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Bright Swords ブライトソード  作者: 榎戸曜子
Ⅶ.銀のつむじ風
477/533

5.聖なる都⑥

 カシャン

「おや?」

 静かに開いた扉をいぶかって、一人の兵が部屋の中を窺いた。

「どうかなさいましたか?」

 兵は声をかけたが、そこには誰もいない。

 不思議に思った兵は、もう一人の兵と顔を見合わせ、それから部屋の中を見回した。

「何か?」

 ティノスの寝室に続く間に控えていた僧が椅子から立ち上がった。

「いいえ。おかしいな……」

 扉を守っていた二人の兵は狐につままれたような顔をした。

「おかしいとは?」

「今、この扉が開いたものですから、何か御用でもおありだったかと思いまして」

「何もありませんよ。私はここを動いていませんし」

 僧は椅子に掛けると、読み()しの経典を取り上げた。

「失礼いたしました」

 怪訝な顔をしながら、二人の兵が扉を閉める。

 一方、堂々と扉を通り抜けたアイサは、その時ティノスの枕元に立っていた。

 今アイサの目の前にあるのは、セジュにいたときからアイサを苦しめてきた顔だ。アイサの脳裏(のうり)にグレンデルと、そして、バジーの谷で見た光景が浮かんだ。

(ティノス)

 アイサの手がセジュの剣ナハシュにかかる。

 しかし、アイサはティノスを見つめたまま動かなかった。ティノスは、やつれて見えた。(しか)めた眉に、深い眉間のしわ。眠りの中でも安らいでいない事がわかる。

『何をしている? 早く始末してしまえ』

 ナハシュが言った。

『ここに来るまでに、多くの者を傷つけてきたお前だ。今更ためらう必要など、どこにもない。こいつは諸悪の根源だぞ? こいつのせいで、多くの者が苦しんできたのではないか? お前は、それに決着をつけるためにここにいるんだろう?』

『そうなのだが……やめた』

『何だと?』

『眠っている奴を殺すなんて、できない』

 アイサは息を吐いた。

『お前は……いったい、何を考えているんだ? いや、絶対何も考えていないな? いまいましい。こんなことなら、うっかりシンの奴の言うことを聞いて、のこのこお前になんかついてきてやるのではなかった』

 ナハシュの苛立ちが伝わった。

『帰る』

 アイサが(きびす)を返す。

『おい、待て、なあ、これぐらいはいいだろう?』

 ふと、ナハシュが面白そうに笑い、ナハシュに触れるアイサは、逆にナハシュが自分に触れ、その力を引き出そうとするのがわかった。

『お前の思念は強いからな。挨拶しておこうじゃないか?』

 ナハシュがそう言うと、たちまちティノスの顔が恐怖に(ゆが)んだ。

「うっ、ああっ、やめろ、やめてくれ」

「ティノス様?」

 ティノスの上げた悲鳴に、隣の部屋にいた僧がベッドに駆け寄る。

「ティノス様。誰か、医師を呼べ」

 動転する僧の声が響いた。


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