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Bright Swords ブライトソード  作者: 榎戸曜子
Ⅶ.銀のつむじ風
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6.ティノスの僧院⑧

 この頃、グレンデル派の信徒を迎え入れ、反ティノス派の拠点であることが明らかになったスピクナードの僧院は、ぐるりとパシパの警備兵に囲まれ、大きなハンマーで門が破壊されようとしていた。石や、矢が放たれ、高い塀を登り、侵入しようとする兵もいる。

 その攻撃を一手に引き受けているのはキアラの率いるススルニュア部隊だ。彼らはティノスの僧院の前で警備兵の関心を引き付け、頃合いを見計らって引きながら追い立てられるグレンデル派の信徒を救い、スピクナードの僧院に入って門を閉ざした。戦闘能力の高い部隊だったが、キアラは力を温存し、守りを固め、時間を稼ぐことに終始した。イムダル王子が攻め込んでくるなら、何が起こるかわからない。ティノスの兵を相手に無駄に兵力を失うわけにはいかなかった。

 この間、ペルブルスは有志を率い、住民をパシパから荒れ地に誘導し、避難させた。

「ペルブルス、ティノスの軍が来たぞ。スピクナードの僧院を囲んでいた警備兵も動き出した」

 荒れ地からスピクナードの僧院に戻る途中、駆けつけた仲間がペルブルスに知らせた。

「いよいよ来たか。よし、行くぞ」

 ペルブルスは自分に従う仲間に頷くと、がらんとした路地をスピクナードの僧院に急いだ。

(僧院の守りは堅い。だが、相手が大挙して押しかければ……時間の問題だ)

 スピクナードの僧院のそばまでやって来ると、仲間の一人がセキオウから預かっていた狼煙(のろし)を上げた。それにこたえるかのように僧院からも狼煙が上がる。スピクナードたちは物陰に身をひそめ、ティノスの兵に囲まれた僧院の壁の一部をじっと伺う。正面の門に向かって何度も振り下ろされるハンマーの音に、ひときわ大きなパシパの警備兵たちの怒声が混じった。内側から次々と石のつぶてが襲ったのだ。近くにいた兵が正面に向かう。それを見計らって塀の内側から何本もの縄梯子が降りてきた。

「あっ、仲間が合流するぞ」

「させるな」

 瞬く間に壁に取りついたペルブルスは身を(ひるがえ)して壁を越える。壁を取り巻くパシパの警備兵には壁の上から再び石のつぶてが注いだ。

「ペルブルス」

「ご無事でしたか」

 声をかける仲間に黙って頷くと、ペルブルスは仲間が美時に登り切ったのを確認すると、やって来たキアラに言った。

「ティノスの軍が来たようだ」

「そうか」

 頷くキアラのところへ、鷹の知らせを持って、フリントが駆けて来た。

「キアラ様、イムダル王子が来ます」

「王子が直々に、か?」

「はい」

「わかった。フリント、後を頼む。ペルブルス殿は、ロリン殿、グード殿、スピクナード殿をお呼びしてくれ。塔の見晴らしにいる。」

 キアラは僧院の塔に向かった。


 彼らの集まった僧院の塔はパシパの街が一望できる。彼らの目に、街に入ったティノス軍と、それに迫ろうというイムダル軍が映っていた。

「イムダル王子は本当にやって来たのですね……ティノスの軍がこちらに兵を()く余裕がなくなるのは結構だが」

 ペルブルスが言った。

「イムダル軍は壁を壊してティノスの僧院を目指すだろう。途中、僧院に籠った僧や、住民を殺しながら、な。いよいよティノス派だ、グレンデル派だと言っている場合ではないぞ? だが、こちらもまだ、アイサ様の御様子がわからない。さて、どうするか」

 キアラは集まった面々(めんめん)を見回した。

「大主教の援軍を率いているのはだれでしょう?」

 グードが言った。

「恐らく、リーフ殿では?」

 答えたスピクナードの声は震えていた。

「彼もパシ教徒です。何とか説得できないか、やってみましょう」

 グードは言った。

「グード殿、私も行きます」

 ロリンが言った。

「お供します」

 ペルブルスが頷く。

(ティノスの軍を率いる男に、果たしてグード殿の言葉が伝わるかどうか怪しいものだが……それしかないか……アイサ様はご無事だろうか……カムシン、何をぐずぐずしている)

 (わず)かに俯き、唇をかんだキアラは、すぐに顔を上げた。

「わかった。こちらは任せていただこう」

(今は、ただ敵をしのぎ、待つしかないのだ)

 キアラは不安と焦りを押し殺した。

「スピクナード殿、私が戻らないときはパシパをお願いします」

 グードがスピクナードに声をかける。

「グード殿……」

 スピクナードは口を開け、ロリンを見た、

 ロリンも黙って頷く。

 グード、ロリン、ペルブルスが部屋を出た。

「では、スピクナード殿、私もこれで」

 キアラも彼らに続き、部屋には一人呆然と彼らを見送るスピクナードが残った。


 グード、ロリン、ペルブルスが会おうとしている男リーフは目の前の状況に戸惑っていた。リュト王子を助けるべくルテールに向かったものの、パシパの危機と知らされ、行き先をパシパに変更し急いでやって来たものの、パシパに来てみれば、パシパを危機に陥れたというグレンデル派の信徒たちが暴動を起こしている様子はない。むしろ、あちこちで目にするのは一方的に剣を振るっているパシパの警備兵だ。

「どうなっているのだ? 我々はパシパを危うくするグレンデル派の暴動を抑えるためにここに来たのではなかったか?」

 リーフはティノスからの(めい)を受けてやって来たという僧に聞いた。

「その通りでございます」

「だが、これはまるで……我らの力など必要ないではないか。彼らはグレンデルの遺志だと言って戦いを止めることを叫んでいるだけだぞ」

「奴らは狡猾なのでございましょう。自分たちが不利になったと知って、あのようにおとなしいふりをしているのだ。リーフ殿、油断はできませぬぞ?」

 僧は薄笑いを浮かべた。

「とにかく、ティノス様にお会いし、ご指示を仰ごう」

 こう言ってティノスの僧院近くまで軍を率いたリーフのもとへ、伝令が駆け付けた。

「イムダル王子の軍が……あろうことか、このパシパへ。もう、そこまで来ています」

 報告する伝令兵の声が心許(こころもと)ない。

「リーフ様、ものすごいスピードで騎馬軍がやってきます」

 別の兵が駆け付けた。

「騎馬? イムダル王子の、荒れ地の騎馬の民か?」

 リーフは表情を硬くした。

「まさか、そんなことが」

 僧が目を見開いた。

 地響きとともに(とどろ)く軍馬と兵の声に、軍には早くも動揺が広がっている。

「どういうことだ? 王子はルテールを攻めていたのではなかったか? 軍とは……いったい、どこから来たのだ?」

「リーフ様」

 伝令の兵がリーフを見つめ、リーフの周りの者たちは皆は言葉を失っていた。

「しっかりしろ、とにかく、ティノス様をお守りせねば」

 リーフは動揺(どうよう)する部下に怒鳴った。


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