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Bright Swords ブライトソード  作者: 榎戸曜子
Ⅶ.銀のつむじ風
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8.旧友⑮

「ガドやスドリの言う通りだと思う。だけど、ナイアスの気持ちはよくわかる。ガド、私はナイアスと一緒にその蔵書館に行くけど?」

 アイサの声は明るく屈託がなかった。

「アイサ様。また、そのようなことを」

 ガドは恐ろしいしかめ面をしたが、アイサはにっこりと微笑んで続けた。

「というわけで……ガド、悪いけどシンの所に行って、この辺の事情を伝えといてくれないかしら?」

「冗談ではない。そんなことができるものか。そうであれば、私も行きます。第一、こんな時ばかりその優しげな態度は何です?」

 文句を言うガドを見て、ナイアスが笑い出した。

「困ったわね」

 そう言いながら、アイサはスドリの仲間の中で食い入るようにナイアスを見つめている一人の若者に目を止めた。

「あなたもスドリの仲間なのね?」

「はい」

「ずいぶん若いが、名前は? 何故、この者たちに加わったのだ?」

 ナイアスも声をかけた。

「名はフォルセと申します。国境の出城で……父を失いました。こうしてナイアス様にお目にかかれて光栄です」

 しっかりと答えたその声に暗いものを感じたナイアスは、その顔を見つめてはっとした。

「もしや、お前の父は……アドラスか?」

「はい」

 ナイアスに苦悶の色が浮かんだ。

「出城には……行ってみたか?」

「はい。見張りの目を盗んで……ですが、それで精一杯でした。亡骸を葬ることもできませんでした……あの城に火をつけて下さったのはナイアス様だとお聞きしました。父もほっとしていることでしょう」

 フォルセは目を伏せた。

「私の至らなさで大切な者を無惨な死に追いやってしまった。すまない」

 ナイアスが絞り出した声はかすれていた。

「ナイアス様」

 ガドが声をかける。

「フォルセ、あなたはナイアスを恨んでいるの?」

 アイサがまっすぐフォルセを見た。

 一瞬、フォルセの体が震え、そして彼は首を振った。

「……いいえ。父はナイアス様を尊敬しておりました」

 アイサは頷いた。

「フォルセ、お願いがあります。これから、こちらに向かっているサッハの軍に行き、シンに今の状況を伝えて欲しいの。私たちは蔵書館で待っているわ」

「あの、シンというのは……まさか……?」

 フォルセはアイサ、ナイアス、そしてガドを見た。

「クイヴル王だ」

 ナイアスが答え、ガドが困ったように頷いた。

「シンなどと、気安く呼び過ぎですぞ」

「あの、ですが……いくらなんでも、私のような者がお会いできる方ではありません。お会いしようにも、すぐに取り合ってもらえるかどうか」

 明らかにうろたえるフォルセに、アイサは請け合った。

「ハビロが一緒なら大丈夫。ハビロ、フォルセをお願いね」

 アイサの脇にいたハビロが立ち上がり、ぺろりとアイサの手を舐めた。

「このオオカミは?」

 後ずさりたい気持ちを抑えてフォルセが聞いた。

「シンと私の古い仲間なの。ハビロがあなたを守り、シンのところまで連れて行ってくれるわ」

 フォルセを見てハビロは一度尻尾を揺らした。

「フォルセ、頼まれてはくれまいか?」

 ナイアスが言った。

 フォルセの顔に決意が浮かんだ。

「わかりました。何としても王のもとへ行って、ナイアス様のことをお伝えいたします」

「頼んだわ」

 頷くアイサとナイアスの横で、スドリたちが穴のあくほどアイサを見つめていた。

「都で歌われている歌など、戯言(ざれごと)だと思っていた……だが、確かに、緑の瞳に、銀の髪だ。もしかして……アイサ、あなたがパシパの炎を封じたのか?」

 半信半疑でスドリは言った。

「まあ、お前が呆れるのも無理はない」

 ガドは薄汚い恰好をしてオオカミの頭を撫でているアイサに目をやって溜息をついた。

 ナイアスがまた笑い出す。

 アイサが二人を睨んだ。

「さあ、私たちも急ぎましょう。ナイアス、馬には乗れる?」

「ええ、おかげさまで痛みも引きました。体にも力が戻ってきたようだ。情けないところばかりをお見せいたしましたが、これから挽回いたしますよ」

 ナイアスの声が明るい。

「ここには馬が一頭しかいません。他にも馬がいるといいのですが」

 申し訳なさそうにスドリが言う。

「ちょうどよく、こっちにたくさん馬が向かって来ているのよ。あれを借りるわ。さあ、ハビロ、お前はフォルセと一緒にお行き」

 アイサの一声でハビロはフォルセを促し、一人と一匹は隠れ家を後にした。

「では、外の様子を見てきます」

 そう言って出て行った仲間がすぐに戻って来た。

「大変だ、本当にこっちに向かってる。シオセ城の兵だ。数は、そうだな……」

「十数騎。城に知られては面倒だわ。全員ここで倒す」

 アイサは言った。

「いくらなんでも無理です」

 スドリがつばを飲む。

「任せて。私が背後から退路を断つ」

「お一人で大丈夫ですか?」

「私もセジュの剣を持っているのよ。心配ないわ、ナイアス」

「ナイアス様、ラドゥスたちから、アイサ様の剣の腕では聞いております。それに奴らが狙うのは我らですからな」

「フォルセを無事に行かせなくてはならない。こちらに奴らの注意を引きつけましょう。ですから、アイサ、くれぐれもお気をつけて」

 ナイアスが立ち上がる。

「先に行くわ」

 アイサが裏口から出て行った。

「腕が鳴りますな」

 ガドの瞳が輝いた。


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