5.ルテール⑪
中庭から這い出したアイサは豪華な扉の前できょろきょろした。すると思った通り、数人の衛兵が飛んで来た。その中にアイサから果物のかごを受け取った衛兵もいる。
衛兵はアイサを睨みつけた。
「お前、さっきの……いったいどうやって中に入った?」
「あなたの後を追って夢中で……」
帽子の下からアイサが答える。
「今度は何の用なんだ?」
掴みかかろうとした衛兵を躱しながら、アイサはポケットから手紙を取り出す。
「果物に添えるカードをお渡ししそびれてしまって……あなたはすぐに扉をくぐってしまうし……それで慌ててあなたの後を追ったのですが見失ってしまって……どうしたものかとこの庭から中を覗いていたのです」
「普通ならそうやすやすと中に入れないはずなんだが。すばしっこい奴め」
「そういうことなら扉の外できちんと用件を言え」
集まってきた衛兵たちはそれぞれ文句を言って持ち場に戻って行った。最後に、籠を受け取った衛兵が立ち去ろうとし、もう一度アイサを振り返った。使いの少年に化けているアイサは項垂れている。
「おい、用が済んだらさっさと外に出ろ」
「はい、すみませんでした。アイサ様についてこちらにやってきましたが、何しろ王宮なんて初めてなものですから」
アイサは小声で言った。
「これだから田舎者は困る。お前は運が良かったぜ。これからは間違っても庭を覗こうとなどとするなよ。命の保証はできないからな?」
「えっ?」
飛び上がりそうに驚いた少年を面白そうに見ていた衛兵は、そのちらりと上げた顔を見て目を見張った。
「おい、お前……」
(何も知らない田舎者だと思っていたが、見た目だけは……)
「わかりました、気をつけます」
しげしげと自分を見る衛兵にさっとお辞儀をすると、アイサは貴族や王族に仕える者たちが仕事を抱えて行きかう回廊を走った。
イムダルの居住区に戻ったアイサは自室に入ると力が抜けたようにソファーに座りこんだ。
「そのような格好で……どこに行ってらしたんです?」
アイサの前にカゲツが立った。その咎めるような表情に不安の色が混じる。
侍女のルナが遅い朝食を運んで来た。アイサはカゲツの視線を避け、黙って食べ物を口に入れた。
(リュト王子の部屋から顔を出した男……一瞬、体が凍りつくようだった。完全に気配は消していたつもりだったのに、それを感じ取れる人間があそこにはいる。思った以上に神経を使ってしまったな)
「アイサ様、そう言えば、アイサ様のためにお届け物に使おうと思っていた果物の籠がなくなっていたのですが」
ルナがアイサとカゲツを見た。
「ええ、ちょっと使わせてもらったわ」
機械的に口にしたお茶をアイサはゆっくりと飲み込んだ。お茶の香りが緊張したアイサの感覚に働きかける。体が呼び戻されるようだ。
アイサは用意された料理を少しずつ味わいはじめた。
「お使いになった? いったい何にですか?」
カゲツは怪訝な顔をした。
「ええと、ご挨拶?」
アイサは曖昧に答える。そんなアイサの様子を訝しげに窺いながら、カゲツは続けた。
「お留守の間にアキ殿がお見えになりましたよ。今、お待ちいただいておりますが、どういたしますか?」
「あ、すぐに会います。お通しして」
食事途中ではあったが、アイサはアキに部屋に入ってもらった。




