2.ユチの流れ④
「大巫女様とのお勉強は、もう終わったのですか?」
「今日はどんなことをお話になられたのです?」
「今度エア様がこちらにいらしてアイサ様をご覧になったら、さぞ驚かれることでしょうね? アイサ様は、またアエル様におもざしが似てらしたから」
巫女たちのおしゃべりの中、アイサは神殿の奥へ駆けて行った。
「元気の良いこと」
「まあ、何を言っているの? アエル様が亡くなって、まだお寂しいのですよ」
「本当に……まだ、お小さいのですものね」
「アイサ様、そのように走ってはいけません」
「お怪我をなさいますよ」
追いかける巫女たちを軽く振り切って、アイサは神殿の光の満ちる回廊を上っていく。そしてドーム全体が見渡せる神殿の頂上へ着くと、アイサは更に上を見た。
しかし、閉じられた光の世界の先に広がる暗い海は見えない。
アイサは目の前に広がる世界を見渡した。
神殿の周囲には多くの木々が茂っている。
まるで、光とともにこの神殿を闇から守っているかのようだ。
その森の中を幾筋もの道が通り、所々に門が見える。
巫女たちの姿も見える。
眼下には見事な庭園、そして、その池は神殿の姿を映している。
『セジュの神殿とは、思った以上に美しいところだな』
『いや、それだけじゃないぞ?』
ナハシュは言った。
しばらく池に映る神殿の姿を眺めていたアイサは、くるりと引き返し、神殿の階段を下っていった。
アイサが心を解き放つ。
次々と目の前に現れる扉がいとも簡単に開かれてゆく。
それぞれの扉の向こうの世界では、ただ人の思いだけがアイサに触れてゆく。
その一つ一つを宥め、慈しみながら、アイサは先へ進む。
扉を通るたびに闇は濃くなり、闇と一体になり……やがて神殿の奥底に着いた。
「アイサ、私の代わりに、この闇の向こうに行っておくれ。私の残してきた人たちの心を癒しておくれ」
そこには、ありし日のアエルの思念があった。
シンは、ほっと息をついた。
『アエル様の願いは人々の幸せ、その思いをアイサが受け継いでいるのはわかる。だけど、アイサはファニの城で僕の命を救い、パシパでは、もう少しで死ぬところだった僕をセジュへ連れて行って、そこの人たちを向こうに回して、僕を守ろうとしたんだ。そして、一緒に地上に来てくれた』
『アイサにとっては、それはそんな大仰なことじゃないのかもしれないぞ?』
嬉しそうなナハシュの声にシンはぐっと気持ちを抑えた。
『そうかもしれない。アイサが僕を好きだって言ってくれたのも、頼りない僕を支えようとしてくれただけなのかもしれない』
『アイサに向き合いたいなら、まずはアイサに余計なことを考えさせないことだ』
『ナハシュ、試してみたい。力を貸してくれ』




