表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Bright Swords ブライトソード  作者: 榎戸曜子
Ⅴ.二人の捕虜
341/533

5.サッハを預かる者⑥

 自室に戻ったナイアスに、グラディウスが茶の用意をする。

「ナイアス様、本当にお体の具合が悪そうですね? 医師をお呼びいたしましょうか?」

「いや、いい。お前なら、私の憂いの原因もわかりそうなものだが」

 ナイアスはソファーに座り、グラディウスはナイアスの前にある小さな螺鈿(らでん)細工のテーブルの上に繊細な磁器に注いだ香りの高い茶をそっと置いた。

板挟(いたばさ)みになっていらっしゃるのですね? 王と、リオン様のような貴族の方々との間で」

「それだけであれば、私は必ず王を取る。だが、王の見ていらっしゃる未来が、私には見えないのだ。根っからのクイヴル王家の者としての、この身が(わざわ)いしてだ」

 王族としてどうするべきかということが自然に身についているナイアスには、思えば、今まで迷うということが無かった。

 そして、そんなナイアスをグラディウスは幼い頃からずっと見てきた。

「私を支えてきたのは王家、そして、それを取り巻く貴族たちだ。それをなくしてどんな未来を開いていったらいいのだ……王の御出陣が明日だというのに、私は……」

「ナイアス様は国の(かなめ)となるべくお生まれになり、お育ちになった。そして今、ナイアス様は王に次ぐ力をお持ちです。それなのに……あのエモンと苦しい戦いをなさっていた頃よりも遥かに苦しんでいらっしゃるように見えます」

「ああ、サッハを預かるということは、シン様のなさってきたことを引き継ぎ、今度は私が今まで同胞(どうほう)だと思っていた貴族たちを追いつめなくてはならないということだ。そんなことが私にできるだろうか? 彼らを失って、私に何ができるというのだ?」

 ナイアスが(おもて)を上げた。

 そのやつれた表情を見て、グラディウスはついにその胸の奥にしまっていたことを口にした。

「ナイアス様、ナイアス様は王になってもおかしくないお方です。それほど苦しまれるのならば、いっそのこと、シン王と(たもと)を分かち、自ら王位をお望みになったらいかがです? 並み居る将軍たちとともに王がオスキュラに立つ今、ナイアス様が王に取って代わるのは今しかありません。私はナイアス様を王と(あお)ぐ日を夢見て参りました。もし、ナイアス様が王位をお望にみなるなら、そのためにはどんな犠牲も(いと)いません」

「シン様と、王位を争う……か……何だ?」

「お客様でございます」

 館の者が来客を知らせた。

「お断りしろ。ナイアス様はお体の具合が悪い」

 グラディウスは言った。

「ですが、お客様はアイサ様ですが」

「アイサ様だと?」

 グラディウスは怪訝な顔をした。

「すぐに行く」

 ナイアスは再び客室へ向かった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ