6.ティノスの僧院③
「見えた」
アイサの目が風変わりな格好をした者たちを捉えた。
その後ろにティノスがいる。
「ティノス」
アイサが剣を抜く。
「悪魔の娘よ、お前も、その者たちも、ここで無残に引き裂かれて死ぬがいい」
ティノスはにやりと笑った。
アイサの表情が変わり、その足が止まる。
「どうした?」
アイサを守るようにして前に出たカムシンがアイサを振り返った。
「何か、いる」
アイサがあたりを見回した。
ゴゴゴゴッ……
しんとした暗闇に大きな音が響き、通路の側面にあった石の扉が開いた。
三カ所だ。
そこから、黒い大きな塊が音もなく現れた。
獣の匂いがする。
アイサとティノスの間に二頭、これがアイサたち侵入者の様子を窺っている。
生暖かい息を感じ、カムシン、アイサ、セキオウ、ラドゥス、ザイン、バリ、そしてベレロポーンは反射的に後ろに下がった。
しかし、後方にもまた、大きな気配を感じる。
「囲まれた」
カムシンが舌打ちをする。
「何だ? まさか、タウ……?」
回廊を照らす、わずかな明かりの中に浮かび上がる影を見て、ザインが信じられないといった声を出した。
「大きな動物……これがタウか」
アイサはその気配に向き合った。
アイサはススルニュアにいたとき、タウという生き物について幾度となく話に聞いていた。
ススルニュアから更に南に下ると、密林に被われた島がある。そこにはタウという動物が住んでいて、人は近づけないのだという。
動きは俊敏で、全身がバネのよう、四肢の力が強く、その牙は長いと言われている。
「タウだと? まさか、こんなところで出会うことになるとは」
カムシンは身を震わせた。
しかし、それも一瞬だった。
「ラドゥス、俺たちが時間を稼いでいる間にお前は姫さんを連れて逃げろ」
カムシンが言うと同時に、セキオウが照明弾を投げた。
タウの動きが止まる。
それとともに、今度こそ大きな獣の姿が照らし出された。
「今のうちだ、早く」
セキオウも叫んだ。
だが……
「そうはいかないな」
一同とティノスとの間には太い鉄の柵があった。照明弾の光がその黒々とした柵を照ら出す。振り返れば、引き下がろうにもここまでやって来た通路の先にも鉄の柵が下りていた。
ティノスの側にいる者たちは面をかぶり、胸当てをし、鞭をもっている。どうやらこのタウを扱う猛獣使いのようだった。
彼らは油断無くタウとアイサたちを見つめている。
「お前たちが少しでも動けば、タウは即座に反応するだろう」
ティノスは笑った。
「賭けてもいいが、ここでこんな目にあったのは俺たちだけじゃないぜ? 奴ら、慣れていやがる」
バリが吐き捨てた。
「さて、どうなるかな」
ティノスの一言で、猛獣使いたちは一斉に口に吹き矢をくわえた。
「あれでタウを興奮させる気だ」
ザインが言った。
「これ以上かい?」
カムシンはぎらぎらした目を向けてくるタウを睨んだ。
「アイサ様、さっきの爆弾を使えませんか?」
ベレロポーンが聞いた。
「いや、この通路が埋まれば、こっちも生き埋めだ」
アイサの代わりにセキオウが苦々しく答える。




