4.ナハシュ①
仕事を終えたシャギルとルリの一行は、右往左往するエモン軍から離れ、スマンスの街道に出た。
街道では、見回りに出ていたエモンの兵たちが兵糧を焼かれたと知って、軍に戻ろうとしているところだった。
「兵糧を根こそぎ焼かれたって?」
「なんてこった」
「まあ、いざとなったら、この辺の村から奪えばいいさ」
「ああ、大したものは残っちゃいないが、俺たちの分くらいならなんとかなるな」
「スマンスの奴らも悪あがきしないで、とっとと負けを認めりゃあいいんだ」
夕闇に身を隠し、これを聞いていたシャギルは冷たく笑った。
「村人から奪わなくてはならなくなった時点で、お前たちの負けは決まっているんだよ」
「村の人には伝えておいたほうがいいわね」
ルリはそう言うと、兵糧を焼く作業に加わった志願兵たちを見た。
「兵糧を焼かれたエモン軍は退却する。付近の村に食料を隠して逃げるように伝えて。退却するルート付近は特に気を付けるようにと。それが終わったら、村人に紛れてスマンスを出てファニの城に戻るのよ」
「お二人は?」
「シャギル……」
ルリはシャギルを見た。
「そうだな、あっちにも言っておくか」
シャギルは頷いた。
「用事を済ませてからファニの城に戻るわ」
「わかりました」
志願兵たちは頷きあい、ルリとシャギルに一礼して仕事に向かった。
「ルリ様、シャギル様がお戻りになりました」
城の兵の知らせを受けてシンが急いで応接に入ると、そこには旅姿のままの二人がいた。
「用事は済んだわ」
「俺たちにかかればこんなもんさ」
ルリとシャギルは言った。
「すまない。二人とも、とにかく休んで欲しい」
シンが言うと、遮るようにシャギルが手を挙げた。
「気にするなって言ったはずだ。今はお前が大将なんだから」
「全く……慣れないものになっているので落ち着かないよ。シャギルもルリも、僕らを助けてくれた恩人だっていうのに」
シンは本気で溜息をついた。
「シンが勝たなければ、今度はクルドゥリが一国でオスキュラと対峙しなくてはならなくなる。私たちも、もう後には引けないのよ」
「わかってるよ、ルリ」
シンははっきりと答えた。
「戻ったのか」
ルリとシャギルがスマンスから戻ったと知ったキアラが、ラダティスの応接に顔を出した。
城に来ていたセグルも一緒だ。
「首尾は?」
キアラが聞く。
「予定通りよ」
ルリが答えた。
「エモン軍の兵糧は悉く焼いて片付けた。サッハまで碌な兵糧がないのでは、エモンも悔しいだろうよ」
シャギルは言った。
その調子にいつもの得意になった様子はない。
「途中にある町や村は苦労するな」
セグルが言った。
「早く終わらせたいものだ」
シンが呟く。
「こちらの兵糧は着々と届いています。各地から、さらに志願兵が集まってきていますが、十分やっていけます」
キアラが言った。
「志願兵といえば、連れて行った者たちはどうだった?」
シンが聞いた。
「うん、まあまあだ。もうそろそろ、こっちに着いてもいいころだ」
シャギルはテーブルの上にあった果物をかじった。
「お前、まさか、勝手に帰って来たのか?」
キアラが顔をしかめる。
「訓練だからって、手取り、足取りか? それはないな」
シャギルは答え、ルリも頷いた。
「そういうことね」




