1.リュトの牙⑧
中に入ってきたのはシンの部下で、ルテールの情報を集めていたトウリという男だった。
「どうした?」
シンは小柄で鋭い目をしたトウリを促す。
トウリはテーブルにつく面々に目をやり、シンに膝をつくと報告した。
「ブルフ様が……リュト王子の手の者によってお命を奪われ、その亡骸がルテールにて裏切り者としてさらされております」
「何ですって?」
アイサは報告する男を見つめた。
「ブルフが……」
シンはそう言って口を閉ざす。
「裏切り者って……どういうことなの?」
「ブルフはエモンについていたからな」
「イムダル、ブルフがシンを選んだのは、兵の命と民の将来を考えてのことなのよ。ブルフには自分より弱い者のために生きるという信念があった……だけど……ということは、キアラや、ナッドも危ないということ?」
アイサはトウリとシンを見た。
「シェドか?」
シンはアイサが見たこともないようなきつい顔をしてトウリに聞いた。
「詳しいことはこちらに。ナッド様よりお預かりした書状です」
トウリはシンに文を渡した。
シンはトウリから受け取った文に目を通し、ゆっくりと顔を上げた。
「リュト王子はシェドの他にも情報収集能力の優れた部隊を動かしている。今回動いたのはアルゴスという男らしい。かなり優秀だそうだ。ナッドもキアラも行動を制限されている。トウリ、ナッドとキアラにくれぐれも慎重にと伝えてくれ。それとブルフのことだが、何とか亡骸を取り戻し、丁重に葬りたいが……」
「それは、私がやろう。下らん中傷をし、人の死を見せ物にするなど愚かだ。リュラ、ルテールの居住区に使いを出せ」
イムダルが言い、この時ビャクグンが扉を見た。
「どうぞ、入って」
促すビャクグンに答えるようにして扉が開いた。
「シオン」
アイサが声をかける。
ドアのところに一人の男が現れた。
シオンはアイサに向かって微笑むと、ビャクグンに言った。
「谷の入り口にいるルテール軍に動きがありました。ビャクグン様のお考え通りだと思われます」
「規模は?」
「一千ほどです」
「わかったわ。スオウ、やっぱり本命はこっちにいるようよ。行先はトシュの族長が住むロアね」
シオンが頷き、ビャクグンが席を立つ。シンとアイサがそれに続いた。




