3.合流⑦
夜になってもパシパの大通りは人々が行きかう。
遠くからやって来た信徒たちは少しでもパシパの町に触れたいと思うものだ。それに応えて、パシパの案内所も夜遅くまで開いている。彼らはそこで宿を紹介してもらったり、パシパの見所を教えてもらったり、パシパのいたるところで行われるパシ教の講習会の案内を受けたりできるのだ。
年間を通して人々はパシパを訪れる。が、特に娯楽色の強い火祭りのあるこの時期には、パシパを訪れる者は多い。
それに伴って町は一層華やかになる。
とはいえ、今年はいつもとはだいぶ町の雰囲気が異なっていた。パシパの警備に当たる兵が、あちこちに立ち、通りを行く人々に鋭い目を向けている。
「節制を重んじるパシ教の本山が、夜でもこんなふうに賑わっているとは、意外だったな」
雑踏の中、着崩してはいるものの、その立ち姿が美しいキアラは、やはり貴族の子弟のように見えた。
一方、その傍らにいるカムシンは、どう見てもその悪友だ。本人もそれを承知していて、どうやらそれを楽しんでいるようだった。
「パシ教の総本山といっても、ここは商売も盛んだ。取引のために来ている者も多い。おおっぴらにとは行かないが、酒を出す店もあるし、探せば上品だが賭場もあるぞ?」
「それで……アイサ様は、今までどこを見て回られたのだ?」
「ごく普通の信者がするように、店を回って買い物をしたり、食事をしたりだが?」
「それだけのはずがない。どこかでティノスの僧院を探っているのではないか?」
「まあ、俺も最初はそう思ったよ」
「最初は?」
「ああ。でも、俺はパシパに来てからずっと、腕利きの部下にティノスの僧院の周辺を見張らせているんだが、今まで一度もそこであの人の姿を見た者がいないんだ。俺が言えるのは、あの人はこの町を知ろうとしているということだけだ。何より、それを楽しんでいる。それだけは確かだ。あの姿だけを見れば、ただの女の子だな」
通りを歩いていたキアラは足を止め、呆れたようにカムシンを見た。
「はあ? お前の目は節穴か? それとも、お前をよこしたナッドの目が、今度ばかりは曇っていたのか? アイサ様は、この都の王ともいえるティノスから、ススルニュアの信徒やここの住人を守らなくてはならないんだぞ? それも時間がない。なのに、そうそう遊んでいられるか。第一、アイサ様には姿を消すベールがあるんだぞ?」
「えっ、姿を消すベールだと? そんなものがあるのか? そんな大切なことを俺に内緒にしておくとは、どういうことだ? あの人も、ナッド様も、まったく……」
傷ついたような顔をして見せたカムシンを容赦なく睨みながら、キアラは続けた。
「お前の目にどう見えようとアイサ様には何かお考えがあるはずだ。アイサ様は、お前や、ラドゥスたちに何か指示を出していらっしゃるのか? ススルニュアの信徒を束ねるロリンにはどうなんだ?」
「今のところ、信徒のことはロリン殿に任せている。反ティノス派の僧とのやりとりの場にもあの人は姿を見せないな。俺たちにも何も言わない。どんなに挑発されても、パシパで揉め事を起こすなという一点だけだ」
「そんなはずはないだろう?」
キアラが声を荒げた。




