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Bright Swords ブライトソード  作者: 榎戸曜子
Ⅶ.銀のつむじ風
441/533

1.バジーの谷⑧

 宗教都市パシパには大陸各地から信徒の団体が訪れる。(ふく)れ上がる巡礼者を収容しきれない場合に備えて、パシパの周辺には大きな施設がいくつかあった。

 その一つがあるカロ村。

 カロは、かつてグレンデルがこの村に滞在したこともあって、グレンデルの教えに密かに共感している僧侶や信徒が多かった。

 そのカロ村に、今や二千人ほどの大所帯となったロリン一行が滞在している。

 そのカロ村を目指して、誰何(すいか)するティノスの配下を蹴散らして、アイサたちは進む。

「怪しい奴らがパシパに向かっているぞ。取り押さえろ」

「かなり腕が立つ。兵を回せ」

 襲いかかる追っ手を一行は振り切る。

(だが、パシパに近づけば手練れが増えるに違いない)

 一行のとりまとめ役、ラドゥスの神経は張り詰めていた。

「また来たぞ」

 バリが叫んだ。

 これが何度目の襲撃なのか、ラドゥスは数えるのが馬鹿馬鹿しくなった。

「油断するな」

 そう答えたものの、ラドゥスにはその声が仲間に届いているのかどうか疑問だった。既にそれぞれが呼吸を合わせたように動いている。

 その先頭に立つのはアイサだ。

 アイサが持つのはシンの剣。

 ラドゥスは、その剣がその持ち主シンの手で振るわれるのを見たことがある。

(王は、ご幼少の頃よりラダティス様が招いた師や、ストー様に剣の指導を受けられたという。その後はクルドゥリの、あのスオウ様に鍛えられたと聞く。王の剣術は、正統で隙がないものだった)

 シンが持つときは重々しく、恐怖さえ抱かせるような剣を、しかし、アイサは軽々と振るう。

(同じ剣なのに持ち手によって全く違って見えるのは不思議だな。それにアイサ様の太刀筋(たちすじ)は読みづらい。そして速い)

 ラドゥスは思った。

 アイサという持ち主を得て、その剣は、また違った輝きを放っているように見える。

 軽やかなリズムはアイサ本人のように自在(じざい)に調子を変える。

「ラドゥス」

 アイサの一声が飛ぶ。

「あ、はい」

 瞬時にラドゥスの思考は消えた。馬を駆り、剣を振るった時間がどれほどのものだったのか……見回せば、彼らはいつものように待ち受けていた兵を突破していた。

「逃すな。追え」

 叫ぶ追っ手の声が遠い。

 馬を飛ばすうちに、とっぷりと日は暮れ、足元が不安になっている。

「休みましょうか」

 アイサが言った。

 誰もが心待ちにした一言だ。

 一行は街道を()れ、見晴らしのいい丘に入った。

 セキオウは遠くの明かりを眺めていた。

「あれは?」

「ええ、あれがカロの村です」

 ベレロポーン、バリ、ザインの口からほっと息が漏れる。

(ついにここまで来たか。だが、まだ安心はできない)

 ラドゥスは、その明かりまでがとても遠いと感じた。

(どうせこのあたりにも追っ手がいるだろう。暗闇に(まぎ)れたからといっても、十分休めるかどうか。それにしても、この方に疲れは見えない。待ち伏せる兵を気にする風もない。それが救いでもあり、頼もしくもあるが。しかし、思えば、まだカロ村なのだ。総本山のパシパの警戒はこれまでの比ではあるまい。ティノスを止めると仰るが、この方はいったいどうするおつもりなのだろう?)

 アイサに取り立てて計画がある様子はなかった。クルドゥリのセキオウも言葉を濁している。

(まず、ススルニュアのロリンという人物にお会いするおつもりなのだろうが……)

 ラドゥスは心もとなかった。なんとか気を取り直して丘の上から街道を見下ろすと、めっきり人通りが少なくなっている。

 村人が小さなランプで足元を照らしながら歩く。

 そのわずかな明かりが、かろうじて通行人がいることを知らせる。

「追っ手は、ないようです」

 街道を見つめていたバリが言った。

「この暗闇ではな」

 ベレロポーンが明るい声を出す。

「暗闇に慣れた者もいる」

 ザインが言った。


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