しか出来なかった。
「はぁ~……」
恥ずかしがって体を抱えるよりも、腰をしっかりと落として呼吸法まで使って今までで一番の攻撃を飛ばそうとしてくるところがユリアさんらしいと思った。
◆
「ん……おはようってどうしたのユーリ!?」
騒がしさで目を覚ましたお嬢様は、傍らでボロ雑巾のように転がっている僕を見て驚きの声を上げた。
「お騒がせして申し訳ありませんお嬢様。婦女子の部屋に不法侵入した不埒者を成敗しておりました」
自分の下着姿を見られた事は言わずに僕を不埒者扱いするユリアさん。あれは今まで食らった中で一番の威力だった。吹き飛ばされた時の衝撃音でそとに控えていた精霊師の人が何事かと声をかけてきたくらいだし。
「……あにさま、平気?」
「ありがとうねイル。でも今回は僕が悪いと思うから仕方がないよ。裸を見られたんだし何をされてもぐへっ!」
いつも以上に苛烈な攻撃の痛みのせいで未だに身体機能を麻痺させたままのところに追加のストンピング、しかも正確に鳩尾を直撃。これ普通の人間だったら絶対に内蔵潰れてるって。
「ふ、ふふ……」
「……?」
「お嬢様?」
「あはははははは! どこにいても同じなんだねっ、三人とも」
そう言って笑うお嬢様の笑い顔も、屋敷にいた時と――余計な事を気にしていなかった頃と全く変わらなくて。
頭に重くのしかかっていた重しがとっぱらわれたような爽快感を感じた。
問題は山積みだとしても、根本的かつ即効的な解決方法は無いんだ。殺し合いに自分から取り組むなんて僕にはありえない選択肢なんだし、気に病んでも解決しないんだ。だったら今みたいに皆でいつもみたいに笑ってる方がずっと楽しい。
「それでユーリさん、いつまでこの部屋にいるつもりでしょうか。お嬢様とイルの着替えがまだ済んでいないのですが」
「すいません、ユリアさんの折檻のせいでまだちょっと……」
すると、動けない僕の首根っこを掴んでユリアさんは入口側の扉を開ける。
「着替えが終わりましたら呼びますので」
「へぶっ」
そのまま有無を言わさずに閉じられる扉。
「「…………」」
外にいた護衛の二人には危険が無い事は言ってあるけれど、珍妙な物を見るような目があまりにいたたまれなかったので痛む腹部を堪えてなんとか会釈のみを返した。戸惑いながらも応えてくれた彼らには間違いなくおかしな奴(等)認定されたことだろう。
なんとも言えない気持ちになりながら、待っている間暇なので城の内装を観察してみる。
壁面や天井、床に使われている石材は大理石のような輝きを放っており、所々に施された装飾や柱の独特なカーブ等が威厳を放っているような気がする。ただ……要所要所に配置されている意味不明の彫刻やゴテゴテした宝石などがやや余計に感じる。
そんなことをつらつらと考えていると通路の向こうから知っている人物が姿を見せた。
その人は通路に転がる僕を遠目で認識すると怪訝な表情を作り、近づいて転がっているのが僕だと軽く口の端を釣り上げた。
その姿を確認した途端、護衛の二人は胸に手を当て(敬礼だろうか)、僕に「何をしているんだ」というような咎めるような視線が向かってくる。
確かに王族を相手に寝転がったまま応対するのは失礼だろう。いや、誰が相手でも失礼だ。
何とか動けるようにはなったものの、未だに残る鈍痛のせいでノロノロとした動きしかできない僕にその人――ルクルーシェ様はからかうように声をかけてきた。
「朝からとことん愉快だな、お前達」
「返す言葉もございません」
何が起こったかなんて知るはずもないだろうけれど、ルクルーシェ様の顔には寸劇でも見た後のような愉快な表情が浮かんでいる。
「ふふ、お前達を見ていると細かいことを気にして気分を沈めているのが馬鹿らしくなってくるな」
図らずも先程僕が思った事と同じようなことを口にしたところで扉が開く。扉を開いたユリアさんは僕と一緒にルクルーシェ様がいるのを見ると慌てて臣下の礼を取る。
「昨日は大したもてなしも出来ないまま別れてしまったからな。連れてきた身でありながら配慮が足りなかった。お前達は客分と同じように扱われるように話を通してあるが、城の案内くらいは我がしようと思ってな」
「暇なんでどほぁっ」
「あ・な・た・は、余計な事を口にしないように!」
一瞬だけ顔を歪めた護衛の二人の表情が瞬時に哀れみに変わってしまうほどにクリティカルな音を発したユリアさんのリバーブロー。屋敷で僕が結構な頻度でこれをくらっている事を知ったらどんな顔をするんだろうか。
ルクルーシェ様を招き入れたユリアさんが片手で僕を引きずって部屋へ消えていく護衛の畏敬の目を尻目に、僕も部屋の中へ舞い戻る。
着替え終わったお嬢様は城内だからか、いつも屋敷で着ているものよりいくらか上等なドレスを身にまとっている。イルは……全然変わってなかった。
「調子はどうだ?」
「はい、すっごくよく眠れましたよ」
「そうか? 目がやや赤く見えるのは気のせいか?」
「あわわ……」
言われてみれば確かにお嬢様の目がやや赤い。
寝不足の原因は……言わずもがなだ。僕は精神的な疲れですぐに眠ったけれど、お嬢様は色々と考えてしまって逆に眠れなかったらしい。
「だがまあ顔色はそこまで悪くない。我が来る前に何か気分が上向くような事でもあったか?」
確信を含んだその問いかけにお嬢様は照れたように頭をかく。
「それで、ユリアには伝えたが、城の中を我が案内しようと思うのだがどうだろうか」
しばらくはいいんでしょうかなど色々と渋っていたお嬢様だったが、最終的にはルクルーシェ様の「政務のついで」や「招いておきながら客を放置するなど王族としての名折れ」などのフレーズによって結局はその申し出を受けることに。何だかんだで王都に連れてこられたはいいけれど何をどうすればいいのか分からなかったのでこの申し出は渡りに船だったりする。
ルクルーシェ様の案内の元で城の中を歩いていると、通りかかる誰もが脇にそれて会釈をしてくる。昨日も味わったし、主にルクルーシェ様とお嬢様に向けられていると分かっていても落ち着かなくなる。ちなみに車椅子が珍しいのかお嬢様の方へ向く視線の割合が心持ち多めだ。
幾つか城内の施設を案内されたところで不意にお嬢様が言葉を発した。
「姫殿下、どこか具合でも悪いのですか?」
突然の心配するような声にルクルーシェ様は意外そうにするも、すぐに「我もまだまだか」と肩を竦める仕草をして苦笑する。
「お前達にとっては意外なことでもあるまいが、単に山のような心配事による疲れが表情に出てしまったのであろう。それよりも我としてはお前達が何事も無かったかのように振舞っていることの方が意外なのだが?」
疑問を返されて僕達はそれぞれが微妙に視線を明後日の方向に逸らす。ユリアさんの裸を僕が見てしまって折檻を受け、それがお嬢様の笑いを誘って細かいことを気にするなんて馬鹿らしくなった、などとは言えない。特に前半部分(言ったらその場で追加の折檻が待ち受けているだろうから)。
それにしてもルクルーシェ様の言葉が少し引っかかる。
「山のようなですか?」
昨日聞かされた問題は心労で眠るように眠ってしまうほどに重大な事だったけれど、案件としては単独のものなはずだ。山のようなという表現だと合わないんじゃないだろうか。対応策やそれにかかる仕事の事を指しているのなら別だけど。
「ああ。世界の事情に関わる大事の他にも、愚王と愚兄の愚行や暗躍する密偵に獅子身中の虫、緊急度では後の方が大きいかもしれんな」
「密偵というと……」
「帝国の者だ。近頃動きが活発になっている」
ユリアさんに答えるルクルーシェ様から新しい単語が出てきた。
「帝国ってどんな国なんですか?」
「良質な霊場が通う場所が少ないから荒れた土地も多いし、精霊も少ない上にその強さもあまり特出したものはいないの。その代わりに機巧っていう精霊に頼らない物が人々の生活を支えている……でよかったっけ?」
「細くするならば、様々な国へ戦争を仕掛け、多くの属国を抱えている。精霊の恩恵が少ないが故に対精霊の技術が世界で随一という国でもあります」
うわ、相当危険な国だ。その国の密偵(スパイでいいのかな)が活発(バレてるけどそれでいいのか密偵)になっているということは近い内に帝国が何かするかもしれないってことだよね? そして獅子身中の虫って裏切り者とかそういう意味だった筈。そこに世界の異変まで加わったら……そりゃあ具合も悪くなるわ。むしろお嬢様しか気づけない程に隠せるこの人の器量に凄いものを感じる。
「ち……」
不意にルクルーシェ様の舌打ちが聞こえてきた。
同時に僕の目に……カエルが歩いてくるのが見えてきた。
いや、正確には偉い人にヘコヘコしているガマガエルのように潰れた人間だろうか。着ている服はかなり上等なものだけど致命的に似合っていない。完全に服に着られている感じだ。
そしてそのカエルがへりくだっている相手はさらに豪奢な服を着ていて、こちらはカエルとは違って結構顔は整っている。しかし目が汚い。有害物質タップリのヘドロのように汚い。顔が悪くなくてもその一点が酷すぎて目を合わせるのも嫌になりそうだ。
まあそんな願いは叶わず、大人数で歩いているこちらに向こうが気づかないわけもなかった。
二人は質の違ういやらしい笑みを浮かべて歩み寄ってくる。
「やあ、遠いところまでわざわざご苦労だったね、ルクルーシェ。精霊師の仕事を君に任せてしまうとは心苦しい限りだよ」
言葉はキザったらしくも相手を気遣っているよう。しかしその中には立場が下の存在に対する多分な嘲りが含まれていた。
王族にこんな言葉遣いが出来る人間など限られている。それに信じにくいけれど、こいつ顔だけはルクルーシェ様と少し似ている。もしかしなくてもルクルーシェ様の兄だろう。
彼女から兄の話題が出る時は決まって憎々しげだったけれど、こんな奴が相手だったら仕方無いと思える程にこいつのルクルーシェ様を見る目は酷い。
しかしルクルーシェ様も負けじと目に力を入れて言い返す。
「ええ、兄上。何故かいつまで経っても調査団が結成される様子が無かったので我が自ら動くしか無かった次第です」
何故か、の部分を強調して痛烈な皮肉を放つも、どこ吹く風。というか皮肉を言われていることにも気づいていない模様。
「はっはっは。精霊師団は僕達王族に仕えるのが主な任務なんだよ? それに王である父上や王位継承権一位の僕は諸外国や国内貴族の対応で忙しい。精霊師団をそんな僕達の護衛に割り当てるのは当たり前のことじゃないか。それで地域が不安定になるのは仕方の無いことさ。僕達に何かあったらそれこそ元も子も無いんだからね」
諸外国や貴族の対応というくだりでのルクルーシェ様の「自分達に従う者達を集めた豪遊パーティだろう」という呟きも聞こえていないようで、ペラペラと自分勝手な論理を展開する濁り目。時折カエルが「その通りです」「さすが殿下です」などと合いの手を打つのがまたこちらの神経を逆なでする。
一通りの俺様理論と皮肉の応酬が終わると濁り目「で、君の後ろにいるご令嬢は?」とようやくこちらに意識を向けてきた。
「我の客人だ」
「ふーん、どこの?」
「兄上に知らせる必要はないかと」
「あれ、未来の王にそんな事を言ってもいいのかな?」
「……ジュレリア家の者です」
ジュレリアという家名が思い当たらなかったのか、濁り目はしばらく唸っていると(自分の国の貴族の名前を知らないなんて本当に王位継承権第一位か)、今まで積極的に発言しなかったカエルが気持ち悪い笑みでお嬢様を見やる。
「そういえば噂で聞いたことがありますな。ジュレリア家には欠陥を抱えた娘がいると。まさかそんな輩が城内にいるとは露程も思いませんでしたが」
「へぇ、ジュレリアの欠陥品ねぇ」
舐めまわすようなその視線にお嬢様は小さく体を震わせた。しかしそれでも必死に笑顔を作って挨拶する。
「ご、ご紹介にあずかりました、ジュレリアが長女、リイル・フォン・ジュレリアと申します。以後お見知りおきを、殿下」
お嬢様と近しい僕らなら一瞬で気づく不自然な自己紹介に濁り目は気のない返事をして、更にお嬢様を眺め回す。その目には舌なめずりが似合うような獲物を見つけたような――色が宿っていた。さすがに耐えられなかったのかお嬢様は僅かに「ひっ……」と、僕たちでも初めて聞く類の悲鳴を漏らした。しかもその視線は一瞬だけイルとユリアさんにも向けられた。イルはお嬢様のように我慢することは出来ず、涙目で僕のズボンの裾を握る。ユリアさんはすまし顔だけど、どうも思っていないわけがない。
おいこら、何うちの女性陣に卑猥な目向けてんだ。そしてイルにも向けるってどういうことだこのロリコン。その目えぐって植物の養分にするぞ。いや、逆に土壌が汚れそうだ。野獣の餌にでもした方がいいかもしれない。
酷い輩なら何人か見てきたけれど、嫌悪感という意味ではこいつがダントツだ。
お嬢様がこんな視線を向けられるのが我慢ならず、間に割ってはいろうとすると、その前にユリアさんに遮られる。
なんなんですか、何で邪魔するんですか。
自分でも若干きついと思う視線で抗議すると、ユリアさんは無言で下がれと指示してくる。押しのけようにもユリアさんは僕の事を分かっているようで、ピクリともその体が動くことはない。渋々元いた位置に戻る。
すると、ユリアさんが濁り目達に見えない位置で腕をこれでもかという位に強く握っているのを目撃した。血管が浮き出ていることから、トンデモない力が加えられている筈。そうまでして我慢しているのは……下手な事をしてお嬢様の立場が悪くなったら不味いからか。
見上げたメイド魂。メイドの鏡だ。僕も見習おう。
後ろで腕を握る。生半可な力だと勝手に動いてしまいそうなのでしこたま強く。こいつらに湧いてくる憎悪を全部腕に込めるつもりで。
お嬢様を見るのに夢中だった濁り目は僕らの一連のやり取りには気づかなかったようで、視線をルクルーシェ様に戻す。
「さて、僕はそろそろ行くよ。こう見えても忙しいのでね」
だったら絡むなよこの濁り目色欲野郎。
最後にお嬢様に流し目を送りながら濁り目はカエルを伴って通路を歩いて行った。
濁り目とカエルの姿が曲がり角の向こうへ消え去った途端、お嬢様が一気に脱力する。相当気を張っていたみたいだ。
そして未だに気が収まらない僕は、サンドバッグにあいつの顔写真を貼り付け……ることはできないので、想像で浮かばせた濁り目の顔をこれでもかというくらいにメッタ打ちする。傍から見たらシャドーボクシングをしているように見えるだろうか。おかしな目で見られるかもしれないけれど、こうでもしないとムシャクシャが収まらない。城の壁とかに当たる訳にもいかないしね(冗談抜きで砕いてしまうだろうし)。
「すまなかった、まさかあいつと鉢合わせしてしまうとは思わなかった。堪えただろう?」
「い、いえ……」
「どうする、部屋に戻るか?」
「……部屋に戻ってもすることはありませんから。このまま続けてもらってもよろしいでしょうか?」
「気丈だな……。よかろう、ではあいつの事は忘れて案内を続けるとしようか」
想像の濁り目の顔が変形してみれなくなってきたところでようやくひとまずの落ち着きを取り戻した。怒りが消えたわけじゃないけど、ひとまずあいつの事は頭から追い出そう。あいつの事を考えて気分を悪くするのも馬鹿らしい。
「すいません、落ち着きまし……た……?」
「…………あれ?」
振り返ると傍にいたのはイルだけ。ルクルーシェ様もお嬢様もユリアさんもいない。
皆酷いなあ、一声くらいかけてくれればいいのに。ユリアさんやお嬢様が僕の事を忘れるとは思えないんだけど、もしかしたら二人は二人でイッパイイッパイだったのかもしれない。思い出してみればお嬢様の声に力がこもってなかったし、ユリアさんは深呼吸して一言も喋らなかったし。
それなら仕方ないか。まあ置いていかれたなら追いつけばいいだけだし。
「さて、追いかけますか。イル、お嬢様達どっちに行ったか教えてくれる?」
「…………あっち」
「よし、それじゃあ――」
「――か、こっち」
……逆方向ですやん。
首を傾げるイル。ああ……要は分からないんだね。
……あれ? もしかして僕達迷子?




