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Bright Swords ブライトソード  作者: 榎戸曜子
Ⅲ.夜半の月
179/533

3.ファニの攻防⑭

 ナッドが到着してから、シャギルは兵の訓練に当たっていた。

「よし、いいだろう」

 この日、連日の訓練で格段に良くなった隊の動きにシャギルはようやく満足した。

 そんなシャギルに頷いて、ナッドはここのところ胸に引っかかっていたことを口にした。

「シャギル……シン様は以前と雰囲気が変わられたな」

「ああ、あれからいろいろあったからな。いつまでも自分の周りのことに目をつぶっているわけにもいかないさ」

 ナッドの言いたいことをすぐに察してシャギルは答えた。

「まあ、そう言ってしまえばそれまでだが。それに比べて、アイサ様は……」

「相変わらずなんだろう?」

「ああ、ススルニュアでお会いしたよ。ビャクグン様とあちこちで動いていらっしゃる。あの人の周りにはなぜだか光が溢れ、それが多くの人を惹きつける」

「アイサには表も裏もない」

 シャギルは言った。

「そこがシン様とは違うのだろうか?」

 ナッドが言うと、シャギルは首をかしげた。

「シンは……あいつはあいつで頑固だよ。だが、そうだな、あいつは目的を遂げるためには、方便など選んでいられないということもわかっている」

「お二人は一緒にいなくていいのか?」

 ナッドは言い、自分でも驚いたように付け加えた。

「いや、ただそんな気がしただけ、なのだが……」

「仕方がないのさ。俺たちだってこうなることは予想していなかったんだから」

 シャギルは傾きだした太陽の下、一人で馬に乗って城から駆けていくシンの姿を眺めながら答えた。


 ストーはファニの城に入る前にクロシュの北西の森に立ち寄っていた。ひたひたとクロシュに近づくエモン軍の背後を突くため、そのあたりに兵を潜ませることになっていたからだ。そこへシンが現れたのは、太陽が沈みかかった頃だった。

 まっすぐにストーのところへ向かうシンを、何も知らない兵は城からの伝令だろうと見送ったが、ストーはそれがシン本人だと知るとびっくりしてシンを迎えた。

「シン様、いったいお一人でどうなさったのです? これから城へ行くところでしたのに」

「先生の率いる部隊の様子を見ておきたいと思って。それに、先生も。お体は大丈夫ですか?」

「もちろんですとも」

 ストーはきっぱりと言った。その様子には並々ならぬ決意が感じられる。

「先生、敵の背後を突くといっても、敵を手当たり次第に討ち取ろうとなさらなくても結構です」

 シンは言った。

「それは、どういうことです?」

「深追いして、こちらの損害を増やすこともない、ということです」

「敵に憐れみの気持ちを持てば、ご自身も、また付き従う者も危うくするのですぞ?」

 淡々としたシンの様子に、ストーの語調が厳しくなる。

「そんな気持ちは毛頭ありません」

 シンは自分を見つめるストーに答えた。

「わかっていらっしゃればいいのですが……お忙しい時です。何も、ご自分でいらっしゃらなくとも……」

「ただ体を動かしたかったのです。今、城で僕のすることは無いようだったから」

「そうやって、いつも持ち歩いていらっしゃるのですか?」

 ストーはシンの腰にある剣に目をやった。シンは片時もその剣を離さないように見えた。

「これは隠しておかなくてはならないような宝刀とは違いますから」

 この時、ストーの目に剣の赤い石が光ったように見えた。


 兵の様子を確認すると、シンはストーのもとを離れ、馬を走らせた。何も考えず馬を走らせるのは心地いい。が、間もなく自分を追ってくる蹄の音に気づいた。

(速い)

 聞き慣れた音だった。

「シャギル」

「迎えに来てやったぞ」

「いつから側にいたんだ?」

「お前に気づいたのはついさっきだよ。この辺は戦場になる可能性があるからな。とりあえず下見だ。お前もそうか?」

「ああ、体を動かしたおかげで今夜もよく眠れそうだよ」

 シンは答えた。


 城に戻ったシンにルリが告げた。

「シン、ライゴル軍は予想通りに進んでいるわ」

 その場にいたシャギル、スオウ、ナッド、キアラが頷く。

「では、打ち合わせ通りに」

 シンの言葉にそれぞれが頷き、自分の持ち場に戻った。


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