1.イムダル③
ここは有名な温泉地のセンヨウが近く、宿場があるせいもあって通りには通行人が多かった。
先駆けの者が指示した通りに、通りを行く者は道を開け、道端に寄ってその荷を下ろす。
ペックも馬車を止め、ペック、ビャクグン、アイサの三人は並んで馬車の側に立った。
「さて、イムダル王子を拝ませてもらいましょうか?」
ビャクグンはアイサにだけ聞こえるように言った。
イムダルの一行がやって来ると、ビャクグンは素早く目を走らせた。
「五百人ってとこね」
さすがにオスキュラの王子の一行だけはある。馬に乗る者、歩行で続く者、荷を運ぶ者、みな飾り立てられている。
(どこへ向かうのかしら?)
アイサが一行を眺めながら考えていると、一行の中で明らかに雰囲気を異にした男に気がついた。
年は二十代の半ば頃だろうか。両側にひときわ立派な供を従えたその人物は、馬に乗るのが恐ろしく下手だった。その上、背を丸め、視線はきょろきょろと定まらない。
(いつ落馬しても不思議ではないし、どう見ても有能な人物には見えない、それでも……)
アイサが思った時だった。
男の視線がアイサと合った。
(しまった)
慌てて視線を落としたアイサは、自分が思わず剣に手をかけているのに気づいた。
(何かが違う。今、得体の知れないものに触れた)
「どうしたの?」
ビャクグンが聞いた。
「ビャク……」
アイサが答える前に、オスキュラの王子の傍らにいた供の一人がやって来た。
煌びやかな服を着た供の男は、落ち着いていて、その態度も堂々としている。
(黙っていれば誰もがこちらをイムダル王子だと思うだろう)
アイサは目の前に立った男を見て思った。
「ついて来い、王子が話を聞きたいそうだ」
供の男は言った。
「この娘が、何かお気に障ることでもいたしましたでしょうか? 一体、何のお話が……?」
動転したようにビャクグンが尋ねる。男は娘をかばうように立つ美しい旅の女に向かって穏やかに答えた。
「心配はない。王子はよく旅人の話を聞きたがる。すぐに解放されるから、付き合ってやってくれ」
(主に対して、こんな言い方をするものだろうか?)
ビャクグンとアイサは顔を見合わせた。
「この場は……仕方ないわね」
ビャクグンが小さくアイサに囁く。
供の男に従っていた兵が御者のベックに指示を出す。ペックは困ったようにビャクグンを振り返り、その馬車を王子の一行の最後尾につけた。




