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Bright Swords ブライトソード  作者: 榎戸曜子
Ⅴ.二人の捕虜
336/533

5.サッハを預かる者①

 傷の治療を受けているビャクグンの部屋には、イムダル、スオウ、ルリ、シャギル、ナイアス、そしてナツメがいた。

「シン殿、私はすぐにでも霧の谷へ立ちたい。ついては、ビャクグン殿もお連れしたいのだが」

 イムダルは二人が部屋に入るなり言った。

 霧の谷ではいつ暴動が起こってもおかしくない状態だ。

 イムダルが動く時が来ていた。

 そのことには誰も異存はない。

 だが問題は、傷がまだ癒えていないビャクグンをイムダルが連れて行きたいと言った点だ。

「ビャクは行く気なの?」

 クッションをあてがい、身を起こしているビャクグンにアイサは聞いた。

「もちろんよ。荒れ地の民も、もうこれ以上待てないでしょ? 今がその時期なの」

「下手に皆が暴動を起こして、今、兄上に叩かれれば、谷はひとたまりもないだろう。その前に城に戻りたい。そして、兄上と戦うにはビャクグン殿のお力はどうしても必要なのだ」

 イムダルも言った。

「ナツメ殿、ビャクの傷の具合は?」

 シンが聞いた。

「まだ旅は無理です。傷が完璧にふさがるのを待って、ビャクグン様はその後に行かれるのが良いと思います」

「それは無理ね」

 ビャクグンは即答した。

「刃を横にして肋骨を避け、心臓を一突きにするはずの剣を、巧みに身をひねって角度を変え、それでも致命傷を与えたと相手に思わせるあたりさすがだが……」

 スオウはビャクを見て言った。 

「イムダル殿が私より太っていて助かったわ。肉付きをよくするために体につけた(にせ)の脂肪がクッションになったから」

「ビャク、あれだけの傷を負って今動くのは無理だ。いくらナツメ殿の腕が良くても、アイサの薬があってもな。俺はクルドゥリのため、次期長老であるお前を守る義務がある」

 スオウははっきりと言った。

「その次期長老が言っている。頼む」

「ビャク」

 スオウは目を見張った。

 それはシャギルもルリも同じだ。

 今までビャクグンの口から頼むなどという言葉は誰も聞いたことがなかったのだ。

「スオウ……」

 シャギルがスオウを見た。

「ビャクグン殿、申し訳ない」

 イムダルが言う。

「別にイムダル殿のためじゃないわ。いろいろなことが同時に動いている。今は先手を打つ時なの。私が中途半端なことが嫌いなのは知っているでしょ」

 ビャクグンはそう言ってシンを見た。

 皆の視線がシンに集まる。

「ビャク、僕にはその傷をどうしようもないが、ルテールとの戦いにビャクが必要だということはわかる。可能な限り手を尽くす。僕らと一緒に行って欲しい」

「ええ、そのつもりよ。では、早速それぞれ出発の準備に入ってもらわないと。シン、城のことはナイアス殿にお任せするんだったわね?」

 ビャクグンはちらりとナイアスに目をやった。

「ああ、もうお願いしてある」

 シンは答えた。

 厳しい顔のナツメがビャクグンを寝かせた。

「アイサ、引き上げよう」

 部屋を出ようとしてシンが促したが、アイサはビャクグンから目を離さない。

「アイサ?」

 シンは怪訝な顔をした。

「仕方がない。傷はこれで貼り付ける」

 アイサはポシェットからチューブを取り出した。

「えっ? 貼り付けるってどういうこと?」

 シンはぴたりと動きを止めて、アイサの持つチューブをまじまじと見た。

「文字通りの意味よ。強力な接着剤だもの」

「体用の?」

 シャギルが恐る恐る聞く。

「そうよ、いい、ビャク?」

「何でもいいわ、アイサに任せる」

 ビャクグンは小さく笑った。

「じゃ、この部屋全体に薬を使いたいの。痛みを和らげるためよ」

 アイサはポシェットの中から今度は小さな紫色の瓶を取り出した。シンが封を開ける。覚えのある香りがした。

「これって、僕が君の国のカプセルの中で眠っていたときに使われていたもの?」

「そう、似たような物よ。でも、ここには薬の濃度を調節するカプセルがないから私が付き添うわ」

「でも、その薬は強い眠気を起こさせるはずだ。僕がナハシュでシールドを張ろうか?」

「いいえ、実際に効き目を確認しながら使わないと。それに、シンは出発前にすることがあるでしょ? 私がついているわ」

「だけど、アイサにだってこの部屋にいれば、その薬で意識がなくなってしまうだろう?」

「海の中でも息が続く錠剤があるの。それを口に含んでいると、外から酸素を入れなくても、つまり息をしなくても、しばらくは大丈夫。それより早く部屋を出て」

「いや、僕は興味がある」

 シンは言った。

「私も後学のために」

 ナツメが言うと、クルドゥリの面々も頷く。

 ナイアスも好奇心が抑えられない様子だ。

「ちょっと我慢して。すぐに楽になるから」

 そう言ってアイサはポシェットの中から錠剤を取り出し、口に入れた。それから紫色の小瓶の蓋を少し開く。

 ほんのりと甘い香りが広がった。

 アイサは素早くビャクグンの傷口に消毒薬と細胞を活性化させる薬を落とし、チューブから出る透明なジェルでビャクグンの傷を丁寧に覆った。

「傷口はそのままでいいんですか?」

 手早くビャクグンの服を直すアイサにナツメが聞いた。

「そうよ。ほら、表面はもう乾いている。すぐに完璧にくっついて固定されます。それより、みんな早くこの部屋を出て。体が動くうちに」

 口早にアイサは言った。

 我に返った面々がのろのろと扉に向かう。

 口をきく者は誰もいない。

 口をきこうとしても、きけないのだ。

「また……様子を見に来るから」

 かろうじて言ったシンがぱたんと扉を閉めた。


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