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Bright Swords ブライトソード  作者: 榎戸曜子
Ⅴ.二人の捕虜
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4.ビャクグンの罠⑥

 ナツメに付き添われたビャクグンが、護衛の手によってサッハの城の最上階、シンとアイサが暮らす部屋の並びに運ばれた。そこにシン、アイサ、スオウ、ルリ、シャギル、ストー、それに急を聞いて駆け付けたナイアスと医者の格好をしたイムダルが集まる。

 シンは意識もないまま、ベッドに横たえられたビャクグンを見て言った。

「ビャクの事はナツメがバラホアのあらゆる手段を使って回復のために務めてくれる。それで、これからのことだが……僕はビャクの容体が落ち着き次第、ビャク、イムダル殿、スオウ、シャギル、ルリとともに、霧の谷へ向かう。後のことはナイアス殿にお任せします。ストー先生も残ってナイアス殿を補佐して下さい。ナイアス殿、ガドをこちらへ呼んでもらいたい」

「わかりました」

 ナイアスが答え、ストーが頷く。

「シン」

 アイサはシンを(にら)んだ。

 一同が黙り込む。

 シンは喉元(のどもと)()(さき)を突きつけられたような気がした。

「アイサ、言いたいことはだいたいわかるよ。どうして君に今度のことを話さなかったかってことだろう?」

「そうよ。納得がいかないわ。もし、ビャクにもしものことがあったら取り返しがつかないわ。それに今だって……解毒はうまくいったけど、大けがなのよ?」

「これはビャクからの願いだったのよ。アイサに知らせるなって」

 ルリが言った。

「どうして?」

「だって、あなた、絶対反対するでしょう?」

「当然だわ」

「でも、あれが考えられる最善の策だった。ビャクは次期長老だ。そのビャクが危険を(おか)してイムダルに賭けたんだ」

 シャギルが真剣な顔で言った。

「できることなら、兄上が完全に権力を掌握する前に挑みたいのだ」

 イムダルも言った。

「失敗したらビャクを失っていたかも知れないのよ?」

「ビャクは大丈夫だと言った」

「スオウ……」

「それに……アイサ、あらかじめこの計画を知っていて、もしビャクに何かあったら、きっと君は自分を責めるだろう?」

 シンはアイサを見つめた。

「やっぱり……アイサが騒いでいるわね」

 ビャクグンが薄く目を開き、かすれた声で言った。

「ビャク」

 アイサはビャクグンのベッドに駆け寄った。

「どうやら、うまくいったようね?」

 全員の顔を見ると、ビャクグンは満足そうに言った。

「さあ、いよいよこれからね」

「ビャク、もう二度とこんなことはしないでちょうだい。自分の命を策略に使うようなまねは」

「アイサ」

 ビャクグンは弱々しくアイサを見た。

「ビャク、私だってもう知っているわ。地上では人がどんなにたやすく命を落とすかってことは。自分が進むために相手の命を奪い、仲間を危険にさらすのだということも。今更目をそらす気はない。でも、これはやりすぎよ」

「アイサ……さあ、どうしようかしら? ふふ、やっぱりだめね……こればかりはアイサの言うことは聞けない。私は必要があれば、何度でもこの命を利用する。もちろん無駄にする気はないし、勝算がなければ、しない。今までだってそうしてやってきたの。今更変えられないわ」

 ビャクグンはうっすらと微笑んだ。

「だけど、心配をかけて悪かったわ、アイサ。それとシンに八つ当たりするのはやめなさいね」

「ビャク」

「アイサをここに置いては行けないわ。そうでしょ、シン?」

 言いにくそうにしていたシンの代わりに、ビャクグンは言った。

「ああ。アイサ、一緒に来てくれるかい?」

「もう私を仲間外れにしないと約束するならね」

「わかったよ」

「さてと、もう眠らせてちょうだい。次の仕事が待っているから」

 ビャクグンが目を閉じた。

 ナツメが頷き、シンに合図する。

「僕らも引き上げよう」

 シンが全員に言った。

「アイサ、安心しろ、ビャクはすぐに元気になる」

 スオウは優しくアイサを見た。


 アイサは黙って隣の部屋に入ると、キャビネットの中から酒瓶を取り出し、グラスに注いだ。後から入って来たシンは呆れ顔だ。

「アイサ、それって現実逃避」

「だって、ここの現実は私の(やわ)な神経にはきつすぎるわ」

 シンは少し考えて言った。

「でも、君のセジュでも同じかも知れないよ? 君が目にしなかっただけで」

「シン?」

「どこの世界でも、おそらく人間の(さが)は似たようなものだってこと」

(それは、そうだ……)

 目の前のシンは大人そうにアイサを見ている。

 アイサはセジュにいる父のことを思い出した。

「そうね、父様はちょっと人間嫌いだったわ」

「エア様は愛情の深い方だと思うよ。君の母上のことにしたって」

「そうね。そうだ、シンは本当の御両親のことは何も覚えていないの?」

「うん、お顔を思い出そうと思っても、城にあった肖像画ばかりが目に浮かんでしまう。でも、幾つか歌は覚えているよ。きっと母上がお好きだったんだろう」

「城にある肖像画なら、私も見たわ。シンはお母様にそっくりね」

「そうかな?」

「歌の方は小さい頃聴いたと言うなら、子守唄かもしれないわね?」

「うん。ところで、僕も一杯もらおうかな」

「明日の仕事に差し障っても知らないわよ?」

 アイサはそう言うと、シンのグラスに酒を注いでやった。


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