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Bright Swords ブライトソード  作者: 榎戸曜子
Ⅶ.銀のつむじ風
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6.ティノスの僧院④

 三頭のタウは目の前の人間を取り囲み、ゆっくりとその周りを歩きながら観察している。吹き矢で刺激しなくても、ティノスの言う通り少しでも身動きすれば、すかさず襲ってくるだろう。

 彼らの様子を(うかが)っていた一頭が、ついにザインに手を出した。咄嗟(とっさ)にザインはこれを(かわ)したが、躱すだけで精一杯だった。

 剣を振るって斬りかかろうにも、あたりは暗く、何より相手の動きが速すぎる。

 タウは今度は身をかがめ、飛びかかる様子を見せた。

 アイサは三匹のタウを見つめている。

 タウの注意がアイサに向き、カムシン、ラドゥス、ザイン、バリ、ベレロポーン、そしてセキオウ、それぞれが武器に手をかけた。

(次は命のやりとりになる)

 誰もがそう思った時だった。

「アイサ様」

 ラドゥスが叫んだ。アイサが無造作にタウの方に進み出て目を閉じたのだ。

「そこを動かないで。あの猛獣使いたちに吹き矢を撃たせないで」

 有無を言わせぬ調子で言うと、アイサはタウの大きな体にも頓着(とんちゃく)せず、子どものように手を広げた。

「気がふれたか」

 ティノスがあざ笑う。

「そんな……」

「何をしようってんだ?」

 金縛(かなしば)りにあったように動くこともできない仲間の前で、アイサの表情は何かを聞こうとしているかのように見えた。息を飲んで見守っていると、ふと、じっとりとした密林の中に一陣の風が吹いたような気がした。

 タウは動きを止めている。

 アイサが口を開いた。

 聞き()れない言葉だった。

『ここは、お前たちのいるところではない。ここは、あの濃い空気に満ちた土地ではない。お前たちが殺すのは、お前たちを利用する者に追い立てられるからではない。そう、命は(めぐ)る。私の命がお前に奪われ、その(かて)となるときがあるかも知れないが、それは今、このような形でではない……さあ、今流れた、この香りは何だ?』

 アイサは、タウたちの思念に問うた。

『ああ、それは、ロウジュの木が花をつけたのだ。その花は更に強い香りを放つ実をつけ、そこに多くの虫たちが集まる。それを狙って小さな獣が集まり、月夜の晩など、賑やかなものだ。そんなときは、俺たちもご機嫌で狩りに出るのさ。木々の間から森ジカが水を飲みに来る。それが俺たちのごちそうだ』

 タウの目が光る。

 月を映しているかのようだ。

 アイサは微笑(ほほえ)んだ。

『そう、それがお前たちの世界だ。さあ、タウよ、私たちを行かせておくれ。私はこの不自然を断ち切らなくてはならないのだから』

『ああ、お行き、密林の風を運ぶ子よ、月を呼んだ人間よ。お前がここにある不自然を断ち切ると言うのなら、いつか俺たちをあの森に帰しておくれ』

『この命があれば……必ず、と約束しよう』

 アイサはゆっくりと頷いた。

 カムシンたちは目の前の状況が信じられなかった。

 三頭のタウは身を横たえ、アイサの周りを囲んでいた。

 それから目を閉じ、アイサの声に耳を澄ましている。

「ちっ、何をしている? 吹き矢だ、吹き矢を使え」

 ティノスが叫んだ。

 猛獣使いは一斉に吹き矢を吹こうとしたが、バリが針を、セキオウが短剣を放ち、猛獣使いが次々倒れた。そしてその針と短剣はティノスをも狙う。が、ティノスを守ろうと飛び出した護衛の者たちが倒れ、ティノスには届かなかった。

「やはり悪魔だ」

 (わめ)くティノスを、残った護衛たちが鉄の格子から遠ざけ、足音が暗闇に吸い込まれていく。

(何故、あのように馬を自在に(あやつ)れるのかとお聞きした。すると、思念で相手を(つか)み、引き寄せるのだと仰った。そうすれば、その後はこちらの意を解して、一体となって動けるのだと)

 息を()めてアイサとタウを見守っていたザインがそっと緊張を()いた。

 ラドゥスが動き、アイサの肩をそっと()する。

「アイサ様、タウが戻っていきました。早く、ティノスを」

 アイサの目に光が戻った。

「ああ、そうだった」

「大丈夫ですか?」

「すこぶる気分がいい。タウの見せてくれた世界は、自由で力強かった。さあ、行こう」

 鉄格子(てつごうし)に近づくと、アイサはシンの剣を一閃した。

 あっけなく格子が切れる。

「すげえ」

 カムシンが唸った。


 ティノスの姿は暗闇に消えていた。

 しかし、その思念は、はっきりとアイサに感じられる。

 それを頼りに追いかけるアイサに、前方で扉の開く音が聞こえた。

 そこから明かりが漏れる。

「あそこか」

 閉じかかる扉に向かってカムシンが足を速め、中に滑り込んだ。


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